American Journal of Enology and Viticulture

Volume 60 No.4 (2009)

英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/60/4/411

M.C. Vasconcelos, M. Greven, C.S. Winefield, M.C.T. Trought, and V. Raw: The Flowering Process of Vitis vinifera: A Review. pp. 411-434.
[総説:Vitis viniferaの花芽形成過程]

Vitis viniferaの花芽形成は2シーズンにわたる。巻き ひげと花序は原基または未分化原基として知られて いる共通の起源から発生する。未分化原基の運命は、 サイトカイニン-ジベレリンのバランスに依存して おり、サイトカイニンは花芽形成を促進し、ジベレリ ンはそれを抑制する。高温や光照射は花芽形成の誘導 刺激となる。日長あるいは春化は花芽形成の誘導にあ まり関係ない。陰芽における花序原基の発生は、梢の 周皮が形成されるおよそ1ヶ月前ごろ、2次、3次分枝 が形成した後に止まる。個々の花が分化する前に花序 が更なる分枝を行うとともに、芽は休眠後生育を再開 する。萌芽時期の暖かい気候は更なる花序の分化に適 しており、梢に付く房の数を多くする。一方、この時 期の涼しい気候は、房に付く花の数が多く、梢に付く 房の数が少なくなるように分化させる。環境および栽 培管理もまた、光合成および栄養条件に直接的あるい は間接的に影響を及ぼすことによって、花芽形成に影 響する。樹冠内への光入射を促進する栽培管理は花芽 分化開始に適しており、一方、遮光につながる栽培管 理は花芽分化の開始という点では不利益になる。植物 ホルモンを介した遺伝子の制御下で、花の形成は一連 の連続したステップを通し行われる。第一の遺伝子の 変化は、花芽分裂組織決定遺伝子の活動を通して、異 なった環境および生育シグナルに反応する、栄養成長 から花成への変換スイッチである。第二に、花形態形 成決定遺伝子の活動を通して、花芽原基は各器官の原 基の輪生に模倣される。第三に、花形態形成決定遺伝 子は、異なる花の構造を形成する様々な組織を決定す る下流の効果因子を活性化する。形成された花は両性 花であり、多くは自家受粉されるが、他家受粉も起こ る。受精は雨の多い涼しい気候により妨げられ、乾燥 した暖かい気候により促進される。

英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/60/4/435

A.K. Mansfield and Z.M. Vickers: Characterization of the Aroma of Red Frontenac Table Wines by Descriptive Analysis. pp. 435-441.
[記述分析によるFrontenac種の赤ワインのアロマの 特性決定]

Frontenac(Vitis spp. MN 1047)は低温耐性の赤ワイ ン用ブドウとして近年導入され、米国中西部の北部地 区で最も多く栽培されている品種である。Frontenacは サクランボ、黒スグリ、プラム、スパイスを主要な香 りとして持つと言われてきたが、多くのFrontenac種の ワインでこのような特徴が知覚されるのかを決定する 共通官能特性の構成的評価が行われていない。これら のワインのアロマを表現するための一連の記述子を開 発するために、市販の6つの製品を用いて、記述分析を 行った。ブドウに共通の特性を調べるため、ミネソタ 州のいろいろなワイナリーから異なる製造法で作られ たワインを集めた。ワインを特徴づける13の記述子を 定義した。相関分析をした結果、これらの特性は分離 し、同じ傾向の物は無かった。13のすべての記述子は Frontenacワインを表現・区別するために有用である。

英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/60/4/442

R.R. Villamor, J.F. Harbertson, and C.F. Ross: Influence of Tannin Concentration, Storage Temperature, and Time on Chemical and Sensory Properties of Cabernet Sauvignon and Merlot Wines. pp. 442-449.
[Cabernet SauvignonおよびMerlotワインの化学的お よび官能的特性に与えるタンニン濃度、貯蔵温度、お よび貯蔵期間の影響]

