American Journal of Enology and Viticulture
Volume 69, No.2 (2018)
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/69/2/103
R. Triolo, J. P. Roby, A. Plaia, G. Hilbert, S. Buscemi, R. D. Lorenzo, and C. van Leeuwen:
Hierarchy of Factors Impacting Grape Berry Mass: Separation of Direct and Indirect Effects on Major Berry Metabolites.
pp. 103-112
[ブドウ果粒重に影響を与える要因のヒエラルキー:主要な果粒代謝物質に対する直接的および間接的な影響の分離]
最終的な果粒重(ワイン生産における主要な品質要因)は,果粒の組成にも影響する生物的および非生物的要因が入り混じった影響により決まる.圃場条件下で,これらの要因の間の相互作用は,果粒の重量と組成についての研究を複雑にする.測定規模に応じて,これらの要因の影響程度のヒエラルキーは変化する.本研究は,影響程度によ るヒエラルキーを構築するために果粒の重量と組成に影響を与える主な要因の同時の影響を調査することにある.第2の目的は,果粒重への影響を通してもたらされる間接的な影響からの果粒組成に関する要因の直接的な効果を分離することである.砂地または礫質土壌に植栽した‘カベルネ・フラ ン’樹6区の樹体内水分含量および窒素の状態を2年以上測定した.果粒は,ベレーゾン期から収穫期まで分析した.各採取日に,果粒新鮮重,種子重と種子数,糖度,リンゴ酸含量を記録した.すべての調査要因は最終的な果粒重に有意に影響したが,樹体内の水分含量に最も影響した.要因間の相 互作用は,しばしば果粒の化合物に対して有意に影響した.統計処理によりすべての要因は果汁糖度とリンゴ酸含量に直接的な影響を及ぼすことが明らかとなったが,影響の程度は考えられる代謝物により異なった.反対に,果汁糖度は果粒新鮮重に有意な影響を受けた.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/69/2/113
J. Niimi, P.K. Boss, D.W. Jeffery, S.E.P. Bastian:
Linking the Sensory Properties of Chardonnay Grape Vitis vinifera cv. Berries to Wine Characteristics.
pp. 113-124
[シャルドネのブドウの官能特性とワインの特徴との関係]
ブドウの公式もしくは非公式な官能評価は,特定のワインのスタイルを生産するためにいつ収穫するべきか決定するときに使用されることが多い. 本研究はシャルドネのブドウ果実とそれに応じたワインの官能知覚と基本的な化学分析との間に関係が存在するかどうかを調べた. シャルドネの果実は2015年と2016年に南オーストラリア州で栽培されたものをそれぞれ25,24房ずつ収穫した. ブドウはBerry Sensory Assessment (BSA)を用いて評価し,小規模スケールでワイン製造後,得られたワインは記述的官能分析で評価した. 官能評価者はそれぞれの官能評価方法で訓練を行った. シャルドネのブドウとワインのサンプルは官能的な属性に基づいてパネルによって区別でき,果実は基本的な化学分析で区別できた. しかし,シャルドネのワインの違いは効果が低かったことを示すようにブドウのものと比べて差は微妙であった. 部分最小二乗回帰(PLSR)でのBSAの属性をx変数,ワインの官能属性をy変数としたときに2015年のビンテージでは適度なモデル(R 2 Val =0.53 to 0.81)が 得られたが,2016年ヴィンテージ(R 2 Val < 0.5)では適切なモデルが得られなかった. 2015年のモデルは口腔内の灼熱感,酸味,渋味のワインの属性との関係が見いだされ ,おそらく熟成のわずかな違いが原因であった. ブドウの変化からワインスタイルを明らかにする強い相関関係は見出されなかった. 全体としてシャルドネブドウの官能特性とワインを関連付けることは困難であり, これらのシャルドネワインのスタイルの変化はそのブドウに大きく依存しないことが示唆された.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/69/2/125
I. Maoz, T. Kaplunov, D. B.-Mualem, E. Lewinsohn, A. Lichter:
Variability in Volatile Composition of Crimson Seedless (Vitis vinifera) in Association to Maturity at Harvest.
