American Journal of Enology and Viticulture
Volume 70, No.2 (2019)
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/70/2/127
C.M. Tahim, A.K. Mansfield:
Yeast Assimilable Nitrogen Optimization for Cool-Climate Riesling.
pp.127-138.(Research Articles)
[冷涼地リースリングの酵母資化性窒素の最適化]
ワインの発酵を成功させるには,適切な酵母資化性窒素(YAN)濃度が必要である;従って,窒素(N)でマストを補充するのは,業界の一般的慣行である.ニューヨークのフィンガーレイクス地域では,リースリング果汁(Vitis vinifera L.)のYAN濃度が140 mg/Lを下回ることが多く,実用的な最低限度と見なされている.ただし,涼しい気候の栽培品種と条件に対するN要求性を確認した研究は殆どない.果汁のN濃度が望ましい官能特性に及ぼす影響を試験する為,20°Brixのリースリング果汁と130mg/Lの初期YANにリン酸二アンモニウムを添加し,YANを180,250,300mg/Lに増加した.補充された各画分と変更なしの対照に,3つの異なるSaccharomyces cerevisiae酵母株[EC1118およびW15 (Lallemand)およびCote de Blancs (Red Star)]を接種した.130mgN/Lの濃度は,これら3つの酵母菌株の発酵完了に十分であり,更なるN補充でEC1118のみ,発酵速度が改善された.N補充は,酵母菌株の少なくとも1つで分析された10種類の揮発性化合物のうち8種類の濃度に影響を与えた.これらの内,ケイ皮酸エチルが減少したことを除いて,ほとんどのエステルの濃度はN補給により増加した.高級アルコールである1-ヘキサノールと2-フェニルエタノールは減少し,デカン酸は上昇し,リースリングの二つの品種特異香でありリナロールと1,1,6-トリメチル-1,2-ジヒドロナフタレンは増加したが,特異香には影響しなかった.嗜好ランキングテストでは,官能パネリストは,サプリメント処理EC1118発酵ワインよりも,サプリメントなしのコントロール(130 mgN/L)を好んだ.W15とCote de Blancsの処理ワインについては,好みに違いはなかった.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/70/2/139
K.B. Fuller, J.M. Alston, D.A. Golino:
Economic Benefits from Virus Screening: A Case Study of Grapevine Leafroll in the North Coast of California.
pp.139-146.(Research Articles)
[ウイルス検定による経済効果:カリフォルニア州北岸におけるリーフロール病の事例研究]
ウイルスおよびそれに関連する病原は治療する方法がなく,苗木業者や特に農産物生産者に高い費用を負わせる.一般的にこれらの病気は罹病した苗木や増殖用の材料から拡大する.いくつかのウイルスでは植栽後の圃場におけるウイルスの拡大がブドウ畑の健全性を決定する上で重要視される.しかしながら,ウイルスの広がりは健全な苗木を植栽すれば最小限にすることができる.本論文では,カリフォルニア州北岸におけるブドウ葉巻随伴ウイルス3(GLRaV-3)のウイルス検定プログラムの費用と利益について示す.GLRaV-3に感染していない苗木を使用した時の生産者の費用と利益を計算し,総括として北岸の醸造用ブドウ産業に対する推定を行った.GLRaV-3の検出,治療および分布調査プログラムから計算された経済効果は,その地域では年間2000万ドルを超えており,実質的に費用を上回っていた.これらの結果は,ウイルス病の拡大の震源である罹病樹をそのままブドウ畑に残すことよりも,罹病樹を除去し,新しく植え替えることによる潜在的な利益を示すものであった.費用の多くは近隣の畑の罹病樹から病気が伝搬することとも関連していた.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/70/2/147
E. Casalta, J. M. Salmon, C. Picou, J. M. Sablayrolles:
Grape Solids: Lipid Composition and Role during Alcoholic Fermentation under Enological Conditions.