Cabernet SauvignonおよびMerlotの若くビン詰めされ たワインの化学的および官能的特性に影響を与えると 考えられる貯蔵条件について試験を行った。低濃度 (400 mg/L以下)および高濃度(800 mg/L以上)のタ ンニン濃度のワインを23℃で0日間を基準として、27℃ または32℃で40、55および70日貯蔵し、化学分析およ び官能分析を行った。低タンニンおよび高タンニンワ インともに、32℃の貯蔵により低分子ポリマー色素 (SPP)が有意に増え(p?0.05)、アントシアニンは終 始減少した。この傾向はCabernet Sauvignonで顕著であ った。両品種とも、高タンニンワインは高分子ポリマ ー色素(LPP)が低タンニンワインより有意に多かっ た(p?0.05)。一般的には、滴定酸度とpHは貯蔵処理 に影響を受けなかった。訓練したパネル(21名)によ り官能試験をした結果、両品種において高タンニンワ インでは収斂みが低タンニンワインより強く、この結 果は一貫して認められた。32℃で70日間貯蔵した場合、 苦味が増加したが、アルコールの焼けるような感覚は 同程度であった。Merlotでは苦味とアルコールの焼け る感覚に有意差は認められなかった。以上の結果より、 貯蔵温度と貯蔵時間は、熟成ワインに特徴的な化合物 の組成に影響を与えるが、収斂みには影響を与えない。 Cabernet Sauvignonではタンニンの濃度は収斂みに正 の相関(r = 0.882)を示したが、SPPやLPPは両品種と も収斂みとの相関は低かった。

英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/60/4/450

J.F. Harbertson, M.S. Mireles, E.D. Harwood, K.M. Weller, and C.F. Ross: Chemical and Sensory Effects of Saignee, Water Addition, and Extended Maceration on High Brix Must. pp. 450-460.
[高糖度マストに対するセニエ、加水、かもし延長が 化学的および官能的特性に与える影響]

単一圃場から収穫したMerlot(11,209 kg/ha、ワシン トン州コロンビア川地区)(28 Brix)を用いて5つのワ イン醸造法を用いてワインを製造した。(1)高糖度マ ストを補正するために24.3 Brixまで加水(コントロー ル)、(2)26.8 Brixまで加水(高エタノール)、(3)全 量に対して16%までセニエ(果汁除去)後、等量の加 水(最終24.1 Brix)(低セニエ)、(4)低セニエ処理後 20日間のかもし延長(低セニエ-EM)、(5)32%までセ ニエし、24.3 Brixまで加水(高セニエ)。全ての処理は 企業設備の18,972 Lの発酵槽で反復で行った。処理間 でアントシアニン、ポリマー色素(低分子および高分 子)、タンニン、全鉄反応性フェノール化合物の違いが みられた。標準的な加水(control)と低セニエ処理で は同程度のタンニン、アントシアニン、ポリマー色素 の抽出が見られた。アントシアニン、タンニン、高分 子ポリマー色素の抽出量は多量の果汁を除去した区分 (高セニエ)とかもしを延長した区分で有意に増加し た。これらの結果から果皮や種子から抽出されるタン ニンの比率はワイン製造の処理によって異なることが 示された。低セニエ-EMでは、他の処理に比べ種子の 抽出率が上がり、訓練したパネルによる官能検査では、 スムースさに欠け他の処理よりもドライであった。高 エタノールワインはフレッシュな果実香が有意に失わ れ、「熱い」感覚が増加した。

英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/60/4/461

J.P. Smith and B.P. Holzapfel: Cumulative Responses of Semillon Grapevines to Late Season Perturbation of Carbohydrate Reserve Status. pp. 461-470.
[シーズン後半での炭水化物貯蔵状態の変化に対す るセミヨンの累積反応]

