American Journal of Enology and Viticulture
Volume 62, No.4 (2011)
英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/62/4/413
Z. W. Dai, N. Ollat, E. Gomès, S. Decroocq, J.-P. Tandonnet, L. Bordenave, P. Pieri, G. Hilbert, C. Kappel, C. van Leeuwen, P. Vivin, and S. Delrot
Ecophysiological, Genetic, and Molecular Causes of Variation in Grape Berry Weight and Composition
pp. 413-425
[ブドウ果粒重と組成の変異における生理生態学的、遺伝学的および分子生物学的要因:総説]
果粒重および組成は遺伝子型、環境要因、および栽培操作の間の複雑な相互作用の制御下にある。それらは果粒の形質における平均値だけでなく変異の幅に影響する。果粒組成における平均値と変異の幅は果粒の品質とその結果としてのワインの固有性(Typicity)に影響する。この総説では近年の生理生態学、遺伝学および分子生物学的知見を果粒重と組成の変異に影響するメカニズムをよりよく理解するために適用する。我々は特にブドウ属の遺伝子型、ある品種の変異の原因となる環境要因および栽培操作、遺伝的変異の基礎となる遺伝学的手がかり、および果粒重と組成を制御すると推定される遺伝子の間の果粒重と組成(糖、有機酸およびアントシアニンを含む)における変異について考察する。異なる環境および栽培操作の間の果粒形質の平均値の差異を比較する多数の研究があるけれども、それらの要因に対する反応の変動レベルについて探求した研究はほんのわずかである。現在の遺伝学的および分子生物学的研究はおもに果粒重と組成の制御に関わる遺伝子の同定に焦点が当てられているが、その発現に影響する環境要因に対する考慮を伴うものはほとんどない。将来的には果粒重と組成の変異の原因に深い洞察を得ようとする生理生態学的アプローチを遺伝学と分子生物学的な研究に統合する方向に向かうべきであろう。
英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/62/1/9
D. B. Terry and S. K. Kurtural
Effects of Irrigation and Crop Load on Leaf Gas Exchange and Fruit Composition in Red Winegrapes Grown on a Loamy Sand
pp. 9-22
[機械的樹冠管理と潅水制限によるシラーの樹体バランスの達成]
シラーの樹冠構造、収量構成要素、果実組成および樹勢について4種のキャノピー・マネジメント(樹冠管理)と3種の潅水制限処理(RDI)において調査した。対照区(HP)は2芽の短果枝(spur)を22本残すように休眠期に手剪定を行った以外は枝管理をしなかった。他の処理は10 cmに刈り揃える機械剪定と列の30 cm当たり5 (CLL) あるいは7 (CLM)新梢ずつの密度に機械で芽かきするか、同様の剪定法で芽かきをしない区(CLH)を設けた。潅水処理の対照区(RDIC)は着果から収穫まで条発散量の70%量を潅水した。他の潅水処理のブドウ樹については、ベレゾンまで蒸発散量の70%、以降収穫までは50%とする区(RDIL)と着果からベレゾンまでを50%とし、ベレゾン後を70%とする区(RDIE)を設けた。2年間の平均から、新梢の機械剪定(CLM)は全新梢の25%を除去し、主枝(cordon)上の新梢が4.6 cm間隔、すなわち70,600新梢 / haとなり、言い換えれば4重の葉群層で葉面積12.6 m2となった。CLMとRDIEの組み合わせはHPに比べ収量を減ずることなく果粒重を低下させ、収量は21.5 t・ha-1であった。CLMとRDIEの組み合わせは剪定重1 kgあたり9.9 kgの着果負担と葉果比0.75 m2・kg-1で樹体のバランスをとる必要がある。この研究でRDIと組み合わせた樹冠管理法が機械化により投入コストを削減し、持続的生産をもたらす樹体のバランスを伴ったうえで果粒組成を高めるということを認めた。
英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/62/1/23
J. E. Oliver and M. Fuchs
Powdery Mildew Severity as a Function of Canopy Density: Associated Impacts on Sunlight Penetration and Spray Coverage
pp. 23-31
