American Journal of Enology and Viticulture
Volume 63, No.1 (2012)
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/63/1/1
J.C. Danilewicz
Review of Oxidative Processes in Wine and Value of Reduction Potentials in Enology.
pp 1 – 10
[総説:ワインの酸化プロセスと製造時における酸化還元電位]
ワインの酸化還元電位は、ワインの酸化や還元の状況を示すものと考えられてきたが、その値がどの程度ワインの組成に関係しているのかは漠然としていた。酸化還元電位は酸化還元対により生じ、平衡状態において測定電極上にそれぞれが吸着され、酸化還元ペアに関わらず電位差の強度が酸化あるいは還元される成分の相対比として測定されるものである。しかし、酸化還元電位を決定すると考えられるポリフェノールに関係した酸化還元対は、ワイン中ではキノン類の上安定性のため、平衡状態とならない。酸化還元電位は酸素濃度に対する依存性が高く、プロトンあるいは酸素の還元を伴ったエタノールの酸化によって生じると考えられる。しかし、ワインの場合いわゆる酸化還元電位は低い値となり、ワインの成分の酸化還元電位を測定し、還元されやすいポリフェノール類の濃度を測定するにはサイクリックボルタンメトリー法が望ましいと考えられる。酸素の還元とポリフェノールやエタノール、亜硫酸などの酸化が関与する酸化還元対に対する酸化還元電位測定は、反応の熱力学的可能性を調べる上で有用であると考えられる。ポリフェノールと酸素の反応は鉄により触媒され、これはさらに銅によって助力される。カテコール*キノンや酸素*過酸化水素らの対は同程度の酸化還元電位を持つ。結果として、(+)*カテキンのようなカテコール類の酸化は完結せず、キノンをポリフェノール類に戻す作用がある亜硫酸など、キノンと反応する化合物によって促進される。したがって、亜硫酸は複合的な抗酸化活性を持つことになる。つまり、亜硫酸は酸素の消費を促進し、元のポリフェノールに戻す作用により、ポリフェノールのロスを防ぎ、過酸化水素生成を防ぎ、結果としてエタノールの酸化を防御している。
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/63/1/11
L. Rolle, R Siret, S. R. Segade, C. Maury, V. Gerbi, F. Jourjon
Instrumental Texture Analysis Parameters as Markers of Table-Grape and Winegrape Quality: A Review
pp. 11-28
[生食用および醸造用ブドウの品質指標としての機器によるテクスチャー分析パラメーター]
テクスチャー分析は、原材料や加工品の力学的および物理的性質を評価するため、食品産業で確立済みの分析技術である。特別なプローブを装備した荷重試験機により得られた生食用ブドウの力学的性質は、各品種のポテンシャルを知るためや市場の要求を満たすためにブドウ栽培およびポストハーベストの分野で興味が持たれるであろう。測定されたパラメーターはいくつかの官能特性と関係があるため、その商品が消費者に受け入れられるかどうかとは直接関係はない。テクスチャー分析は迅速かつ低コストで分析できる技術であり、醸造用ブドウの品質をモニタリングするツールとして醸造分野でも応用できるであろう。測定可能な力学的パラメーターの中で、果皮の厚さおよび硬さはアントシアニン抽出性および脱水カイネティクスを高い信頼度で反映する指標である。この総説では、ブドウのテクスチャー解析から得られた最近の研究成果をまとめ、ブドウの分析に適用した時のこの分析法の可能性と限界を述べ、更なる理解を必要とする現在の動向を解説する。
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/63/1/29
M. Keller, L.J. Mills, J.F. Harbertson
Rootstock Effects on Deficit-Irrigated Winegrapes in a Dry Climate: Vigor, Yield Formation, and Fruit Ripening
pp. 29-39