オーストラリア、ニューサウスウェルズの温暖な内 陸部2箇所の4地点において、成熟開始時の摘房あるい は収穫時での完全除葉に対する炭水化物貯蔵、シーズ ン内の成長および次シーズンでの生育を検討した。2 シーズン連続した早期の摘房は、木質部での減少に対 し、根の非構造性炭水化物を増加し、結果として、房 を収穫時まで付けておいた3シーズン目の収量は60% まで増加した。対して、収穫時の除葉は非構造性炭水 化物の濃度を減少させ、除葉処理した次シーズンの収 量は22%、2シーズン後の収量は50%まで減少した。早 期の摘房で得られた高収量は、萌芽から収穫間の炭水 化物貯蔵量の枯渇と相関が認められ、収穫後まで貯蔵 量の回復は起こらなかった。しかしながら、除葉によ る低収量のブドウ樹においては、果実の成熟前に炭水 化物貯蔵量が回復した。これらの結果は、成熟した果 実の炭素要求および収穫後の光同化能は、前シーズン の炭素レベルに対する炭水化物貯蔵量の回復を限定す ることが出来ることを示唆する。試験地点における永 年組織中の非構造性炭水化物量の著しい違いや花芽形 成、栄養成長の状況の相違は、水分欠乏によるものと 思われた。炭水化物貯蔵と果実および梢の生育との相 関関係は、環境要因あるいは栽培要因によりブドウ樹 は乱されると、炭水化物を同化し、貯蔵能により決め られた量まで炭水化物を回復するフィードバック制御 機構が存在することを示唆する。

英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/60/4/471

R.J. Elias, M.L. Andersen, L.H. Skibsted, and A.L. Waterhouse: Key Factors Affecting Radical Formation in Wine Studied by Spin Trapping and EPR Spectroscopy. pp. 471-476.
[スピントラップおよびEPRスペクトル分析による ワイン中のラジカル生成に影響を与える主要因子決 定]

ワインの非酵素的酸化は官能特性に大きな影響を 与え、従って品質に影響する。長い間ワインの酸化に 関する研究が行われてきたが、ごく最近になって、ワ イン熟成中のラジカル中間体の役割が重要視されるよ うになった。本研究ではフリーラジカルの生成および 抑制に対する種々のワイン成分の影響を検討した。実 際のワインの系で生成する主要なラジカル種に対して、 その生成の検出、定性、影響を与える要因の特定には 電子常磁性共鳴(EPR)スピントラップ法を用いた。 全ての実験及び処理において、1-hydroxyethyl radicalの スピンアダクトだけが検出され、Fenton反応(ヒドロ キシルラジカルの生成とこれに続くエタノールの酸 化)がワインの酸化における主要なルートであること が示唆された。鉄、銅およびこれら両方を赤ワインに 添加した場合、スピンアダクトが著しく増え、極微量 の金属がワインの酸化の触媒に必須であることが示さ れた。亜硫酸を過剰に含む白ワインへカテキンを添加 した場合、ラジカル生成の初期速度は変化しなかった が、実験の後半において助酸化(prooxidative)的であ った。亜硫酸は濃度依存的にラジカル生成を阻害した。

英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/60/4/477

M.S. Cabeza, M.G. Merin, M.C. Martin, D.C. Sabate, M.C. Audisio, and V.I. Morata de Ambrosini: Effect of a Pectinase-Surfactin Preparation on Extraction of Pigments and Total Polyphenol from Malbec Grape Skins. pp. 477-483.
[Malbecブドウ果皮からの色素および全ポリフェノ ール抽出におけるペクチナーゼ- Surfactin処理の影 響]