pp.147-154.(Research Articles)
[ブドウ固形物:醸造条件下でのアルコール発酵中の脂質組成と役割]
清澄化後のブドウマストには残留固形粒子が含まれており,その量は清澄化レベルに依存する.酸素がない場合,固形粒子に含まれる脂質は,酵母の代謝や生育に不可欠である.それ故,我々はブドウ固形物の脂質組成とアルコール発酵への影響を調査した.1.1Lの発酵槽中で,赤,ロゼ,白ワイン醸造から得たブドウ固形物を合成マストに添加して試験発酵を実施した.β-sitosterolはブドウマストの主要なステロールであったが,固形粒子の全体的なステロール含有量はブドウ原料間でかなり異なるものであった.マストの濁度は,ステロール含有量を表すものではなかった.ステロール含有量は,脂質が制限的な酵母の栄養要因となった場合に,最大発酵速度および持続時間の決定要因になると思われた.この効果は,ステロールが直接的に酵母の窒素吸収(その結果として細胞増殖)を促し,発酵終了時の細胞生存を向上させ,発酵遅延のリスクを減らすという事実により説明することができる.従って,マストのステロール含有量を考慮することで,ワインメーカーは液相中の発酵制御を改善することができるかもしれない.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/70/2/155
C. Buyukkileci, A. Batur, A.O. Buyukkileci, H. Hamamci:
Grape Solids: Lipid Composition and Role during Alcoholic Fermentation under Enological Conditions.
pp.155-161.(Research Articles)
[温度とグリセロール形成:解糖系酵素活性に基づく因果関係に基づく提案]
多くの酵母は高温で培養すると大量のグリセロールを生成し,このことが赤ワインに白ワインよりもグリセロールが多く含まれている理由である.本研究では,この現象のメカニズムを解明するため,反応速度および熱力学によるアプローチで行った.初めに個々の酵素の反応速度の解糖系モデルで検討した.次に,温度とエタノールが個々の酵素の見かけの反応速度に及ぼす影響を測定し,モデル系に取り入れた.各酵素の活性化エネルギーは,アレニウスの式で決定した.解糖系の上流の酵素は,下流の酵素よりも温度に依存していた.改善したモデルにより,高温発酵下でのエタノールとグリセロールの生成曲線と,グリセロール収率の増加を定性的にシミュレートできることが可能となった.グリセロール分岐点周辺のグリセロール形成に関与する酵素の温度依存性の違いが,高温発酵下でのグリセロール蓄積の理由であると提案した.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/70/2/162
K.V. Miller, A. Oberholster, D.E. Block:
Predicting the Impact of Red Winemaking Practices Using a Reactor Engineering Model.
pp.162-168. (Research Articles)
[発酵槽工学モデル解析によるワイン醸造慣行の効果の予測]
赤ワインの発酵は,その均質でない性質のため,長い間正確なシミュレーションを避けてきた.本論文では,赤ワイン用ジャケット付きタンクに対する3次元・時間依存型の発酵槽工学モデルを使用し,発酵槽の容量(500; 50,000および500,000L),アスペクト比(高さ:直径が1:1および3:1),設定温度(15,25,および35℃),および初期酵母資化性窒素(YAN)濃度(100,225,および350mg/L)が発酵動態に与える影響について解析した.モデル解析により,N制限,エタノール抑制,および温度依存のMonodモデルの発酵動力学,即ち,糖,酵母,窒素,エタノールの物質移動,蒸発,対流,伝導熱伝達,果帽下のおおまかな流体の動きがシミュレーションされた.発酵槽の表面積と体積の比率,温度設定値,および初期YANは全て,シミュレートされた発酵での発酵性能に大きな影響を与えることが分かった.伝導による果帽への熱伝達も無次元化して分析した.モデルを使用したシミュレーションから,果帽管理サイクル間の果帽内の温度勾配も視覚化された.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/70/2/169
S. Restrepo, L. Espinoza, A. Ceballos, A. Urtubia:
Production of Fatty Acids during Alcoholic Wine Fermentation under Selected Temperature and Aeration Conditions.
pp.169-176.(Research Articles)
[選択的な温度とエアレーション条件下におけるアルコールワイン発酵中の脂肪酸産生]
ワイン発酵中における中鎖飽和脂肪酸(MCFA,酵母細胞に有毒)と長鎖不飽和脂肪酸(LCUFA,酵母生存に必要)の合成について調査した.Saccharomyces cerevisiae 酵母を使用し,カルメネールの実験室規模でのアルコール発酵中のMCFAとLCUFA含有量を,選択的な温度とエアレーション条件にした19つの発酵で追跡した.発酵は毎日サンプリングし,水素炎検出器付きガスクロマトグラフィーで脂肪酸を分析した.脂肪酸合成は通常の発酵条件下(28℃,pH 3.5,発酵開始時にエアレーション)で最大になり,MCFAとLCUFAは両方とも24および32℃で減少した.脂肪酸濃度は同じ発酵段階で増加したが,通常の発酵で見られる産生レベルを超えることはなかった.32℃でのMCFA/LCUFA比は3.55から4.43の間であり,この温度でMCFA産生が大きく増加したため,我々は発酵を28℃以下に維持することを推奨する.嫌気条件下において,MCFA/LCUFA比は他のエアレーション方法と比較して非常に高く,酸素は発酵の停止や遅延の原因となるMCFA合成を制限することにより発酵性能を改善することを示している.対数期の始めと終わりでのエアレーションはMCFA/LCUFA比を1.0未満に維持しており,これは発酵中に酸素が使用される場合にはLCUFA産生が大きくなることを示している.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/70/2/177
O. Sambucci, J.M. Alston, K.B. Fuller, J. Lusk:
The Pecuniary and Nonpecuniary Costs of Powdery Mildew and the Potential Value of Resistant Grape Varieties in California.
