American Journal of Enology and Viticulture

Volume 71, No.4 (2020)

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/4/249

Z.M. Cartwright, C.G. Edwards:
Efficacy of Warmed Wine Against Brettanomyces bruxellensis Present in Oak Barrel Staves
pp.249-255. (Research Article)

[オーク樽板に存在するBrettanomyces bruxellensisに対する温めたワインの影響]
 オークの種(Quercus albaまたはQ. petraea)とトーストレベル(軽いまたは重い)が異なる新樽(16 L)を,Brettanomyces bruxellensisに感染させた.感染した樽板を3cm×3cmの立方体(キューブ)に切り,35,40,45,または50℃に加熱した赤ワイン(11または15% v/vアルコール)に2mmまで浸漬した.ワインから取り出した後,キューブをノコギリで断片に切断するか,オークの削りくずにした後,酵母回収培地に移し,30日以上(断片)または12時間(削りくず)インキュベートし,培養可能な個体数を回収,デシマル減衰時間(DT値,90%が死滅するのに必要な時間)を計算した.11%v/vアルコールワインで45または50℃で加熱した後,培養可能な細胞は,内部断面層(深さ0~4mm)から回収できなかった.より深い深さ(たとえば,5~9mm)に存在した菌では15%v/vのワインにより,これらの温度で死滅した.DT値は,キューブを11%v/vアルコールワイン(D45℃ = 46秒,D50℃=30秒)で加熱した場合に比べて,15%v/vアルコールを含むワイン(D45℃=17秒,D50℃=9秒)となり,DT値が減少し同じ結果となった.温水や蒸気と比較し,温めたワインの処理では,特に内部ステーブの深さが4mm以下の場合,低い温度で同程度の微生物汚染を除去できた.未確認(社内)株のB. bruxellensisに以前に汚染された市販の樽(225L)についても同様の結果が見られた.従って,温めたワインを感染した樽に適用することは,温水または蒸気処理に必要な温度より低い温度でB.bruxellensisの個体数を大幅に減らす方法として役立つ可能性がある.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/4/256

A.L. Carew, F.L. Kerslake, K.A. Bindon, P.A. Smith, D.C. Close, R.G. Dambergs:
Viticultural and Controlled Phenolic Release Treatments Affect Phenolic Concentration and Tannin Composition in Pinot noir Wine.
pp.256-265.

[ブドウ栽培および制御されたフェノール溶出処理はPinot noirワインのフェノール濃度とタンニン組成に影響を与える]
 Pinot noirの果実は,ワインの口当たりと色の安定化に重要なフェノール類が比較的少ないことがよくある.以前の研究では,除葉がPinot noirの果実フェノール類の濃度と組成に影響を与える可能性があることを示したが,ワイン製造プロセスを通じて除葉の効果がブドウの組成にどの程度影響するのかが分かっていなかった.新しい熱処理である制御フェノール溶出法(CPR)は,Pinot noirワインのフェノール濃度を高めるのに効果的であることが実証されているが,現在,この方法とブドウ栽培の相互作用に関する情報は限られている.CPRは,マイクロ波によりブドウのマストを加熱することで,フェノール抽出を促進する技術である.本研究では,2つの商業用ブドウ園(AおよびB)のPinot noirにブドウ栽培処理(除葉なし,開花後およびヴェレゾン前の除葉)を適用し,ブドウ園Aのブドウについては小規模発酵(コントロール,CPR+スキンコンタクト,CPR+早期圧搾)でのワイン製造処理を行った.ブドウとワインのフェノール類への影響は,UV可視分光光度法を使用して調べた.ワインタンニンの組成と重合度は,メチルセルロース沈殿法とHPLCによって分析した.ブドウ栽培処理は,ブドウ園Aで有意な効果を示したが,ブドウ園Bでは効果が見られなかった.ワイン製造処理はワインのフェノール濃度に影響を与えたが,栽培処理と醸造処理間には関連は無く,効果は付加的であった.科学的および実用的に重要なのは,果実のホモジネートから決定したブドウのフェノール濃度は,Pinot noirワインのフェノール濃度予測に使えないという事実である.更に,ワインでは,タンニン組成,タンニン重合の程度,およびタンニンサイズの変動が処理間で見られた.ここでの新しい発見は,ブドウ栽培処理とワイン製造処理の両方が重要であり,互いに独立して,Pinot noirワインのフェノール類を調整するための別々の2つの方法として機能したことである.ブドウ栽培とワイン醸造の処理はタンニンの組成に影響を及ぼし,口当たりと色の安定性に影響を与える可能性を示した.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/4/266

G.L. Sacks, P.A. Howe, M. Standing, J.C. Danilewicz:
Free, Bound, and Total Sulfur Dioxide (SO₂) during Oxidation of Wines. evines.
pp.266-277.