Malbecブドウ果皮の短時間かもし期間中に、Bacillus sp. SC-H由来のペクチナーゼを作用させ、アントシア ニン類、他の色素類、全ポリフェノール類を抽出した 場合について、Bacillus subtilis C4由来のsurfactinの添加 効果を調べた。発酵前抽出として、エタノールを含ま ない抽出液で、果肉および種子を含まない果皮を2時間 抽出した。色調は三刺激比色分析計、従来のインデッ クス(カラーインデックス、色調、全ポリフェノール 濃度)とHPLCによるアントシアニン類の分析で測定 した。カラーインデックスは通常の分析では2.878 ± 0.281であったが、ペクチナーゼに0.095% surfactinを加 えた場合5.500 ± 0.107へ、ペクチナーゼに0.286% surfactinを加えた場合は6.036 ± 1.013へと増加した。全 ポリフェノール濃度は、通常の抽出では555.77 ± 5.00 mg GAE/Lであったが、前述の条件ではそれぞれ769.71 ± 38.21 mg GAE/Lと769.05 ± 8.40 mg GAE/Lへと増加し た。アントシアニン関連物質(特に赤ワインの色を決 定する主要な色素であるmalvidin誘導体)はブドウ果 皮から速やかに遊離した。酵素処理および酵素処理+ surfactin 処理により、Malvidin-3-glucosideは10%およ び15%、malvidin-3-acetyl-glucosideはそれぞれ21%およ び29%、それぞれ増加した。色差計の分析では、赤色 色素は通常の抽出より向上し、抽出液は濃く、より鮮 明な色調となり、surfactin濃度が高い場合に最高値とな った。ブドウ果皮の短期抽出の場合、酵素とsurfactin の同時使用は、インデックスとアントシアニン濃度を 促進した。しかし、全果粒やワイン製造条件での効果 についても実験する必要がある。ワイン製造のための 新規な技術として、赤ワインのかもしにおけるペクチ ナーゼ- surfactin複合使用を提唱するには、さらに実験 が必要である。

英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/60/4/484

A. Nogales, J. Luque, V. Estaun, A. Camprubi, F. Garcia-Figueres, and C. Calvet: Differential Growth of Mycorrhizal Field-Inoculated Grapevine Rootstocks in Two Replant Soils. pp. 484-489.
[連作土壌2箇所における菌根菌接種ブドウ台木の異 なる成長]

スペイン北東部の地中海近辺の連作土壌2箇所にお いて、カベルネ・ソーヴィニヨンを接ぎ木した台木 161-49 Couderc (Vitis riparia Michx.×Vitis berlandieri Planch.) および140 Ruggeri (Vitis rupestris L. × V. berlandieri)の菌根菌接種の評価を行った。1番目の土壌 (ブドウ畑1)は10年間鋤き込みを行ってきた。2番目 の土壌(ブドウ畑2)は新しい植栽の前に1年間栽培さ れ、ならたけ病Armillaria mellea (Vahl:Fr.) P. Kummに 犯されていた。植栽の前に土壌に存在する菌根菌の数 は、ブドウ畑1で土壌100 mL中1であり、ブドウ畑2で は検出されなかった。各台木の半分のブドウ樹にアー バスキュラー菌根菌Glomus intraradices Schenck and Smith (BEG 72)を接種した。ブドウ畑2において、G. intraradicesがコロニー形成を行うThymus vulgaris L(. タ イム)およびLavandula officinalis Mill.(ラベンダー) を2列植える前に、菌根菌を土壌にも接種した。ブドウ 畑1の140 Ruggeriの生育には、植栽後19ヵ月経った2年 目の生育シーズン末に直接土壌接種による有益な影響 が認められた。接種を行った161-49 Coudercのバイオマ スはブドウ畑2で増加したが、ブドウ畑1では増加しな かった。菌根菌を有する植物を先に植栽することによ り、連作土壌の菌根菌の能力は高まった。アーバスキ ュラー菌根菌接種に対するブドウ樹の反応は、ブドウ 畑の内在的状態や、台木の種類、植栽後の期間によっ て影響を受けるようである。

英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/60/4/490

K. Fujita, M. Shimazaki, T. Furiya, T. Takayanagi, and S. Suzuki: Genetic Variation among Koshu (Vitis vinifera L.) Accessions Generated by Retrotransposon Insertion into Genome. pp. 490-496.
[ゲノム内へのレトロトランスポゾン挿入により生 じた甲州ブドウ樹間の遺伝的相違]

