American Journal of Enology and Viticulture

Volume 71, No.3 (2020)

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/3/167

C.L Minguez, M.A. Ruvira Garrigues, L.L. Ocana, R.A. Novella, J.M. Vinuesa, G. Meca:
Transformation of Ochratoxin A by Microorganisms Isolated from Tempranillo Grapes in Wine Systems.
pp.167-174. (Research Articles)

[ワインシステムにおけるテンプラニーリョ種から分離した微生物によるオクラトキシンAの形質転換]
 マイコトキシンは,さまざまな属の真菌によって生成される有毒な代謝物である.アスペルギルス属とペニシリウム属に属する真菌は,ワイン中のオクラトキシンA(OTA)の主な供給源となっている.マストとワインのOTAの削減は,物理的,化学的,生物学的技術を使用して研究されてきた.この論文では,真菌で汚染されたテンプラニーリョ種から分離されたさまざまな培養物が,pH3.5やpH6.5下でのトリプシン大豆ブロス(TSB)培地でOTAを分解する能力について報告する.赤ワインのアルコール発酵中のOTAと4つの分離株との相互作用を調べた.その結果,TSB培地中およびワイン実験系では,微生物分離株がOTAの含有量を減少させることが明らかとなった.いずれのpH値においてもTSB培地中のOTAの平均値を最も減少させた微生物はLactobacillus rhamnosus(55%)であった.ワインの発酵中,酵母のMetschnikowia pulcherrimaが最も優れたOTAの減少を示した(34%).OTAの分解生成物はLC-MS/MSによって同定し,さらにα-OTA(m/z = 257)とクマリン側鎖が脱離したα-OTAのナトリウム付加物(m/z = 170)を同定した.マストやワイン中のOTAの存在は,食品安全上問題となっている.ワイン醸造過程での乳酸菌や酵母の利用は,興味深い実用的なアプリケーションである.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/3/175

C.R. Kron and M.S. Sisterson:
Identification of Nonhost Cover Crops of the Three-Cornered Alfalfa Hopper (Spissistilus festinus).
pp.175-180

[スリーコーナード・アルファルファ・ホッパー(Spissistilus festinus)の食草とならない被覆植物の同定]
 スリーコーナード・アルファルファ・ホッパー,Spissistilus festinus (Say)(半翅目:ツノゼミ科)は温室内での調査でブドウレッドブローチウイルス(GRBV)のベクターとして同定された.GRBVは果粒の成熟に影響し,可溶性固形物含量の低下,滴定酸度の上昇とともに感染したブドウから作られたワインの色,風味,香りと関連のある二次代謝産物の含量にも影響を与える.S. festinusはブドウ園内およびその周辺の被覆植物や雑草などさまざまな植物を食べて繁殖する.そこでS. festinusの摂食と産卵に対する一般的な15種類の被覆作物の関連を決定した.無選択試験では,パープルベッチ,クローバー,一年生ライグラス,ソバ,TriosライコムギおよびZorroフェスクによってS. festinusの生存,産卵および若虫の出現を確認できた.一方,オーチャードグラス,クリーピングレッドフェスク,フォーントールフェスク,ハードフェスクおよびカリフォルニアポピーではS. festinusの成長と若虫の生存を確認できなかった.選択試験によって若虫の発生と食草の関連は明らかにし,マメ科植物(パープルベッチとクローバー)ではマメ科植物以外の被覆作物(Zorroフェスク,Triosライコムギ,ソバ,および一年生ライグラス)よりも高い若虫の発生があった.S. festinusの生存または産卵の要因とならない被覆植物を選択することは,S. festinusがブドウ園に移動して定着する被害を減らす可能性がある.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/3/181

Wang, H., and I.E. Dami:
Evaluation of Budbreak-Delaying Products to Avoid Spring Frost Injury in Grapevines.
pp.181-190.