[ワイン酸化時の遊離,結合,および全二酸化硫黄(SO₂)]
 最近の研究では,空気中にさらされたワインの遊離二酸化硫黄(SO₂)と全SO₂の損失の動態が評価されているが,ワインの貯蔵中に推測される酸化条件下での遊離SO₂と全SO₂の関係については殆ど研究されていない.我々は,3種類のワイン(シャルドネ,メルロー,カベルネ・ソーヴィニヨン)を異なるバッグ・イン・ボックスのパッケージに入れ,19℃または31℃で最長400日間保存したときの遊離および全SO₂の変化を測定した.全SO₂の損失率は,保存条件によって最大7倍まで変化した.例えば,シャルドネでは1日あたり0.13~0.94 mg/LのSO₂損失があった.遊離したSO₂が検出されず,強く結合したSO₂だけが残った場合でも,SO₂損失の合計速度は線形であった.この結果は,これらのパッケージワインのSO₂消費速度と比較して,結合したSO₂付加体の加水分解が速いことを示しており,おそらくSO₂消費速度が酸素の侵入速度に依存するためと思われる.全SO₂ vs遊離SO₂のプロットは,遊離SO₂濃度が5mg/L以上の場合,線形であった.この直線領域の傾き(Δtotal/Δfree)はワインに依存していた(シャルドネ=1.33~1.49,メルロー=1.91~2.10,カベルネ・ソーヴィニヨン=1.83~2.00).全SO₂の損失率とは対照的に,この比率は貯蔵条件で殆ど変化しなかったことから,酸化の過程で新たなSO?結合剤の形成は最小限に抑えられていることが示唆された.各ワインの見かけの付加体の平衡解離定数(Kd)は,[Bound]/[Free] vs [Free]のプロット(Burroughs Plots)の一次導関数から,遊離SO₂濃度の関数として決定した.遊離SO₂濃度が10mg/L以下になると,見かけのKdは1×10⁻⁴Mから1×10⁻⁵ Mの間に減少し,これは悪臭を放つアルデヒド類で報告されている値と同程度であった

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/4/278

J. Johnson, M. Fu, M. Qian, C. Curtin, J.P. Osborne:
Influence of Select Non-Saccharomyces Yeast on Hanseniaspora uvarum Growth during Prefermentation Cold Maceration.
pp.278-287.

[選抜した非Saccharomyces 酵母が発酵前低温浸漬中のHanseniaspora uvarum の成長に与える影響]
 本研究では選抜した非Saccharomyce s酵母がHanseniaspora uvarum の増殖と,発酵前のコールドマセレーション(CM)中の酢酸および酢酸エチルの生成に及ぼす影響を調査した.市販の非Saccharomyces 酵母を用いて,ブドウ果汁をベースにした培地でCMを行った際のH. uvarum の増殖と酢酸の生成を抑制する能力を調べた.試験したすべての非Saccharomyces 酵母は,H. uvarum の増殖と酢酸の生成を抑制したが,一部の酵母は他の酵母よりも影響が大きかった.非Saccharomyce s酵母の選抜に続いて,14種類のH. uvarum 株を選抜し,非Saccharomyces 酵母であるMetschnikowia fructicola と比較したところ,すべてのH. uvarum 株がM. fructicola と共培養することで増殖と酢酸の生成を抑制したが,菌株によってばらつきが見られた.最後にピノ・ノワールの発酵前のCM中のH. uvarum に対するM. fructicola の影響を評価した.ピノ・ノワールの果汁にH. uvarum とM. fructicola の組み合わせを接種し,8℃で6日間CMを行った.CM終了時にM. fructicola を接種した処理区は,M. fructicola を接種しなかった処理区と比較し,H. uvarum の個体数が少なく,酢酸と酢酸エチルの濃度が有意に低かった.アルコール発酵終了後,M. fructicola を添加したワインは,酢酸エチルは有意に低かったが,酢酸の濃度に差は認められなかった.これらの結果から,選抜した非Saccharomyces 酵母を添加することは,発酵前のCM中にH. uvarum による腐敗のリスクを低減する別の方法である可能性があることを示唆している.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/4/288

M.K. Jasinski, A.G. Reynolds, F.D. Profio, A. Pasquier, M. Touffet, R. Fellman, H.-S. Lee:
Terroir of Winter Hardiness: Bud LT₅₀, Water Metrics, Yield, and Berry Composition in Ontario Riesling.
pp.288-307.