甲州ブドウは日本に土着した品種であり、日本では 白ワイン醸造用品種として栽培される。収量、果実形 質、形態的特徴、そして遺伝的相違による甲州ブドウ 樹の分類は機能的になされていない。我々は、栽培地 の異なる甲州ブドウ樹間に遺伝的相違が存在すること をここに報告する。inter-retrotransposon amplified polymorphism(IRAP)法のため、8種類のレトロエレ メントを選択し、16種のレトロトランスポゾン特異的 PCRプライマーを作製した。136のプライマー組み合わ せにより、731のPCR増幅バンドを得た。そのうち、24 のプライマー組み合わせから増幅された35のPCR増幅 バンドで甲州ブドウ樹間に差が認められた。同じブド ウ樹から継いだブドウ樹では、そのような差は認めら れなかった。この方法により得られたPCR増幅バンド パターンを解析した結果、調査した甲州ブドウ樹は3 つの遺伝的グループに分類されるようであった。この 結果は、甲州ブドウ樹間には遺伝的な違いが存在し、 その相違はゲノム内のレトロトランスポゾン挿入の違 いにより生じることを示している。

英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/60/4/497

J.R. Urbez-Torres, P. Adams, J. Kamas, and W.D. Gubler: Identification, Incidence, and Pathogenicity of Fungal Species Associated with Grapevine Dieback in Texas. pp. 497-507.
[テキサスで確認されたブドウ立ち枯れ病と相関す るカビの同定、発生率および病原性]

ブドウの胴枯れおよび立ち枯れはテキサスのブド ウ畑でよく確認される。しかし、テキサスでブドウの 胴枯れを引き起こす病原体の同定報告はなされていな い。2007年から2008年の間に、テキサスの45のブドウ 畑から胴枯れの初期症状を示す試料を回収し、カビの 同定を行った。Lasiodiplodia theobromae、Botryosphaeria dothidea、Neofusicoccum parvum、Diplodia seriata、 Diplodia corticola、Phomopsis viticola、Eutypella vitis、 Diatrypella sp.、Truncatella sp.、Pestalotiopsis uvicola、 Pestalotiopsis sp.の11種のカビがブドウ胴枯れ病を示す 試料から分離され、形態的特徴およびリボゾーマル DNA配列(ITS1-5.8S-ITS2領域)から同定された。 Botryosphaeriaceae spp.はテキサスのブドウ立ち枯れか ら最も分離されたカビであり、次はPestalotiopsis spp.、 P. viticola、Diatrypaceae spp.であった。実験室の条件下 において、レッドグローブ、カベルネ・ソーヴィニヨ ンのリグニン化した梢にカビを接種することにより、 すべての種の病原性を検定した。L. theobromaeおよび N. parvumは、維管束に形成された壊死部分の大きさお よび再分離率にもとづき、最も病原性が高かいと判断 された。L. theobromaeおよびN. parvumの病原性に次ぐ P. viticolaは成熟した梢内でコロニー形成を行い、維管 束の壊死を引き起こした。E. vitisおよびDiatrypella sp. もまた少なくともブドウ樹に対する病原性を有してい た。これらすべての種はテキサスのブドウでは新しく 報告された病原菌である。さらに、ブドウ樹とD. corticolaの関係も報告する。

英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/60/4/508

B. Bach, F.X. Sauvage, S. Dequin, and C. Camarasa: Role of γ-Aminobutyric Acid as a Source of Nitrogen and Succinate in Wine. pp. 508-516.
[ワインの窒素およびコハク酸源としてのγ-アミノ酪 酸(GABA)の役割]

Saccharomyces cerevisiaeは非タンパク性のアミノ酸 であり、ブドウ果汁中に存在する窒素源の一つである γ-アミノ酪酸(GABA)を資化することが可能である。 ワイン製造における酵母の発酵機序および副生成物生 成の観点から本アミノ酸の効果について研究した。 GABAのマスト中の濃度は、ブドウの品種差、年、地 理的な違いにより、2~580 mg/Lの違いがある。γ-アミ ノ酸濃度は、果汁中の資化性窒素の20%以上になると 考えられる。市販のワイン酵母は、ワイン発酵の際、 外因性のGABAを資化する能力を十分に有している。 窒素が律速になる場合は、γ-アミノ酸の資化率は酵母 の成長、発酵速度、グリセロールの生成に伴って増加 した。本結果より、マストの窒素含量とは関係なく、 GABAはワインのコハク酸源となることが示された。 発酵中、コハク酸は還元的および酸化的なTCA回路に より糖から主として生産される。GABAからのコハク 酸の生成率は、酵母の遺伝的機能により0.75~1 molコ ハク酸/mol GABAであった。ブドウ果汁中の初期濃度 に依存し、50%以上のコハク酸がGABA由来と考えら れた。この結果は、GABAの代謝に関する新規な知見 を与えるものであり、ワインの酸度の制御性を向上さ せる可能性がある。