[ブドウ樹の晩霜害を回避するための萌芽遅延製品の評価]
 世界のブドウ栽培地域の大半は,毎年晩霜害により収量の損失が発生している.そのため,萌芽を遅らせることにより晩霜害を防ぐ散布剤が開発されている.本研究の目的は,萌芽を遅らせるためにAmigo oilR(9.3%ダイズ油+0.7%乳化剤),ProToneR [500 mg/L S-アブシジン酸(S-ABA)+0.05% (v/v) Latron B-1956R(樹脂系非イオン界面活性剤)],FrostShieldRを含めた新製品の有効性を評価し,ブドウの栄養成長および生殖成長に及ぼす影響を評価することである.早い時期に萌芽する品種‘La Crescent’(Swenson’s St. Pepin × Muscat Hamburg.白色系品種)と‘Marquette’(MN 1094 × Ravat 262.黒色系品種)を,2018年と2019年の圃場実験,2019年の恒温室実験に用いた.処理は,対照区(無散布),10%(v/v)Amigo oil,500 mg/L S-ABA濃度のProTone,およびFrostShieldとした.圃場実験では,FrostShieldは一貫して両品種の萌芽を4?6日間遅らせたが,他の2製品の効果はごく限定的であった.さらに,FrostShieldは両品種の栄養成長または生殖成長に影響を与えなかった.恒温室での実験では,FrostShieldは2品種の萌芽を2週間以上遅らせたが,他の2製品の効果は品種間で異なっていた.以上の結果,FrostShieldは栄養成長または生殖成長に悪影響を及ぼすことなく一貫して萌芽を遅延させ,その効果はAmigo oilとProToneを上回っており,FrostShieldが春の霜害を防ぐ効果的な製品であると考えられた.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/3/191

M. Chandra, M. Mota, A. C. Silva, M. M.-Ferreira:
Forest Oak Woodlands and Fruit Tree Soils Are Reservoirs of Wine-Related Yeast Species. vol. 71,
pp.191-197

[オーク樹林と果樹の土壌はワイン関連酵母種の貯蔵所である]
 異なるブドウ3園で4年に亘り大規模な土壌採取計画が実施され,ブドウ園とブドウ園に近いオーク樹と果樹の両方の土壌のワイン関連酵母の存在が評価された.子嚢菌発酵酵母は,土壌採取期間を通じ320の土壌サンプルの27%に存在し,採取季節に関係のない発生率であった.発生率が最も高かったのは,イチジク(76%),リンゴ(73%),オーク(41~55%)の土壌であった.土壌はブドウ樹下で汚染されてなかったが(6%),これらの酵母は栗の木の下の土壌からは回収されなかった.他の土壌は中程度の発生率であった.土壌サンプル25種から合計139の子嚢酵母が同定された.96の分離株は21の異なるnon-Saccharomycesであり,43の分離株は4つのSaccharomycesであった.果樹下の土壌には11の種があった.最も一般的な分離株は,Lachancea thermotoleransとTorulaspora delbrueckiiに属し,Saccharomyces paradoxusはオーク樹下土壌で優勢であった.Saccharomyces cerevisiaeは,果樹下土壌で全ての採取年に低頻度(全分離株の7%)で発見されたが,ブドウ園やオーク樹の土壌からは回収されなかった.ワインの腐敗種であるZygosaccharomyces bailiiは,ブドウ園の土壌の1サンプルでのみ回収された.与えられた土壌システムでは,回収された種は何年にも亘り大きく変化し,複雑な酵母集団の存在を示唆した.特に,ブドウ園の近くの土壌は,ワイン醸造に関係のある酵母種の自然の貯蔵所であった.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/3/198

S.C. Morgan, J.J. Haggerty, V. Jiranek, D.M. Durall:
Competition between Saccharomyces cerevisiae and Saccharomyces uvarum in Controlled Chardonnay Wine Fermentations.
pp.198-207 (Research Notes)