[樹冠密度の関数としてのうどんこ病の発病度:日光の透過とスプレー到達範囲への関連した影響]
ニューヨーク州、ワシントン州そして南オーストラリアにおいて、樹冠密度の変動とそれに関連した果房上の果実ゾーン内の日光分布の差異を測定し、ブドウ園内の変動するうどんこ病の発病度と関連付けた。樹冠密度はエンハンスポイント方形区分(EPQA)により測定した。それぞれのブドウ樹の果実ゾーン内の遮光層の数と光流入量は、日光をより多く照射した果房で病気が少ないことを示した。果房を強く遮光(10%以下の光合成光量)、中くらいに日光を照射、十分に日光を照射(51%以上の光合成光量)というカテゴリーで分けた時、最も病気の少ないブドウ樹では、最もうどんこ病評点の高いブドウ樹に比べて、十分日光を照射した果房の比率が有意に大きかった。したがって、これら後者のブドウ樹は、有意により強く遮光された果房を持っていた。成長期に可溶性イオウ剤を隔週で2 kg/haまたは9 kg/ha散布した場合でも、その相関は強く、関係は直線的であった。さらに、蛍光トレーサーの使用とEPQA評価を通して、果房上のスプレー剤の堆積は、照射のレベルと直線的に関連していた。したがって、果実の品質に対してブドウの日光照射を最適化する樹冠管理は、うどんこ病の管理においても有意に助力するだろう。
英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/62/1/32
Q. Sun, G. Sacks, S. Lerch, and J.E. Vanden Heuvel
Impact of Shoot Thinning and Harvest Date on Yield Components, Fruit Composition, and Wine Quality of Marechal Foch
pp. 32-41
[新梢間引きと収穫日がマレシャル・フォッシュブドウの収穫構成、果実成分、ワイン品質に与える影響]
マレシャル・フォッシュブドウ樹を2年間(2007と2008)、2つの収穫日(早い収穫と遅い収穫)と組み合わせて新梢間引き(列のメーターあたり15新梢以下と間引き剪定非実施)を実施した。間引き剪定を行った場合、収量はブドウ樹あたり3.1~7.2 kg減少し、果房はブドウ樹あたり59果房まで減少した。一方、果粒質量は0.03~0.09 g増加した。間引き剪定は剪定質量のkgあたり4.3~7.8 kg の収量で作物荷重を低減し、2008年において可溶成分を0.7~1.2 Brix増加させた。間引き剪定は果粒アントシアニンをmalvidin-3-glucoside 換算で1.25~2.24 mg/g(フレッシュ果皮質量)増加させたが、ワインアントシアニンにおいて相応する増加は見られなかった。遅い収穫は、可溶成分(0.5~2.3 Brix)と果粒アントシアニン(0.32~1.48 mg/g)を増加させ、完成したワインのアントシアニンを有意に高くした。遅い収穫と間引き剪定処理は、完成したワインの6炭素アルコールを減少させた(3~33%)。フォッシュ果実のタンニンの総濃度は、いくつかのビニフェラ種のそれに類似していた(0.75~1.05 mg/果粒、カテキン換算)。しかし、ワイン製造中のタンニンの抽出性は、ほとんどのビニフェラ種に比べて大変低く(2~4%)、おそらく低い果皮タンニン濃度によることが一因であろう。二者択一試験で、パネリストは、遅い収穫の2008年ワインが早く収穫したワインに比べて(各処理ごとに比較すると)より「フルーティー《で、間引き剪定はフルーティーさに影響しないことを報告した。
英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/62/1/42
J.A. Cabrera, D. Wang, S.M. Schneider, and B.D. Hanson
Effect of Methyl Bromide Alternatives on Plant Parasitic Nematodes and Grape Yield under Vineyard Replant Conditions
pp. 42-48
[ブドウ園の椊替え状況下での椊物寄生線虫とブドウ収量におよぼす臭化メチルに代わるものの効果]