英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/60/4/517

P.C.S. Leao, S. Riaz, R. Graziani, G.S. Dangl, S.Y. Motoike, and M.A. Walker: Characterization of a Brazilian Grape Germplasm Collection Using Microsatellite Markers. pp. 517-524.
[マイクロサテライトマーカーを用いたブラジルの ブドウ生殖質コレクションの特徴]

7つのSSR遺伝子座、VVS2、VVMD5、VVMD7、 VVMD27、VVMD31、VrZAG62およびVrZAG79を用 いて、ブラジルのEmbrapa Semi-Aridoで保存している 221のブドウ生殖質コレクションを検定した。これらの うち、187のブドウは3つのグループに分類できる対立 遺伝子座を持っていた。グループ1は、正確に同定でき る86のブドウから構成されていた。グループ2は正確に は明らかではないが、参考とする品種に適合した30の ブドウから構成された。グループ3は、如何なる参考品 種にも適合しない71のブドウから構成された。グルー プ3は、国際的に有効な参考品種に適合しない11のブド ウと、参考となるものが存在しない60のブドウから構 成された。グループ3のSSR遺伝子座は、参考品種とし て役に立つかもしれない。グループ3に属する19のブド ウで報告されている親品種のSSR遺伝子座を検討した 結果、6つのブドウは正しいことが確認された。これら の結果は、重要なブラジル品種のグループ確認用とし て、今後役に立つであろう。

英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/60/4/525

A.M. Vargas, M.T. de Andres, J. Borrego, and J. Ibanez: Pedigrees of Fifty Table-Grape Cultivars. pp. 525-532.
[テーブルブドウ50品種の系統]

優れたテーブルブドウの起源に関する情報は育種 を行う上で必要である。25個の核マイクロサテライト 遺伝子座と5個の葉緑体マイクロサテライト遺伝子座 にもとづき、テーブルブドウの親子鑑定を行った。50 品種の系統関係を分析し、必要ならば、形態学的分析 も行った。葉緑体遺伝子座は大半の交雑を明らかにで きた一方、尤度比は推定された交雑において高い信頼 性を示した。19の新しい系統、例えばCirce、Imperial Roja、Misket Vratchanskii、Mistress Hall、Pizzutello Nero は、高く隔離された地理的条件から品種として提案さ れている。Delizia di Vaprio、Madeleine Angevineを含む 以前に報告された13品種の系統内では、間違いも確認 された。これら13品種の片親もまた同定された。残り の18品種では、以前提唱された系統関係が確認された。 Muscat of Alexandria、Afus Ali、Muscat Hamburg、 Chasselasはこれらの50品種の中で最も頻出する親であ った。

英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/60/4/533

RESEARCH NOTE:
M.W. Fidelibus, L.P. Christensen, D.A. Golino, N.L. Sweet, and K.A. Cathline: Yield Components and Fruit Composition of Five Barbera Grapevine Selections in the San Joaquin Valley, California. pp. 533-536.
[カリフォルニア州サンホアキンバレーにおける5つ のバルベーラ系統の収量構成要素および果実成分]

カリフォルニア州フレスノにおいて、カリフォルニ ア大学デイビス校Foundation Plant Services(FPS)から 提供されたバルベーラ(Vitis vinifera)系統の評価を行 った。2000年夏に、バルベーラ系統FRP02、FRP03、 FRP04、FRP05、FRP06のポッド苗木を植栽し、2003 年から2006年までの間、果実収量と成分を年次ごとに 分析した。FRP02は果実成分、収量構成要素という点 では、他の系統と同じであったが、果粒重量は他の系 統に比べ、10-25%重かった。FRP02の大きな果粒は房 をコンパクトにした一方で、白かび病の発生率が他の 系統に比べ2から3倍高くなる年もあった。FRP02、 FRP05は同じ親木から得られたものであり、同じよう な分析結果であった。それら系統の果実成分は他の系 統とも類似していたが、試験した系統の中で最も収量 が高く、白かび病に対する感受性も中程度であった。 FRP04は、試験を行った4年間のうち2年間で収量が低 かったことを除けば、FRP03、FRP05と同様な分析結 果を示した。FRP06は全く異なっており、早熟、小さ い果粒、低収量、剪定枝量比での収量の低さ、白かび 病に対する低感受性を示した。