[乾燥気候において灌漑上足にした醸造用ブドウにおける台木の効果(樹勢、収量構成および果実成熟)]
台木の野外試験はVitis vinifera(メルロー、シラー、シャルドネ)を供試し、ヤキマバレー(ワシントン州南東)にて実施した。ブドウ樹は自根あるいは台木5C、99R、140Ru、1103P、3309C、そしてコーネル大学から得た無吊の台木(101-14 Mgtの兄弟あるいは実生。本論文では101CUとする)に接ぎ木したものを栽培した。凍害からくる新梢の枝枯れの繰り返しにより、99Rの実験を断念した。ブドウ樹の季節変化、樹勢、水分状態、収量構成要素、果実成熟度および果実形質を栽培9年目の畑で3年間調査した。自根のメルローとシャルドネは接ぎ木されたものより多くの新梢を出した。また、140Ruと1103Pを使用すると、剪定枝重が低下する傾向が認められた。しかしながら、3309Cはシラーでは最も重い剪定枝重、シャルドネでは最も軽い剪定枝重となる台木であった。梢の水ポテンシャルは3309Cで最も高く、5Cで最も低い傾向であったが、台木が季節変化、フルーツセットおよびブドウ樹の水分状況に及ぼす影響はほとんど認められなかった。収量構成に及ぼす台木の影響は接ぎ穂の品種に依存し、異なる収量構成要素がしばしばお互いの効果を打ち消すことがあった。しかし、3309C(メルローとシラー)、5C(メルローとシャルドネ)は高収量を示した。それにもかかわらず、台木は果実成熟に多少の効果があるだけで、可溶性固形物、総酸、カリウムイオン量またはアントシアニン色素量を変化させなかった。ただし、接ぎ木されたメルローとシャルドネの果実に比べ、自根のブドウ樹の果実ではpHが高くなった。全体として、台木の違いよりも、接ぎ穂の違いおよび毎年の気候の違いによる差の方が強く影響を及ぼすと言える。
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/63/1/40
J.F. Harbertson and M. Keller
Rootstock Effects on Deficit-Irrigated Winegrapes in a Dry Climate: Grape and Wine Composition
pp. 40-48
[乾燥気候において灌漑上足にした醸造用ブドウにおける台木の効果(ブドウおよびワイン形質)]
この研究では、乾燥した東ワシントンの、灌漑上足で、自根栽培されているブドウ畑で、自根と異なる接ぎ穂/台木の組み合わせを比較した。5種の台木(5C、140Ru、1103P、3309Cおよび101CU)に継いだシャルドネ、メルロー、シラーおよび各自根のブドウ樹を、ヤキマバレーにおいて、3年間(2007~2009年)各10反復(各10圃場)の評価に供試した。収穫時には、各2反復(各2圃場)から得た果実45 kgを混ぜ、5反復のワイン醸造に供試した。果実の評価として、可溶性固形物(TSS)、滴定酸度(TA)、pH、カリウム(果皮、種子、果肉)、タンニン(果皮と種子)およびアントシアニンを測定した。ワインの評価として、エタノール、TA、pH、カリウム、タンニン、鉄反応性フェノール類、アントシアニンそして色素重合体を測定した。台木は果実およびワインの組成にほとんど影響を及ぼさず、接ぎ穂と、わずかながら、収穫年によって差が認められた。すべての果実およびワイン形質は、TSSを除いて、接ぎ穂の種類で有意に変化した。TSSと果実サイズは収穫年の違いにより、一貫した差が認められた。台木は果実のアントシアニンおよびタンニンに影響を及ぼさなかったが、ワインのアントシアニンおよびタンニンには、わずかではあるが、有意な影響を及ぼした。自根のブドウ樹から醸造したワインは接ぎ木された樹から醸造したワインよりもpHが高く、カリウムおよびタンニンを多く含む傾向が認められた。アントシアニンおよびタンニンにおける果実とワインの関係は単純ではなく、より一層の研究が求められる。
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/63/1/49
Q.Sun,G.L.Sacks,S.D. Lerch, J.E.V.Heuvel
Impact of Shoot and Cluster Thinning on Yield, Fruit Composition, and Wine Quality of Corot noir
pp. 49-56
[Corot Noirの収量、果実成分およびワイン品質に及ぼす摘梢および摘房の影響]