椊付け前の燻蒸剤と線虫耐性台木を、ブドウ園の椊替え状況下における臭化メチルに代わるものとして評価した。燻蒸2ヵ月後に、自根のトンプソン・シードレス、1103パウルゼン台木のメルロー、フリーダム台木のトンプソン・シードレスを定椊した。調査の結果、1,3-ジクロロプロペン+クロロピクリン(578 kg/haシャンク注入)、ヨードメタン+クロロピクリン(515 kg/haシャンク注入または448 kg/haドリップ添加)、臭化プロパギル(221 kg/haシャンク注入または207 kg/haドリップ添加)は、臭化メチル(507 kg/haシャンク注入)と同様に、8年間の評価期間を通して、ねこぶ線虫 (Meloidogyne spp.) と柑橘根線虫 (Tylenchulus semipenetrans)を広くコントロールすることが明らかになった。アジ化ナトリウム(336kg/haドリップ添加に続いて防水キャップまたはシート)、メタムナトリウム(ミクロスプレースプリンクラーで124kg/ha散布)、クロロピクリン単独(448 kg/haドリップ添加)は、より少ない効果であった。全般に、線虫コントロールにおける燻蒸剤の効果は自根のトンプソン・シードレスで大変明白であった。1103P台木は、最初の3~4年の間、線虫の個体数が復元する前まで、ねこぶ線虫と柑橘根線虫それぞれに対して部分的に耐性であった。フリーダム台木は、8年間の評価を通して高度に耐性であることが立証され、ねこぶ線虫の個体数を低く保った。しかし、定椊前の燻蒸は柑橘根線虫が存在するブドウ園では、なお必要であると思われる。臭化プロパギルの使用とメルローの1103P台木への接ぎ木は、臭化メチルに類似したブドウ収穫量となる唯一の燻蒸と台木の組み合わせであった。しかし、この効果は、果実生産の最初の4年間のみ観察された。他の燻蒸剤と栽培種の組み合わせは、非処理のコントロールに比べて収量の差異を生じなかった。
英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/62/1/49
L. Rolle, S. Giacosa, V. Gerbi, and V. Novello
Comparative Study of Texture Properties, Color Characteristics, and Chemical Composition of Ten White Table-Grape Varieties
pp. 49-56
[10テーブルブドウ品種のテクスチャー特性、色調そして化学組成の比較研究]
10テーブルブドウ品種(Delizia del Vaprio, Matilde, Moscato di Terracina, Panse precoce, Pizzutello bianco, Regina, Regina dei vigneti, Sublima seedless, Sultanina (またはThompson Seedless))そしてVincereのテクスチャー、色そして化学的特徴を比較した。テーブルブドウに対する消費者の受け入れは、栽培種に影響される視覚的な特徴、化学成分、栄養価、機械的特性そして明らかにセンサリー特性などの要因に依存する。調査した栽培種の間の顕著な違いはCIRG(赤ブドウのカラーインデックス)、可溶成分、リンゴ酸、ヒドロキシシンナム酸そして総ポリフェノール量において見られた。しかし、テクスチャープロフィール分析により測定される果粒の機械的パラメーターと穴あけテストにより評価される果皮特性が、品種の区別に最も重要な性質であった。特に、PCA分析は、硬さ、粘着性、咀嚼性、果皮破断力、果皮破断エネルギーそして果皮の弾性のヤング率が品種を特徴づける最もよい指標であることを示した。これらの結果は、ブドウ栽培と収穫後の専門家がそれぞれの品種の性質を確認し、消費者市場へより適切に応答することを助けるだろう。
英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/62/1/57
A. Baiano, E. La Notte, A. Coletta, C. Terracone, and D. Antonacci
Effects of Irrigation Volume and Nitrogen Fertilization on Redglobe and Michele Palieri Table-Grape Cultivars
pp. 57-65
[レッドグローブおよびミケーレ・パリエリに及ぼす灌漑量および窒素施肥量の影響]
レッドグローブおよびミケーレ・パリエリの収量、品質およびセンサリー評価に及ぼす水管理および窒素施肥の影響を検討した。2つの灌漑量(1ヘクタールあたり1000および2000立方メートル)および2つの窒素施肥量(1ヘクタールあたり120および180キログラム)を設定した。これらのパラメーターの影響は品種依存的であった。レッドグローブでは、灌漑の結果、可溶性固形物および滴定酸度の有意な増加が認められた一方、圧縮や貫入に対する果実の抵抗性が有意に低下した。窒素施肥量の増加は、滴定酸度の増加および圧縮に対する抵抗性の低下のみに影響した。2つの栽培管理間の相関関係は、可溶性固形物、pHおよび圧縮に対する抵抗性で認められた。ミケーレ・パリエリでは、灌漑量を増加することにより、可溶性固形物の減少および貫入に対する抵抗性の低下および圧縮に対する抵抗性の増加が確認された。高窒素施肥は果粒重の減少を引き起こしたが、可溶性固形物は増加され、機械的ストレスに対する抵抗性も上昇した。相互作用の影響は収量、房重、滴定酸度および貫入に対する抵抗性で明らかであった。物理的/化学的パラメーターとセンサリー評価との間で有意な相関関係が得られなかった理由は、栽培管理法によって誘導される果実品質および物理的強度の変化は訓練された評価者が感じない程度であったからであろう。