pp. 125-132
[収穫期の成熟に関連したクリムゾン・シードレス(Vitis vinifera) の揮発性成分の変動]
クリムゾン・シードレスはその外観,バランスのとれた糖度と酸味,優れた質感のため世界的なブドウ品種の1つである さまざまなブドウ園でその果実の揮発性成分の変動や収穫時の成熟との関連を調べることに興味を持った. 2つの隣接する地域にある6つのブドウ園から採取したクリムゾン・シードレスの果実の揮発性成分を分析した. 揮発性成分は43種の化合物で構成され,そのうち試験したすべてのブドウ園でいろいろなパターンを示す12種の化合物を同定した. 果実の揮発性分析はブドウ園の位置,酸度または総可溶性固形物量に基づいてブドウ園を区別することは可能であったが, 果実の重量には依存しなかった. 環境や栽培に関する影響を排除するために,別のブドウ園の果実を高(> 17.5 Brix)および低(<16.0Brix)糖度に区別した.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/69/2/133
M. Bougreau, J. Guzzo, P. Arbault, G. Loneragan:
Evaluation of the Sensory Profiles of Texas High Plains Tempranillo and Cabernet Sauvignon Wines.
pp. 133-140
[テキサス州ハイプレーンズAVAのテンプラニーリョとカベルネ・ソーヴィニヨンワインの官能特性の評価]
訓練を受けたパネルによってテキサス州ハイプレーンズAVAのテンプラニーリョとカベルネ・ソーヴィニヨンワインの官能特性を評価した .パネリストはアレンジした記述的分析法および引用頻度に基づく分析法を用いて,20種類の異なるワインを評価した 我々の研究は両方の評価方法でワインの間に有意な相関があることを明らかにした 2つ品種のワインの間には平均的な官能プロファイルでは有意に区別されなかったものの,バター,キャラメル,ラベンダーの表現は テンプラニーリョで有意に高く,ブラックカラントの表現はカベルネ・ソーヴィニヨンで有意に高かった 両方の平均的な官能プロファイルは主にそのオークの特性に起因した.我々の結果はテキサス州ハイプレーンズのブドウから作られたワインの官能特性をより理解し オークの使用の違いによって説明されるように,テロワールとワインのアイデンティティの定義において人的な重要性を強調する 私たちの知る限り,この研究はこの分野で初めて実施され, テキサス州ハイプレーンズのワインのアイデンティティを増強するための技術的なワイン造りのコンセンサスの発展が示唆された.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/69/2/141
J.C. Danilewicz:
Fe(III):Fe(II) Ratio and Redox Status of Red Wines: Relation to So-Called ‘Reduction Potential.’
pp. 141-147
[赤ワインのFe(III):Fe(II)比とレドックス状態:いわゆる「還元ポテンシャル」との関係]
ワインの酸化は鉄(Fe)によって触媒される.Fe(II)は酸素によって酸化されてFe(III)を生成し, これはポリフェノールのような還元剤を酸化し,それにより第一鉄の状態に戻る. したがって,Feの酸化還元サイクルや[Fe(III)]:[Fe(II)]比は,Fe(II)の酸化やFe(III)の還元の相対速度に依存する. 還元条件下ではFe(II)が支配的であるが,酸素の暴露が増加するとFe(III)としてのFeの割合が増加する. 還元電位は,ワインの酸化還元状態を決定するために長年使用されてきた .しかし,現在,これらの可能性は主に白金電極上のエタノールの酸化によるものであり, 通常ワインで起こる酸化過程によるものではないことが認識されている.[Fe(III)]:[Fe(II)]比がワインの酸化還元状態を推定する選択肢として提案する. これらの比は,フェロジンを用いて白ワインで分光的にFe(II)および全Fe濃度を測定することによって得られる .しかし,フェロジンは色の干渉のために赤ワインでは使用することはできない. したがって,水溶性で赤ワインの吸収範囲外で吸収スペクトルをもつFe(II)錯体を用いた Br-PAPS (2-(5-Bromo-pyridylazo)-5-[N-propyl-N-(3-sulfopropyl)amino]phenol disodium salt dehydrate) 法と同様の方法は, [Fe(III)]:[Fe(II)]比を変更せず,ワインによる吸収の妨害を最小限するように開発した. スクリューキャップ,テクニカルコルクおよび合成コルクによるボトル入りワインでは高いFe(II)含量(約97%)が観測された. 天然コルクとワインボックスではFe(II)の割合が低くなっていた.[Fe(III)]:[Fe(II)]比は酸素暴露下で増加した 両Feイオンの還元電位の計算値は,ワインにおいて測定される還元電位と対応しておらず これらのワイン電位は真の還元電位ではないというさらなる証拠が示唆された.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/69/2/148
K. Medina, E. Boido, E. Dellacassa, F. Carrau:
Effects of Non-Saccharomyces Yeasts on Color, Anthocyanin, and Anthocyanin-Derived Pigments of Tannat Grapes during Fermentation.