pp. 177-187.(Research Articles)
[うどんこ病の金銭的および非金銭的費用とカリフォルニア州における抵抗性品種の潜在的価値]
うどんこ病は防除に最も多くの費用が掛かる病気であり,世界中で果実品質および収量の多大な損害を引き起こしている.うどんこ病抵抗性品種は開発されているが,ブドウ生産者に対するそれらの品種の価値はまだ評価されていない.新しい品種を採用する障壁は業界によって異なっており,生産者が得る潜在的な総利益に影響するようである.うどんこ病抵抗性品種の潜在的価値を評価する第一段階としては,ブドウ栽培産業の主要業界にとってこれらの品種の導入によって軽減されるうどんこ病防除に関わる費用を評価することである.我々は,カリフォルニア州のブドウ栽培においてうどんこ病防除に対する金銭的および非金銭的費用を評価するために,農薬の使用に関わる費用,環境影響評価,カリフォルニア州農薬規制局の農薬使用レポートを使用した.我々は,2015年のカリフォルニア州全体でうどんこ病防除に関する費用は2億3900万ドルであったと見積もり,そのうち1億7600万ドルがブドウ生産者によって負われていた.加えて,うどんこ病防除はブドウ生産者による農薬散布が89%を占めていたため,うどんこ病を排除することにより病害防除から生じる環境負荷を有意に下げることができる.我々は選択分析法を使用し特定の品種に対する個々の生産者の好みを評価し,ブドウ生産者がブドウの品種名と農薬散布の減少から生じる費用削減のいずれをも重要視することを明らかにした.我々は,抵抗性品種の可能な導入計画および結果として生じる産業への利益を議論することによって本論文を締めくくる.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/70/2/188
M. Gatti, C. Squeri, A. Garavani, T. Frioni, P. Dosso, I. Diti, S. Poni:
Effects of Variable Rate Nitrogen Application on cv. Barbera Performance: Yield and Grape Composition.
pp.188-200.(Research Articles)
[バルベラの収量および果実成分に及ぼす変動型窒素散布の影響]
本論文は,リモートセンシングイメージ(解像度5メガピクセル)によって決定したNDVI(正規化差植生指数)から事前に弱,中,強に分類された樹勢をもつバルベラの畑の栄養成長および葉の栄養状況に及ぼす変動型窒素散布の長期間の影響に関する初投稿である.4年間に渡り,弱,中および強樹勢のブドウ樹に窒素無散布(0kg/ha),標準窒素散布(60 kg/ha)および変動型窒素散布(60または120kg/ha)を実施した結果,樹勢間のばらつきは3年目および4年目に有意に減少した.一方,散布方法に関連した平均効果は意味のあるものではなかった.この姉妹論文では弱樹勢のブドウ樹がもっともバランスが良かったことから,中および強樹勢のブドウ樹では窒素無散布に,弱樹勢のブドウ樹ではそのまま維持するよう散布計画を変更すべきであることが示唆された.しかしながら,樹勢強度と年次における有意な相互作用は,収量および果粒重に対する樹勢のばらつきの範囲内でかなり減少することを示した.一方,2014年および2015年の糖度および果皮色の蓄積は樹勢強度を超えて変動しなかったことから,変動型窒素散布の効果が示唆された.窒素散布の主要な効果は大部分で有意ではなかった一方で,2014年および2015年の不溶性固形物とアントシアニンの蓄積は60kg/haで窒素散布したブドウ樹で無窒素散布よりも少なかったことから,年を追って窒素に対する感受性が増加することが示唆された.しかしながら,弱樹勢のブドウ樹は窒素散布量の増加に対しほとんど無視できる反応であり,観察された多くの反応は主としてブドウ樹の適応力が減少したためであった.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/70/2/201
A. O.-Alcaraz, A.B. B.-Ortin, A. O.-Regules, E. G.-Plaza:
Elimination of Suspended Cell Wall Material in Musts Improves the Phenolic Content and Color of Red Wines.