英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/62/1/66
B. Hall, D.M. Durall, and G. Stanley
Population Dynamics of Saccharomyces cerevisiae during Spontaneous Fermentation at a British Columbia Winery
pp. 66-72
[British Columbiaワイナリーにおける自然発酵中のS. cerevisiaeの動態]
自然発酵では自生のS. cerevisiae株の多様性が影響を与えると考えられる。株の多様性が大きい場合、ワインに独特の特徴を与え、官能特性を強調する。発酵中の市販乾燥酵母(ADY)と自生株の貢献度を調べるため、カナダBritish ColumbiaのKelownaのワイナリーで、自然発酵させたPinot noirワインのS. cerevisiae株の個体群動態を調べた。原料ブドウは別々に収穫・処理・発酵させた。ブドウ着生酵母は分離後培地にプレーティングした。発酵初期、中期、後期に発酵タンクからサンプリングを行った。そして各ステージで酵母株を培地上で分離した。酵母株からDNAを抽出し、6種のマイクロサテライト用のプライマーを使って増幅した。得られた結果は、ワイナリーにより予め提供された市販ADYも含めたDNA fingerprintと比較した。発酵タンクから分離した株は、全てADY株と近接しているか、あるいは同一の株であった。発酵初期より中期・後期のほうが菌株が多様な傾向が見られた。Lalvin ICV D254/Fermol Premier CruおよびRed Star Premier Cuveeが中期・後期で主要な株であった。前者は発酵中期および後期において全てのタンクにおいて見られた唯一の菌株であった。ADY株であるFermol Arome-Plusがブドウおよび自然発酵の両方から検出された。この株は長年、ワイナリーとブドウ畑の毎年のサイクルで存続されてきた土着株であると考えられる。
英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/62/1/73
Y.S. Devarajan, B.W. Zoecklein, K. Mallikarjunan, and D.M. Gardner
Electronic Nose Evaluation of the Effects of Canopy Side on Cabernet franc (Vitis vinifera L.) Grape and Wine Volatiles
pp. 73-80
[Cabernet francブドウおよびワインの揮発性成分の電気ニオイ分析による樹冠方向の効果]
ブドウ樹の樹冠方向(北対南、および東対西)の効果を、Cabernet francブドウおよびワインの揮発性化合物の電気ニオイ分析(導電ポリマーと表面波)により、2年にわたり調べた。シーズンあたり3回のサンプリングを行い、2種の電気ニオイ分析のデータを物理化学およびワイン官能検査の結果と比較した。一変量および多変量統計解析の結果、ブドウの物理化学データは、樹冠方向とシーズンおよびサンプリング日の間で一貫して差(p > 0.05)が見られなかった。両電気ニオイ分析システムは樹冠方向とブドウ・ワインの記述分析の結果の間で、完全な識別を示した。表面波による電気ニオイ分析の場合、PC1に対してブドウで50%以下、ワインでは60%以下寄与率で変数を説明していたが、導電ポリマーによる電気ニオイ分析機の場合は80%以上であった。ワインの官能評価分析では、4評価のうち3つが樹冠方向を区別した。
英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/62/1/81
D.M. Gardner, B.W. Zoecklein, and K. Mallikarjunan
Electronic Nose Analysis of Cabernet Sauvignon (Vitis vinifera L.) Grape and Wine Volatile Differences during Cold Soak and Postfermentation
pp. 81-90
[低温浸漬と発酵後のCabernet Sauvignonブドウおよびワインの揮発成分の電気ニオイ分析]