pp. 148-156
[発酵期間中のタナーブドウの色,アントシアニンおよびアントシアニン由来色素における非サッカロミセス酵母の効果]
フェノール性化合物は官能的特性というワインの品質に影響するが,酵母によって誘導されるフェノール化合物の化学的修飾については まだ限られた範囲のみしか研究されていない.異なる属に属する59種類の非サッカロミセス酵母について, タナーブドウから得たアントシアニンを添加した合成マストを用いて色や発酵能力における酵母の影響をスクリーニングした. 総アントシアニン,色強度,色調および総フェノール指数は有意に酵母の違いによる影響を受けた. 赤ブドウモデルワインの色指標の向上にとって,酵母の能力におけるこれらパラメータの効果は非常に様々であった. Metschnikowia pulcherrima, Hanseniaspora guilliermondii, H. opuntiae, H. vineae, と H.clermontiaeの種に属する6菌種をアントシアニン由来の 色素生成を評価するために選択した.4つの化合物生成に6菌種間およびサッカロミセス・セレビシエと比較すると有意な違いがみられた. Vitisin A, Vitisin B, Malvidin-3-glucoside-4-vinylphenolと Malvidin-3-glucoside-4-vinylguaiacolの形成はHanseniasporaとMetschnikowia属の菌種で 初めて報告された.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/69/2/157
F. Yuan, R.P. Schreiner, and M.C. Qian:
Soil Nitrogen, Phosphorus, and Potassium Alter β- Damascenone and Other Volatiles in Pinot noir Berries.
pp. 157-166
[土壌窒素,リン酸,カリによる‘ピノ・ノワール’果粒中のβ-ダマセノンと他の揮発性成分の変化]
本研究の目的は,窒素(N),リン酸(P),カリウム(K)供給の様々なレベル下にある樹でブドウ果粒の揮発性成分を評価することであった. ‘ピノ・ノワール’樹を3年間ポット・イン・ポット様式で栽培し,他の全養分を一定の状態に保ち,N,P,Kを様々なレベルで養液土耕管理した. N供給量は対照区(7.5 mM),75%区,50%区,30%区,15%区の5処理,P供給量は対照区(0.50 mM),50%区,20%区,0%区の4処理,K供給量は対照区 (4.5 mM),50%区,20%区,0%区の4処理となるよう点滴灌水施肥した.果粒中の遊離型および結合型揮発性成分は各測定年に決定した. N供給量を変えた方が,PまたはK供給量を変えたときよりも果粒中の揮発性成分に大きな影響を及ぼした. 樹体へのN減量により全3年間の果粒中の総β-ダマセノン量(遊離型+結合型)とC-6化合物は低下し,K減量により3年中2年で総β-ダマセノン量は低下した. ‘ピノ・ノワール’果粒中のモノテルペンと他の揮発性成分に対して,養分供給の影響は比較的小さかった.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/69/2/167
I.M. Moreno, A.J. Gutierrez, C. Rubio, A.G. Gonzalez, D. G.-Weller, N. Bencharki, A. Hardisson, C. Revert:
Classification of Spanish Red Wines Using Artificial Neural Networks with Enological Parameters and Mineral Content.