英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/60/4/537

RESEARCH NOTE:
M.S. Dahabieh, J.I. Husnik, and H.J.J. van Vuuren: Functional Expression of the DUR3 Gene in a Wine Yeast Strain to Minimize Ethyl Carbamate in Chardonnay Wine. pp. 537-541.
[シャルドネワインにおいてEthyl Carbamate(EC) 生成を抑制するためのワイン酵母株のDUR3遺伝子の 機能発現]

アルコール発酵中、Saccharomyces cerevisiaeはアルギ ニンをオルニチンと尿素へ代謝する。尿素はワイン酵 母により代謝可能であるが、ブドウマスト中に良い窒 素源があれば、尿素の取り込みおよび代謝のための遺 伝子の転写抑制がかかる。結果として、尿素は細胞外 に排出され、ワイン中のエタノールと反応し、発がん 性のEC を生成する。ワイン酵母UC Davis 522 (Montrachet)のDUR1,2遺伝子を構成的に発現すると、 シャルドネワイン中でのEC濃度を89%減少させる。非 尿素分解性酵母によって発酵中のブドウマストに分泌 される尿素を再吸着するために、S. cerevisiae PGK1の プロモーターと終結シグナルによる制御化でDUR3遺 伝子を構成発現させ、このカセットをS. cerevisiae株522 のTRP1座に組込んだ。尿素取込み株522DUR3はシャル ドネワインにおいてECを81%下げ、高濃度尿素含有マ ストにおいて、尿素分解型株22DUR1,2の約4倍効果的に ECを削減した。

英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/60/4/542

TECHNICAL BRIEF:
M.D. Wheatley, E.A.R. Tattersall, R.L. Tillett, and G.R. Cramer: An Expanded Clay Pebble, Continuous Recirculating Drip System for Viable Long-Term Hydroponic Grapevine Culture. pp. 542-549.
[長期生存可能なブドウ水耕栽培のためのハイドロ ボールおよび循環型灌水システム]

通気溶液栽培で1ヵ月以上ブドウ樹を栽培した結果、 栄養欠乏症状が認められた。溶液中の病原体あるいは 栄養分濃度に関する問題を取り除いた後、我々は、酸 素の拡散が限られているために、根が低酸素状態に陥 ると仮説を立てた。正確な栄養分調整、水ポテンシャ ル、十分に排水される土壌を提供可能な循環型灌水シ ステムを設計した。循環型灌水システムで37日間栽培 したカベルネ・ソーヴィニヨン2年苗は生育旺盛であり、 健全であった。対して、通気溶液栽培で育てたブドウ 樹は元気がなく、葉に栄養欠乏症状と根の劣変が認め られた。通気溶液栽培の光合成、光化学系IIの機能、 気孔伝導度は、循環型灌水システムに比べ減少した。 低酸素状態で誘導される2 つの遺伝子、alcohol dehydrogenase IIおよびa-amylaseの転写産物量は、通気 溶液栽培で6日後にゆっくりと上昇したが、循環型灌水 システムではこれら遺伝子産物量の増加は認められな かった。これらの結果は、木質の根を持つ成熟したブ ドウ樹は、通気溶液栽培ではゆっくりと且つ慢性的に 低酸素ストレスを受けることを示唆する。対して、循 環型灌水システムで育てられたブドウ樹には低酸素症 状は認められなかった。このように、循環型灌水シス テムはグリーンハウス内でブドウ樹を長期的に栽培す るためのシステムであり、十分に排水される土壌によ く似た条件で、非生物的ストレス負荷試験や根のサン プリングが容易であるという優位性を有している。

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