低温浸漬は低温での発酵前マセレーション過程であり、赤ワインの色を増強させる目的で伝統的に用いられてきた。本実験ではCabernet Sauvignonの揮発成分を導電性ポリマーによる電気ニオイ分析機で5日間の低温浸漬中および発酵後にモニターした。低温浸漬中の果汁の揮発性化合物を電気ニオイ分析した場合、PC1は95.7%の変数を説明した。いくつかの揮発性化合物と個々の電気ニオイ分析機のセンサーとの関連が見出された。一方、GC-MSで検出されたワインの揮発成分は、PC1で対照区と低温浸漬区の間の変数の97.1%を説明した。対照区のワイン揮発性化合物はいくつかのエチルエステル類と関連したが、低温浸漬ワインではethyl succinate、isovaleric acid、benzyl alcohol、3-methyl butanol、cis-3-hexenol、γ-nonalactone、benzaldehyde、2-methyl propanol、phenethyl acetate、1-octanol、β-damascenone、terpinene-4-ol、γ-butyrolactone、ethyl acetate、hexanoic acid、citronellol、phenethyl alcohol、およびn-butanolと関連していた。電気ニオイ分析機をつかい揮発成分を分析した場合、PC1は全変数を100%説明していた。官能検査では対照区と低温浸漬区で有意な差を見出せなかった。本実験では対照区と低温浸漬区の揮発成分の違いを示し、導電ポリマーを用いた電気ニオイ分析機が揮発成分の分析における簡便なツールになる事を示した。
英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/62/1/91
M. Muganu, A. Bellincontro, F.E. Barnaba, M. Paolocci, C. Bignami, G. Gambellini, and F. Mencarelli
Influence of Bunch Position in the Canopy on Berry Epicuticular Wax during Ripening and on Weight Loss during Postharvest Dehydration
pp. 91-98
[成熟時の果実クチクラ外ワックスおよび収穫後の乾燥中における重量減に及ぼす樹冠内の房の位置の影響]
乾燥させたブドウを用いて造るパッシートワインはイタリアで広く普及している。しぼんだブドウの品質は質的因子および果実の形態や構造に強く影響する。言い換えれば、ブドウ園の管理や微小気候に影響を受ける。2007年および2008年シーズンにおいて、ラティウム地方で育てられたトレッビアーノ・トスカーノおよびロッセットを用いて、ベレゾーン前から収穫前まで樹冠内および樹冠外で育てた果実上のクチクラ外ワックスを分析した。収穫時期に、クチクラおよび表皮の特徴を光学顕微鏡および電子顕微鏡を用いて観察した。その後、水分蒸発量および果皮の物理的な特徴の違いを評価するために、果実を20度で45%水分量まで脱水した。クチクラ外ワックス量は果実の成長とともに減少した。収穫時期の果皮を電子顕微鏡で観察したところ、クチクラ外ワックス層の構造の違いが認められ、樹冠外の果実は果実の表面が板状のワックスで覆われていた。細胞層数と果皮の厚さは、品種間、樹冠の位置間で有意に異なっていたが、これらはクチクラの厚さには影響しなかった。いずれの品種でも、樹冠内の果実はよりゆっくりと乾燥されるようであった。特に樹勢の強いトレッビアーノ・トスカーノでは顕著であり、樹冠内の果実は樹冠外の果実より40%重量減に到達するのが遅かった。乾燥の間、果皮色は減少し、いずれの品種でも物理的な貫入に対する果皮の抵抗性が増加した。これらは樹冠内の位置による影響を受けなかった。
英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/62/1/99
N. Olguin, J.O. Alegret, A. Bordons, and C. Reguant
β-Glucosidase Activity and bgl Gene Expression of Oenococcus oeni Strains in Model Media and Cabernet Sauvignon Wine
pp. 99-105
[Oenococcus oeniの培地中およびCabernet Sauvignonワイン中でのβグルコシダーゼ活性およびbgl遺伝子の発現]