[制御したシャルドネワイン発酵中におけるSaccharomyces cerevisiaeとSaccharomyces uvarumの競合]
 Saccharomyces cerevisiaeは通常,ワイン醸造において優勢な酵母である.しかし,Saccharomyces uvarumのような他の酵母種もアルコール発酵を誘導し完了することができる.S. uvarumは世界中の商業ワイナリーで,低温発酵で優勢になることが分かっている耐寒性酵母である.しかし,市販S. cerevisiae株に対するS. uvarumの競合力を調査する研究は殆ど行われていない.ここでは,制御したシャルドネ発酵を,市販S. cerevisiae株と固有のS. uvarum株を用い,異なる接種比率および2つの異なる温度で行った.両菌株は24℃で十分発酵し,15℃で発酵がゆっくりになった.S. cerevisiaeは,同等もしくはそれ以上の比率で接種した場合,S. uvarumよりも競争力を増した.しかし,S. uvarumは低い発酵温度で良く増殖し,S. cerevisiaeと競合することができ,更に同じ比率で接種した場合,発酵期間を通して25%の相対的な存在量を維持することができ,ワインの揮発性化合物プロファイルに寄与した.揮発性化合物の生成は2つの酵母株で異なっており,S. uvarumは一般的に多量の揮発性化合物を生成し,特に低い発酵温度において,多量の2-phenylethyl acetate(ハチミツ/スパイス/花)とethyl 2-methyl butanoate (リンゴ/イチゴ)を生成する.発酵中に両方の菌株が共存した場合,得られる揮発性プロファイルは,どちらか一方の単一株で発酵させた場合のものと異なる点でユニークであった.本研究は,S. cerevisiaeとS. uvarumを異なる比率および異なる発酵温度で同時接種した最初の研究であり,ユニークで高品質なワインを製造するためにS. uvarum株を単独もしくはS. cerevisiae株と組み合わせた使用の可能性が強調された.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/3/208

A.D. Levin, M.A. Matthews, L.E. Williams:
Effect of Preveraison Water Deficits on the Yield Components of 15 Winegrape Cultivars.
pp.208-221.

[ベレゾーン期前の水不足は15種類のワイン品種の収量構成要素に影響する]
 ブドウ園の灌水管理を情報に基づいて決定するために,特に水の供給が制限される場合, 生殖生長と収量構成要素の水不足に対する反応についての正確な情報が必要となる. これまでの先行研究では,水不足に対する収量構成要素の感受性は品種により異なる可能性が示唆されている.本研究では,カリフォルニアのサンヨアキン・バレーに栽植の15種類の赤ワイン用ブドウ品種を用い,4年間に渡り灌水制限し,水不足に反応する収量構成要素を調査した.さらに,5年目には通常の灌水管理を行い,過去4年間の灌水制限の影響を調査した.灌水制限は,毎年着果前までは,推計蒸散量(ETc)の100%で灌水して葉の水ポテンシャルを-1.0 MPaで維持し,着果後に-1.0 MPaの閾値に達してから灌水制限を開始した.ベレゾーン前非灌水区(ED)では,着果からベレゾーン期までは非灌水とし,ベレゾーン後から収穫期まではETcの50%で灌水した.ベレゾーン後非灌水区(LD)では,着果からベレゾーン期まではETcの100%で灌水し,ベレゾーン後は非灌水とした.また,生育期間を通してETcの50%で灌水した対照区(SD)を設定した.その結果,灌水制限した4年間は,EDの収量は全試験期間および全品種において対照区(SD)より大きく低下した.しかし,LDではSDとの間には差はなかった.EDによる収量低下は,主に果粒新鮮重量と着房数の減少によるものであった.灌水制限を解除した5年目には,果粒新鮮重量の増加と僅かではあるが有意な果房数の増加により灌水制限樹の収量は回復した.これらの結果から,果粒重量の低下が水不足に対して最も鋭敏に反応する収量構成要素であり,果房数/樹と果粒数/房がそれに続き,水不足の影響はベレゾーン前で大きく,水不足に対する反応は15品種間では大きな差はないことが明らかとなった.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/3/222

T.W. Jenkins, P.A. Howe, G.L. Sacks, A.L. Waterhouse:
Determination of Molecular and “Truly” Free Sulfur Dioxide in Wine: A Comparison of Headspace and Conventional Methods.
pp.222-230

[ワイン中の分子状および“真の”遊離亜硫酸の測定:ヘッドスペースと従来法の比較]
 リッパー滴定法や通気蒸留(A-O)法のような従来法はワインの亜硫酸分析として幅広く使用されている.しかし,これらの手順で報告される遊離亜硫酸は,分析中に弱く結合した亜硫酸からの分離,特にアントシアニン-亜硫酸複合体により高く見積もられている.ワイン中の“真の”遊離亜硫酸は,平衡化したワイン試料のヘッドスペースの亜硫酸濃度から測定することができる.ガス検知管に基づくヘッドスペース亜硫酸法(HS-GDT)が最近記述されたが,簡便に自動化されていない.固相マイクロ抽出(SPME)は,我々の実験では精度が低くなったが,静的ヘッドスペース・ガスクロマトグラフィーと硫黄化学発光検出に基づく我々の新しい方法(HS-GC-SCD)は簡便に自動化され,高い精度(< 5%)と低い検出限界値(pH 3.5のワイン中に0.033 mg/L 分子状亜硫酸,または~ 1 mg/L遊離亜硫酸)が得られた.A-O法,リッパー法,HS-GC-SCD法およびHS-GDT法を様々なワイン試料で比較した.HS-GC法から得られた結果は,HS-GDT法から得られた結果と相関しており(r2 = 0.92),より高い精度が得られた(相対標準偏差= 3.7%).HS-GCは白ワインにおいてA-O法と高い相関(r2 = 0.85,slope=0.90)であったが,しかし赤ワインでは相関が低かった(r2 = 0.71,slope=0.44).安定性や試料あたりの操作費用だけでなく,その他の手順に対するGCの適応性は,魅力的なオプションであり,ヘッドスペース法は赤ワインにおける微生物安定性を予測するのに適していることが示されている.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/3/231