pp.201-204.(Research Notes)
[マスト中の浮遊細胞壁成分の除去は赤ワインのフェノール化合物含量と色調を改善する]
いくつかの研究により,フェノール化合物と細胞壁の間の相互作用のため,ブドウからマストへのフェノール化合物の移動速度が制限されていることが分かっている.1つの仮説は,マストを得るためにブドウを破砕すると,一部の果皮や種子のプロアントシアニジンとアントシアニンが果皮や果肉の細胞壁に高濃度で結合し,これらの色素が最終的なワインのフェノール化合物に寄与できなくなってしまうというものである.この仮説を実際の醸造でテストするため,通常の赤ワインの醸造と,白ワインやロゼワインで一般的に行われる滓引き処理を導入した赤ワインの醸造法とを比較した.ワインの色調特性とタンニン含有量を測定したところ,変更された方法で得られたワインには,フェノール化合物が著しく多く含まれ(アントシアニン濃度が23%増加し,タンニン濃度が43%増加),色調が改善されたことが明らかになった.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/70/2/205
L. Danner, J. Niimi, Y. Wang, M. Kustos, R.A. Muhlack, S.E. P. Bastian:
Dynamic Viscosity Levels of Dry Red and White Wines and Determination of Perceived Viscosity Difference Thresholds.
pp.205-211.(Research Notes)
[辛口赤ワインと白ワインの粘度レベルと知覚される粘度差の閾値決定]
ワインの口当たりは,ワインの全体的な感覚的知覚と品質に大きく貢献する.ただし,ドライ・テーブルワインの粘度の口当たりに対する動的粘度の影響はまだ完全には理解されていない.この研究の3つの目的は,1)ワイン/キサンタンガム溶液を使用してワインの知覚される粘度差の閾値を決定する,2)オーストラリアの市販ドライ・シラーズとシャルドネのテーブルワインの動的粘度レベルを測定する,3)ワインサンプルの動的粘度と化学的パラメーター,特に,残糖,エタノール,およびpHとの関係を調査することである.20℃での0.138 mPa・secのワインの粘度差閾値は,感覚パネル(n = 45)による2つの代替強制選択差の閾値テストを昇順で決定した.20°Cでの34の市販のシャルドネワインの動的粘度は,20°Cで1.448 mPa・sec~1.529 mPa・secの範囲,そして29のShirazワインでは1.488 mPa・sec~1.695 mPa・secの範囲であった.これらの結果は,決定された閾値に基づいて,テイラーがこのシラーズのサンプルセットの粘度範囲内の粘度に関してワインを区別できる可能性があることを示しているが,シャルドネワインはそうではなかった.更に,動的粘度とエタノール濃度の間に有意な相関関係が見られたが,pHと残糖には相関はなく,両方の品種でエタノールが市販のドライワインの動的粘度を高める主な構成要素である可能性が示された.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/70/2/212
M.E. Hall, W.F. Wilcox:
Identification and Frequencies of Endophytic Microbes within Healthy Grape Berries.
pp.212-219.(Research Notes)
[健康なブドウ果実内の内生菌の同定と頻度]
無傷で健康なブドウ果実は,米国ワシントン州とニューヨーク州,オーストラリアのタスマニア州のブドウ園,および米国のスーパーマーケットで2回購入したチリから輸出されたブドウの房から得た.内生菌は真菌または細菌用培地で分離され,その後DNAのIlluminaシーケンスにより同定された.酵母属のMetschnikowia,PichiaおよびHanseniasporaの種は,細菌属Acinetobacter,BurkholderiaおよびBacillusの種と同様に,サンプルの全てのセットから回収された.バクテリア属のアセトバクターとグルコノバクターの種は,ニューヨークとタスマニアからのブドウ園サンプルから,そしてスーパーマーケットで購入したブドウからも回収された.他の複数の真菌および細菌種はあまり頻繁に回収されなかった.ワシントン州のサンプルとスーパーマーケットからの1セットについて定量すると,非サッカロミセス酵母種が真菌の大多数を占めたのに対し,様々な細菌種分布は2つのソース間およびソース内で大きく異なった.ブドウ果実内のこれら微生物内生菌の存在は,酸味腐敗の潜在的な発生だけでなく,ワインの品質における微生物テロワールのより広い概念にも関係する.