ニューヨーク州フィンガーレイク地方の商業用ブドウ畑で栽培される醸造用ブドウ‘Corot Noir(ハイブリッド品種)’を用いて、摘房(CL)、摘梢(ST)、そして二つを組み合わせた栽培方法を検討した。2008年において、CL(ブドウ樹あたり4.8 kg)により収量は減少したが、STでは減少しなかった。2009年では、ST(ブドウ樹あたり2.0 kg)によって減少したが、CLによる減少は認められなかった。しかしながら、剪定枝量が多く(2008年ではブドウ樹あたり4.5 kg)、低い収量率(2.3~7.1の範囲)の場合、処理にかかわらず、この品種は収量が減少することが明らかとなった。2008年では、CLにより2.5Brix上昇し、2009年では、ST+CLにより0.8Brix上昇した。一方、2009年のSTにより0.8Brix上昇した。これらの処理は、収穫年に依存して、ワイン中のアントシアニン量、果皮、種子およびワインのタンニン量に影響を及ぼした。ワイン中のタンニン量(42~64 mg/L)およびタンニン抽出率(5~6 %)は、V. vinifera から醸造された赤ワインで検出される一般的な値に比べ、ともに低い値であった。二択テストにより、パネリストはST+CL処理のワインは無処理のワインおよびST処理よりも果実味があり、ST処理ワインは無処理のワインよりいずれの年も果実味が少ないと報告した。経済分析から、栽培者あるいはワイナリーが経済的な幸せを維持するためには、これらの栽培方法を実現するのに必要な労働力や収量の減少を埋め合わせするために、ボトルの価格を0.02~0.41ドル値上げしないといけないだろう。
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/63/1/57
A.Hernández-Jiménez, J.A. Kennedy, A.B. Bautista-Ortín, E. Gómez-Plaza
Effect of Ethanol on Grape Seed Proanthocyanidin Extraction
pp. 57-61
[ブドウ種子のプロアントシアニジン抽出に対するエタノールの効果]
プロアントシアニジン類はワイン用ブドウの種子や果皮に存在し、マセレーション中にマスト に抽出される。一般的に種子のプロアントシアニジン類はエタノール存在下でないと抽出され ないと考えられてきた。本実験ではエタノール濃度を0~15%にした場合の種子プロアントシア ニジン類のモデル溶液への抽出について調べた。分光光度計およびクロマトグラフィーで分析 したところ、プロアントシアニジン類の抽出にはエタノールは必要ないが、エタノールによっ て抽出速度は増加した。アルコール濃度を上げるとマセレーションの最初の6日間の抽出速度 が上がり、その後はエタノールが無くても抽出速度はすべての処理で同程度であった。これら の結果から、プロアントシアニジン類の抽出に影響しないとされていた低温浸漬(Cold soak) などの方法を用いる場合、抽出時間が重要であることが本実験により明らかになった。
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/63/1/62
F.Benkwitz, T. Tominaga, P.A. Kilmartin, C. Lund, M. Wohlers, L. Nicolau
Identifying the Chemical Composition Related to the Distinct Aroma Characteristics of New Zealand Sauvignon blanc Wines
pp. 62-72
[ニュージーランドのSauvignon blancワインの特徴香に関係する成分の同定]
異なる国際的な生産者が作る79点のSauvignon blancワイン中の種々のアロマ化合物を定量した。マルボロのSauvignon blancワインの特徴的な香りを化学的に説明することに留意した。定量の結果、すでにSauvignon blancにおける重要性が認知されている多官能基メルカプタン類やメトキシピラジン類以外にも、いくつかの揮発性化合物の重要性が明らかになった。正準判別分析、系統樹、主成分回帰分析などの多変量解析を行ったところ、ワインの官能特性と化合物との間に相関が見つかった。すなわちマルボロワインの熱帯的でフルーティーな特徴には3-mercaptohexyl acetateと3-mercaptohexanolが重要な役割を果たしており、マルボロワイン中でのスタイルの違いには、これらの化合物の割合が重要であった。