J.Y. Cheon, M. Fenton, E. Gjerdseth, Q. Wang, S. Gao, H. Krovetz, L. Lu, L. Shim, N. Williams, T.J. Lybbert:
Heterogeneous Benefits of Virus Screening for Grapevines in California..
pp. 231-241.

[カリフォルニアのブドウ樹のウィルス検索の有用性は産地により異なる]
 カリフォルニアでは,ブドウリーフロール関連ウィルス3(GLRaV-3)による経済的損失は大きく,同州のブドウ生産地域によってその程度は大きく異なる.著者らは,これらの生産地域全体にわたる様々な生産方法や市場の状況に対応させてその価値を評価するため,Fullerら(2019)により設計・公開されたノース・コースト地域の赤ワイン用ブドウ品種のGLRaV-3に関連した経済的損失を見積もるための経済モデルを拡張し,カリフォルニア全域で普及している様々な栽培条件でGLRaV-3をスクリーニングすることの有用性(価値)を評価するための基礎を提示した.カリフォルニア州全体でのウイルススクリーニングの潜在的価値の合計は,年間約9,000万ドルであり,これはカリフォルニアのブドウ産業の推定年間生産額である55億ドルの1.6%に相当した.このうちのおよそ80%が,商業的価値が高いノース・コースト以外の地域でみられた.ウイルススクリーニングの価値は,生産地域やブドウの種類,病気の管理方法によって異なり,サウスセントラル・バレー地域の食用ブドウと白ワイン用ブドウにおいて最もその価値が高いと推計された(ノース・コースト地域の赤ワインブドウの約4倍).生産者は,新植される苗のウイルススクリーニングに苗1本あたり3ドルから12ドルを支払うことが可能であると見積もられる.この額は,ほとんどのブドウ苗の市場価格よりも高く,損益分岐点である.苗生産業者がスクリーニングの価値を苗価格に大きく転嫁させなければ,その価値の多くは生産者,ひいてはブドウとワインの小売価格の低下により消費者が得る.民間部門と公共部門の両方でのウイルス・スクリーニングへの多額の投資は,今後何年にもわたって利益を生み出すだろう.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/3/242

M. Bononi, F. Tateo, O. Failla, L. Mariani, G. Quaglia:
Meteorological-Based Modeling of δ18O Values for Wines with the “Prosecco” Controlled Designation of Origin.
pp.242-247.(Research Note)

[原産地指定によるプロセッコ・ワインのδ18O値の気象ベースのモデリング]
 プロセッコ地域の気象データを使用して,ワインのδ18O値を推定するための提案されたモデル(HV; Hermann and Voerkelius 2008)を適用し,これらの値の時空間変動を決定した.11の参照ステーションが1973年から2017年までの気象データを提供した.モデルは他のブドウ品種またはブドウ栽培地域で観察されたものと同様,年々および空間的変動を明らかにした.また,δ18O値の変動を引き起こすので,気象要因をより注意深く考慮する必要性を強調した.同位体値の気象モデリングは,さまざまなプロセッコ生産地域から代表的なデータを収集し,プロセッコ地域の各年のδ18O範囲を推定することを目的としたサンプリング手順を制約するのに役立つ.推定値は,11のサイト間で,年毎に,かなりの程度の時間的変動が明らかとなった.2012年から2017年に収集された36本のボトル入りプロセッコ・ワインのδ18O値は,対応する各年のHVモデルで定義された範囲と比較し,データの整合性は良好であった.

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