[冬季耐寒性に関するテロワール:オンタリオ州のリースリングにおける芽のLT₅₀, 水分状態,収量おより果実内成分]
 ブドウの冬季耐寒性は,極端な気象条件以外にも,ブドウ園固有の土壌要因(土性,組成,水分,排水),ブドウの水分状態,収量など,いくつかの要因に左右される.この研究は,ブドウの耐寒性は,テロワールに起因する特定の要因に左右され,水分状態(葉の水ポテンシャル[Ψ])が低いブドウ園区域は水分状態が高い(葉の負のΨが小さい)区域のブドウよりも耐寒性が高いという仮説に基づき,2010年から2012年にかけてオンタリオ州のナイアガラ地域全体から選んだ6箇所のリースリング園で行われた.GPSで地理的に配置されたブロック内の指標ブドウ樹を用い,着果期,果粒成長停滞期,ヴェレゾン期に土壌水分量[SWC]と葉の水ポテンシャルを計測し,収穫期に収量構成要素ならびに果実内成分を計測した.冬季に3回,LT₅₀(50%の芽が枯死する温度)を計測した.観測した域内で,データを取得しなかった地点の属性推定(内挿)とマッピングはクリギング(統計学的手法)を用いて完了し,線形相関,κ-meansクラスタリング, 主成分分析および多重線形回帰法により統計分析した.その結果,SWC,葉のΨ,収量構成要素,果実内成分組成,およびLT50は,各ブドウ園で空間的にクラスター化していた.GIS(地理情報システム)と多重線形回帰により,2010年から2011年のほとんどのブドウ園区域でLT₅₀と葉のΨ値の間に強い相関関係がみられ,葉のΨによりLT₅₀値が予測できることが明らかになった.非常に乾燥した2012年では,葉のΨ(ヴェレゾン期の各区域での値:0.9~1.4 MPa)は,LT₅₀,収量,滴定酸度,pH,およびBrixそれぞれと正に相関し,SWCとモノテルペン濃度とは負に相関した.これらの結果は,テロワールの他の側面と同様に,冬季の耐寒性には空間的な要素があることを示唆している.この研究での冬の耐寒性を他の重要な変数と比較する方法は,ナイアガラ地域のテロワールに基づく耐寒性に関連する要因の理解を深める.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/4/308

P. Bowen, C. Bogdanoff, S. Poojari, K. Usher, T. Lowery, J.R. U.-Torres:
Effects of Grapevine Red Blotch Disease on Cabernet franc Vine Physiology, Bud Hardiness, and Fruit and Wine Quality.
pp.308-318.

[カベルネ・フラン’樹の生理,芽の耐寒性,果実およびワイン品質に及ぼすGrapevine red blotch diseaseの影響]
 Grapevine red blotch disease(GRBD)はブドウの葉と果実に赤いしみの症状が出るウイルス病である.GRBDがブドウの生育・生産に及ぼす影響を,ブリティッシュコロンビア州オカナガンバレーの'カベルネ・フラン’園で2年に亘って調査した.GRBD感染樹は新梢成長量が少なく,GRBD非感染樹よりも冬の耐寒性が低く,収量は低下した.感染樹の果房数は減少したが,果粒はより大きくなり,含有種子数は増加した.GRBD感染樹において生育期間中,無症状の葉では光合成と気孔コンダクタンスが減少し,症状のある葉では更に減少した.GRBD感染樹では落葉の遅延または不完全が見られた.GRBDは,果汁の可溶性固形物含量,アントシアニン,酵母資化性窒素,タンニンを減少させ,果汁pHおよび滴定酸度を増加させた.GRBD果実で醸造したワインは,アントシアニンとアルコールは少なく,色は薄く,より黄色い色調となった.ワインの品質に及ぼすGRBDの影響は,ボディと余韻の減少,黒色と赤色品種の特徴の低下,酸度および青臭みの増加が見られた.ワインにGRBD果実を少量(最大20%)加えると,最初の年では赤色品種の特徴が減少し,2年目では渋みと青臭みが増加した.GRBDが収量,ワイン醸造に対する果実組成,芽の耐寒性に及ぼす有害な影響は,カナダとアメリカのブドウ栽培地域にとって深刻な脅威となっている.これらの影響の程度は,栽培管理を通じて軽減することが困難であり,GRBDの侵入と広がりを防ぐために,ウイルス検査済みの樹を植えることの重要性を強調している.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/4/319