マロラクティック発酵をおこすOenococcus oeni株は、ワイン中に存在する「香りのない糖結合前駆体《から芳香性揮発化合物を遊離させることが出来るβ-Glucosidaseの源として興味深い。多くの実験では、ワイン様培地中で培養した菌株を用いているが、本当のワイン中でのこれらの菌株の活性についてはほとんどわかっていない。本研究では、培養液として実際のCabernet Sauvignonワインを用いて、β-glucosidaseの活性とbgl遺伝子の発現を、4つのO. oeni菌株を用いて実験した。ワイン中での活性測定は、ワイン様培地やワインとMRS培地の混合液の場合と比較した。β-Glucosidase活性は全菌株の全細胞液および遠心上清に見られたが、活性はその条件によって異なった。最大の活性はワインにおいて見られ(4 U/mg)フルクトースによって阻害された。bglの発現解析のため、O. oeniの全RNAをワインから初めて直接抽出した。リアルタイムqPCRにより、bglの比発現量を評価した。本遺伝子の発現量は菌株によって異なり、MRS培地で希釈したワイン中では過剰発現されていた。この結果はワイン業界にとって重要であり、スターター選抜のために菌株をワインに適用する研究において重要である。
英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/62/1/106
T. Halaly, B. Zion, A. Arbel, R. Regev, M. Barak, and E. Or
Short Exposure to Sublethal Heat Shock Facilitates Dormancy Release in Grapevines
pp. 106-112
[死に到らない程度の熱ショックを単時間処理することにより、ブドウの休眠打破が促進される]
50度にした水槽内で熱ショックを1時間与えることは、ブドウの休眠打破のための効果的な刺激である。しかしながら、この処理方法はブドウ園での栽培管理方法として実行できない。ブドウ園で実施できる効果的な休眠打破法として、簡易でありながら効果的に休眠打破が行える短時間且つ激しい熱処理法が必要である。そこで、ブドウの休眠打破に及ぼす熱ショックの温度および処理時間の影響を調査した。水槽内で熱ショックを与える場合も、乾熱で熱ショックを与える場合も、温度が上がるほど、処理時間は短くできた。加えて、芽は水槽内での熱処理よりも、乾熱での熱処理に耐性のようであった。これらの結果をもとに、我々は休眠打破に及ぼす短時間での激しい熱ショックの影響を検討した。10秒から30秒間150度の乾熱処理を行った場合、効率的な休眠打破が認められた。この短時間の熱ショックは、シアナミド処理と同様に、芽からのアセトアルデヒドおよびエチレンの生成を誘導した。この類似性は、死に到らない程度の高温で短時間処理することによって活性化される休眠打破メカニズムと市販の休眠打破剤で活性される休眠打破メカニズムが同じであることを示唆する。これまでに報告のない、この高温短時間処理は、ブドウ園での栽培管理技術として今後展開するかもしれない。
英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/62/1/113
A.F. Munoz-Rodriguez, R. Tormo, and M.I. Silva
Pollination Dynamics in Vitis vinifera L.
pp. 113-117(Research Note)
[ヴィティス・ヴィニフェラにおける受粉様式]
空気中の花粉量を測定するために、ブドウ園内に設置した空気捕集装置を使って、ヴィティス・ヴィニフェラの花粉の分散状況を調査した。カベルネ・ソーヴィニヨンの花粉分散期間は7日間であり、日々の平均花粉量は1立方メートルあたり90粒であった。また花粉分散のピークは正午近くであった。日々の量的変化、あるいは時間単位での量的変化は、気温と正の相関を示したが、相対湿度とは負の相関関係であった。花粉量はブドウ樹の1.5メートル以内、地上から1メートルの部分で最も多かった。
英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/62/1/118
E.T. Stafne and J.A. Puckette
Aerial Root Formation on Winegrape Cultivars after Spring 2007 Freeze Events
pp. 118-121(Research Note)
[2007年春に起こった凍結後にワイン用ブドウに形成された気根]
2007年4月7日~8日に起こった萌芽後の凍結被害により、春および夏を通してワイン用ブドウに気根が形成された。雨および相対的湿度は、凍結後の5月、6月および7月で例年より多かった。オクラホマではブドウ樹に形成される気根についての報告例がこれまでになかったため、気根形成と収穫量との相関関係を調べることを目的に、気根について定量的に分析した。気根の形成は接ぎ木する品種によって変化したが、台木の影響は明らかではなかった。接ぎ木したプチ・ヴェルドだけは、接ぎ木しないプチ・ヴェルドよりも多くの気根を形成した。ブドウ樹での気根形成には、凍害と根を形成するための環境条件との複雑な関係があるようである。気根形成は傷を受けたサインのようなものであるが、形成される気根の数は傷の程度と必ずしも一致しなかった。傷およびダメージがわずかだった場合気根は形成されない、あるいは気根はわずかであり、中程度の傷およびダメージの場合は気根がより形成された。しかし、ひどい傷およびダメージを受けた場合はほとんど気根が形成されなかった。
