American Journal of Enology and Viticulture

Volume 71, No.2 (2020)

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/2/89

A. Goncalves, R. Palumbo, A. Guimaraes, A. Gkrillas, C. Dall’Asta, J.-L. Dorne, P. Battilani, A. Venancio:
The Route of Mycotoxins in the Grape Food Chain.
pp.89-104. (Review Article)

[ブドウのフードチェーンにおけるマイコトキシンの経路]
 ブドウは新鮮な果物から加工品まで,世界中でさまざまな方法で消費されている.ブドウの製品に関わらず,リスク管理はブドウの収穫前の段階から始まり,マイコトキシン産生菌の初期発生を制御し,チェーン全体で生じる問題を回避する.ブドウやその製品の主な懸念は,黒色のAspergillus属の存在とそれが産生するオクラトキシンAである.しかし,他のマイコトキシン産生菌も検出されており,さらに注意が必要な場合がある.品種の選択,仕立て方,土壌管理などの作物管理戦略を採用することで,真菌の増殖を抑制することができる.ブドウから得られる製品は多岐にわたるため,さまざまな真菌類がポストハーベストの劣化の原因となる可能性がある.本研究の目的は,マイコトキシン産生菌の発生とマイコトキシン生合成に関するデータを考慮して,ブドウのチェーン全体におけるマイコトキシンリスクを軽減するための戦略を検討することである.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/2/105

A. Devi, K.A. A.-Appaiah:
Yeast Bacterial Interactions during Malolactic Inoculations Affecting Anthocyanin Adsorption and Content in Shiraz Wine.
pp.105-113. (Research Articles)

[ShirazワインにおいてMLF植菌中の酵母およびバクテリアの相互作用がアントシアニンの吸着および含量に与える影響]
  ワインの色はブドウ果皮由来のアントシアニン類に起因する重要な感覚特性の一つである.研究では,酵母との同時接種中のShirazアントシアニンの吸着に対する細菌細胞(Oenococcus oeniとLactobacillus plantarumの混合培養)の関与または阻害を調べた.マロラクティック発酵(MLF)中の酵母と細菌の相互作用により,MLFとアルコール発酵を続けて行ったワインと比較して,グルコシドとVitisin Bのレベルが高くなり,クマリルとカフェイルアントシアニンのレベルが低くなった.しかし,沈殿物(滓)の詳細なプロファイリングでは,ワインに有意差が見られたにもかかわらず,アルコール発酵とMLFの接種の間でアントシアニン吸着パターンに有意差は見られなかった.滓は主にペオニジンとマルビジンのアシル化アントシアニンを含有したことから,吸着には疎水性相互作用が関与している可能性が示唆された.全体として,MLFの酵母と細菌の相互作用は,最終的なワイン組成に劇的な影響を示したが,吸着はアントシアニンの変化を支配するマイナーな変数となった.共接種のためのL. plantarum菌株を用いると,ピラノアントシアニンのレベルが上がり,これにより,共接種中の色の喪失を防ぐことが有用であるかもしれない.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/2/114

E. Kotsaki, A.G. Reynolds, R. Brown, M. Jollineau, H.-S. Lee, E. Aubie:
Proximal Sensing and Relationships to Soil and Vine Water Status, Yield, and Berry Composition in Ontario Vineyards.
pp.114-131.

[オンタリオ州のブドウ園における近接センシングと土壌と樹の水分状態,収穫量および果実成分との相関関係]
 近接センシング技術は,衛星あるいは航空機をベースとしたリモートセンシングシステムに関係した多くの制限を克服するために開発された.地上ベースの近接センシングシステムは可視光線および近赤外線のマルチスペクトル画像を収集し,正規化植生指数 (NDVI)のような植生指標を計算することができる.この研究の目的は,ブドウ栽培においてGreenSeeker光学センサ技術によって取得されたNDVIの有用性を評価し,それらの計測とブドウの生理的指標を関連づけることである.本研究では,栄養成長,収穫量および樹の水分状態はNDVIと相関する,およびフェノールおよび色調を含む果実成分の差を見極めることができるという仮説を設けた.実験区画における空間的変動は時間的に安定したパターンを示すという仮説も設けた.実験結果として,NDVIは多くの変数と相関関係が成り立つことが示唆された.樹の大きさと収量構成要素とは正の相関関係を示し,赤ワイン用ブドウ品種のフェノール量とリースリングのモノテルペン量とは逆相関関係を示した.k平均法およびMoranの空間的自己相関分析インデックスによりNDVIのクラスタリングパターンを確認した.GreenSeeker? 近接センシングツールの有用性が確認され,異なる生産性をもつ区画ごとにブドウ園を分類するための本技術の将来的な適応性が示された.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/2/132