J. Scharfetter, A. Nelson, B.A. Workmaster, A. Atucha:
Evaluation of Ripening Indicators for Harvest-time Decision Making in Cold Climate Grape Production.
pp.319-333.

[寒冷気候のブドウ生産における収穫時期の意志決定のための成熟指標の評価]
 現在,冷涼気候に適応する種間雑種ブドウ(CCIHG)品種の栽培者とワインメーカーは,収穫とワイン醸造決定のための成熟指標として,技術的成熟度変数のBrix,滴定酸度(TA),およびpHのみに依存している.対照的に,最適な収穫時期を決定するための追加の化学的変数の利用は,欧州系ブドウVitis viniferaが栽培されている世界の殆どの地域で一般的な方法である.CCIHG と V. viniferaの間に果実の化学的性質に有意な違いがあったことから,本研究の目的は,主成分分析とクラスター分析を組み合わせた線形回帰によって,CCIHG栽培品種Brianna, Frontenac, La Crescent, Leon Millot, Marechal Foch, Marquette, MN 1220およびPetite Pearlの潜在的な成熟指標としての6つの追加の成熟度変数(果実重量,総タンパク質,総フェノール,アントシアニン単量体,重合体カラー%および総タンニン)の適合性を評価することであった.果実重量,総フェノールおよび重合体カラー%は,年々および異なるブドウクラスターの微気候処理で一貫性がなく関係性のモデル化が困難であり,成熟指標として不適切であることがわかった.標準的な技術的成熟度変数のBrix,滴定酸度(TA),およびpHに加えて,白品種の総タンパク質濃度と赤品種のアントシアニン単量体,総タンパク質および総タンニン濃度の変数はヴェレゾンから収穫期まで一貫した直線関係があり,成熟指標として良好な候補であった.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/4/334

C. Pastore, M. Fontana, S. Raimondi, P. Ruffa, I. Filippetti, A. Schneider:
Genetic Characterization of Grapevine Varieties from Emilia-Romagna (Northern Italy) Discloses Unexplored Genetic Resources.
p.334-343.(Research Note)

[エミリア・ロマーニャ(北イタリア)産ブドウ品種の遺伝的特徴は未調査の遺伝資源を明らかにする]
 エミリア・ロマーニャで採取されたブドウ178品種は,広く栽培され,殆ど絶滅したものまであるため,実験圃場内で維持管理されており,正しく同定するため10マイクロサテライト〔単純配列反復(SSR)〕マーカーで分析した.ブドウ分類学および地域の歴史的データも収集した.品種同定は参照となるSSRプロフィールと比較して決定したが,その結果は形態と一致することが多かった.この研究は,他の地域または国で一般的な品種の地方名(同名異種や異名同種など,しばしば混乱がある)の下で地域での存在を示したが,また,保存に値する多くの地域的で特異的な遺伝子型を特定した.調査した品種の49%はItalian National Catalogue of Grape Varietiesに記載されている栽培品種と一致したか,外国産由来のようであったが,122の特異的な遺伝子型のうち62は,歴史的文書を除いて文献で報告または記述されていなかった.これらは,おそらく地域限定品種に属しているものと思われる.‘Pellegrina’,‘Biondello’,‘Rossiola’のようなほとんど栽培されていないような品種のいくつかは,品種ものワイン(主に単一の品種から醸造されたワインであり,通常,ワインラベルにその品種の名前を表示する)としての市場利用が考えられる.ここで使われる取り組みは,ブドウ品種学(Ampelography)と歴史的な証拠に支持されるSSRマーカーによる品種同定に基づいて,ブドウの地方品種の研究と発展における鍵となる段階を意味する.

一覧に戻る
ページトップ