英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/62/1/122
F. Viana, P. Taillandier, S. Valles, P. Strehaiano, and P. Manzanares
2-Phenylethyl Acetate Formation by Immobilized Cells of Hanseniaspora vineae in Sequential Mixed Fermentations
pp. 122-126(Research Note)
[連続混合発酵におけるHanseniaspora vineaeの固定化細胞による2-Phenylethyl Acetateの生成]
2-phenylethyl acetateを多量に生成するHanseniaspora vineae 1471をアルギン酸カルシウムビーズに固定化した。遊離および固定化細胞による発酵試験では、固定化は2-phenylethyl acetateの生成量に影響を与えなかった。ワイン中での2-phenylethyl acetateの濃度を調節する方法として、固定化したH. vineaeを発酵中のマストから色々なタイミングで除去し、市販のSaccharomyces cerevisiaeの遊離細胞を椊菌した。醸造学的性質および揮発性化合物を分析したところ、化学特性の異なるワインを製造するために混合連続培養が有効である可能性を見出した。
英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/62/1/127
P. Rodriguez-Rodriguez and E. Gomez-Plaza
Differences in the Extraction of Volatile Compounds from Oak Chips in Wine and Model Solutions
pp. 127-132(Technical Brief)
[オークチップからワインおよびモデル溶液への揮発性化合物の抽出の差異]
ワインにおけるオーク由来の揮発性化合物の濃度や最終濃度に影響を与える要因に関する研究は、通常、ワインやモデル溶液により実験される。そしてモデル溶液で得られた結果は、実際のワインで得られた結果と比較可能であると考えられる。本実験ではこの仮定が正しいか、そしてモデル溶液を使った試験により、これらの貯蔵中のこれらの揮発性化合物の挙動が説明できるかどうかを調べることを目的とした。オークチップを使い、ワインおよびモデル溶液中のオーク由来の揮発性化合物(furfurylおよびguaiacyl 化合物、cis- and trans-β-methyl-γ -octalactoneおよびvanillin)の濃度変化を調べた。ワインおよびモデル溶液の物理化学的特性も抽出に影響を与えると考えられるため、モデル溶液は3つの滴定酸度に、3つの異なるアルコール濃度に調製した。モデル溶液の場合、guaiacyl誘導体およびラクトン類は、その抽出速度や最終濃度がワインと似た傾向となった。しかし、furfuryl やvanillinの挙動は浸漬したオークチップのマトリクスに依存した。マトリクスの物理化学的な特性は、ラクトン類の様ないくつかの化合物の抽出に影響を与えるため、もオーク由来の揮発性化合物の抽出実験において考慮が必要である。
英文要旨原文 http://ajevonline.org/cgi/content/abstract/62/1/133
E.J. Edwards, A.F. Downie, and P.R Clingeleffer
A Simple Microplate Assay to Quantify Nonstructural Carbohydrates of Grapevine Tissues
pp. 133-137(Technical Brief)
[ブドウ樹組織の非構造炭水化物を定量するための簡易マイクロプレート法]
椊物組織内の非構造炭水化物に関するデータは、ブドウ樹の生理状態に影響を及ぼす環境状況やブドウ園の管理方法について理解するのに役立つ。これまで多くの分析法が発表され、複雑になっていく一方で、ブドウ樹で有効な方法は数少ない。我々は、色々なブドウ樹組織の非構造炭水化物の測定のために、簡便な抽出方法と比色法に基づいた簡易マイクロプレート法を開発した。この方法は20マイクログラム程度の少量の炭水化物を含む試料中において水溶性炭水化物およびデンプンの定量的なデータを得ることができる。