E. Kotsaki, A.G. Reynolds, R. Brown, H.-S. Lee, M. Jollineau:
Spatial Variability in Soil and Vine Water Status in Ontario Vineyards: Relationships to Yield and Berry Composition.
pp.132-148

[オンタリオ州のブドウ園における土壌と樹の水分状態の空間的変動:収穫量と果実成分との相関関係]
 カナダのオンタリオ州において,土壌および樹の水分状態と果実成分,特に二次代謝産物との空間的相関関係を調査するために,葉の水ポテンシャルおよび表面土壌の水分含有量を用いてリースリング,カベルネ・フランおよびピノ・ノワールの樹の水分状態を評価した.本研究のゴールは,テロワール効果の牽引役としてそれらの重要性を評価することである.調査は2014年,2015年の2年に渡り実施した.カベルネ・フランおよびピノ・ノワールの総フェノール量,リースリングのモノテルペン量と樹の水分状態との間に強い逆相関関係が認められた.葉の水ポテンシャルは果実サイズと関係があり,収穫量は果汁pHと強い負の相関を示し,多くの場合,樹の大きさとは正の相関関係を示した.k平均法で補完した主成分分析は変数間の相関関係を証明した一方で,Moranインデックスもまた表面土壌の水分含有量において強いクラスタリングパターンを示した.表面土壌の水分含有量と葉の水ポテンシャルはいずれもお互いに弱い相関関係を示した.まとめると,表面土壌の水分含有量よりも葉の水ポテンシャルの方が重要な二次代謝産物(アントシアニン,フェノールおよびモノテルペン)のためのより強い指標であった.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/2/149

C. M.-Plaza, J.W. Beaver, K.V. Miller, L. Lerno, N. Dokoozlian, R. Ponangi, T. Blair, D.E. Block, A. Oberholster:
Cell Wall Anthocyanin Interactions during Red Wine Fermentation-Like Conditions.
pp.149-156

[赤ワイン発酵様条件下での細胞壁とアントシアニンの相互作用]
 細胞壁成分へのアントシアニンの吸着および脱着プロセスに対する温度,エタノールおよびアントシアニン濃度の影響を研究した.独立変数として15および30°Cの温度,0および15%のエタノール濃度のモデルワイン,および1,1.5,および2 g/Lのアントシアニン濃度を用いた.これらの実験は,単一果粒発酵環境を模倣した卓上小規模試験として3回実施した.プロセスの動力学に影響を及ぼした可能性のある細胞壁の変化を最小限に抑えるために,吸着実験の完了直後に脱着実験を実施した.アントシアニン吸着の90%以上が細胞壁材料との相互作用の最初の60分以内に生じた.しかし,脱着はさらに速く発生するようで,30分後に最大値に達した.温度,エタノールおよびアントシアニンの濃度は,吸着と脱着の両方の反応速度に大きな影響を与えた.最終的なワインのフェノール濃度は,ブドウから放出される量だけでなく,発酵槽内の固形物との相互作用にも依存することがわかった.更に,これらの相互作用は温度とエタノール濃度に依存する.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/2/157

V. Englezos, F. Torchio, P. Vagnoli, S. Krieger-Weber, K. Rantsiou, L. Cocolin:
Impact of Saccharomyces cerevisiae Strain Selection on Malolactic Fermentation by Lactobacillus plantarum and Oenococcus oeni.
pp.157-165.

[Lactobacillus plantarumとOenococcus oeniによるマロラクティック発酵に対するSaccharomyces cerevisiae菌株選択の影響]
 酵母と乳酸菌(LAB)の同時播種は,全体的な醸造時間を短縮し,ワインの微生物学的安定性を向上させるための最先端の戦略と考えられている.この播種のプロトコルは,リンゴ酸の消費率とワインの組成を調整するために酵母とLAB株を選択することに関心を呼び起こした.ここで紹介する研究は,発酵速度と栄養要求が異なるSaccharomyces cerevisiae株とLactobacillus plantarum株およびOenococcus oeni株を組み合わせた場合のリンゴ酸の消費と代謝産物生産への影響に取り組んだ.LAB播種を行わずに純培養発酵させたS.cerevisiae株は,リンゴ酸消費率と代謝産物産生の異なるパターンを示したS. cerevisiaeとLABの同時播種は,LAB株に依存して乳酸産生と滴定酸度の動態に影響を与えた.L. plantarum ML Primeでマロラクティック発酵を行ったワインは,O.oeni Lalvin VP41を播種した同様のワインよりも早く仕上り,より多くのL-乳酸を含んでいた.しかし,酸度は,アルコール発酵に用いたS. cerevisiae株に依存していた.この研究は,ワイン製造におけるL. plantarumの使用に関する新しい知識を明らかにし,LABの同時播種の有無にかかわらず,異なるワイン醸造特性を持つS.cerevisiae株がワイン組成に及ぼす影響を示した.

一覧に戻る
ページトップ