pp.167-175
[エノロジカルパラメータとミネラル含有量による人工ニューラルネットワークを用いたスペイン産赤ワインの分類]
カナリア諸島のスペイン赤ワインを次の7つのクラス,Tacoronte-Acentejo(タコロンテ・アセンテホ,クラスT), Valle de la Orotava (バジェ・デ・ラ・オロタバ,クラスO), Ycoden-Daute-Isora (イコデン・ダウテ・イソーラ,クラスYDI), Abona (アボナ,クラスA), Valle deGuimar (バジェ・デ・グイマール,クラスVG), La Gomera (ラ・ゴメラ,クラスG)と La Palma (ラ・パルマ,クラス P)に分類し,20本のワインを原産地呼称の観点から調査を行った. 金属濃度(B, Ca, Cd, Co, Cr, Cu,Fe, K, Li, Mg, Mn, Mo, Ni, Na, Pbと Zn)および物理化学的パラメータ (pH,揮発酸,総酸,リンゴ酸,酢酸,残糖,アルコール含有量,遊離亜硫酸,総亜硫酸と総フェノール)をクラス間区別の記述子として用いた. 教師あり学習パターン認識法を適用した.線形判別分析で80%まで正確に区別することができた. 判別精度をあげるために,非線形分離モデルを行えるもう一種類のアルゴリズム,人工ニューラルネットワークを考慮した. この方法で,ワイン140本の100%すべてが関連する7つのクラスに正確に分類されたという優れた結果を得た. 我々の結果は,異なる島々やテネリフェ島の異なる場所などを含む,異なる場所からきたワインの差別化の作業仮説とよく一致していた.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/69/2/176
Research Notes S. Li,K.L. Wilkinson,K.A. Bindon:
Compositional Variability in Commercial Tannin and Mannoprotein Products.
pp. 176-181
[市販のタンニンとマンノタンパク質製品における組成のバラツキ]
エノタンニンとマンノタンパク質添加剤は,ワインにおけるタンパク質,低温および色の安定性を得る, またはワインの官能的特性を改変するために添加される.多くの場合,製造者は基本的な組成情報およびワインに与えられる効果のみを提供している. 本研究では,14種類のブドウをベースとしたエノタンニンと8種類のマンノタンパク質をオーストラリアの販売店から調達し, それらの組成と分子サイズ分布を決定した.両方のカテゴリーにおいて多様な製品組成がみられ,異なる製剤を添加することによって得られる効果の範囲が示された 更に幾つかの製品は,製品の組成とそれらの原料のマテリアルと良い関係性を示したが,一方でその他は有意な違いが認められなかった.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/69/2/182
K. C.-Urion, P. Winckler, A. L.-Tachon, H. Alexandre, T. Karbowiak:
Interaction between Cork and Yeast: Application to Sparkling Wine Processing.
pp. 182-187
[スパークリングワイン製造におけるコルクと酵母の相互作用]
ニ光子顕微鏡によりコルク表面の酵母を観察する革新的な方法を開発し,スパークリングワイン製造時に,抜栓可能な王冠の代用として, 2枚重ねのコルク栓が影響を与える可能性について調べた.多くのシャンパーニュ地方のワイナリーではティラージュや熟成に王冠を用いているが, 特に長期熟成を行うシャンパンに対してコルク栓を用いる会社も存在する. コルク自己蛍光と,異なる発光波長範囲を有する酵母のDAPI(4'6-diamidino-2-phenylindole)標識に基づいた分析法を開発した. 本実験ではコルクとモデルワイン,あるいはボトル中での発酵期間および熟成期間が1年以上のシャンパンワインとの接触について調べた. どちらの場合もコルク表面において,バイオフィルムの生成や酵母の強固な吸着は見られなかった. しかし,シャンパンワインの場合,コルクの細胞構造の空隙に少量の酵母が観察された. コルク表面上での酵母の生育はほとんどないので ,シャンパン製造において貼り合わせのコルクが発酵支持体となることを考慮しないでコルク栓を使うことができる.