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/63/1/73
S.S. Atallah, M.I. Gómez, M.F. Fuchs, T.E.Martinson
Economic Impact of Grapevine Leafroll Disease on Vitis vinifera cv. Cabernet franc in Finger Lakes Vineyards of New York
pp. 73-79
[ニューヨーク州フィンガーレイク地方のカベルネ・フランにおけるリーフロール病の経済的影響]
世界中のブドウにとってリーフロール病は最も重要なウイルス病の一つである。リーフロール病は収量を減少させ、果実成熟を遅らせる。加えて、果汁の糖度を減少させ、酸度を上昇させる。この研究では、ニューヨーク州フィンガーレイク地方のカベルネ・フランにおけるリーフロール病の経済的影響を調べるために、ブドウ園の寿命を25年として正味現在価値を推定した。これにより、羅病率、収量低下および果実品質への影響などいくつかの設定のもと、最適なウイルス病制御法を見つけることができる。リーフロール病の推定される経済的影響は、何も行わない場合、ヘクタールあたりおよそ25,000ドル(30 %の収量低下はするが、果実品質に影響はない)から40,000ドル(50%の収量低下と10 %の果実の品質が低下する)まで変動する。もし羅病率が中程度(1~25 %)であるならば、罹病樹を間引くことによりヘクタールあたりのリーフロール病の影響を3,000~23,000ドルにまで徐々に縮小することができる。羅病率が25%より高くなった場合、ブドウ園すべての樹を椊え替えることが最適な対処法であり、その際の経済的搊失はヘクタールあたり25,000ドル程度となる。なお、ウイルステストをして保証を得たブドウ樹を椊え替えに使用した場合、リーフロール病にかかわる経費をヘクタールあたり1,800ドル以下に抑えることができると予想される。罹病率が高く(25 %以上)、収量が中程度(30 %以下)減少し、ペナルティ料が実施されない場合や開墾後19年後にリーフロール病がブドウ園に拡がった場合、何も手を打たないことは経済的に最適でないようである。これらの知見は、ブドウ園の経営者が利益を最大にするためのウイルス病制御法を構築するために、そして、ウイルステスト済みの苗の使用を広げるための動機を生み出すために価値のあるものである。
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/63/1/80
J.E. Hayes, G.J. Pickering
Wine Expertise Predicts Taste Phenotype
pp. 80-84
[ワイン熟達度と味覚表現型の関係]
アルコールの摂取、依存度、家族歴に対する味覚表現型について多くの知見があるが矛盾も多い。しかし、全体としては、被験者、結果表示法、心理物理的方法に対する注意を払った場合、味覚応答性における変動とアルコールに対する挙動の間で関連が認められている。最近の研究では味覚過度(propylthiouracil (PROP)の苦味によって調べた)は、応答性が高いだけでなく、刺激に対する識別力がより高いことが示唆されている。本実験では食品や飲料に対する「冒険性《と味覚表現型との関係を調べた。ワイン愛飲家の便宜的標本(331吊)をオンタリオ地域から集め、ろ紙によるPROP検査を実施した。また、新しい食品、飲料やワインに対する挑戦意欲、ワインとの関係(ワインエキスパート111吊とワイン消費者220吊と分類した)についての短い質問も同時に行った。単変量ロジスティック回帰分析の結果、食品に対する「冒険性《は新しいワインや飲料を試すことと関係していたが、ワイン熟達度とは関係していなかった。同様に、ワイン熟達度は、新しいワインや飲料への意欲と関係したが、食事とは関係しなかった。分離型多変量ロジスティック回帰分析では、新しいワインや飲料に対する意欲はワインの熟達度と食品冒険性と関係したが、PROPとは関係しなかった。しかし、PROPの苦味に対する平均応答性は、ワインエキスパートの方がワイン消費者より高く、条件付き分布係数はワインエキスパートとワイン消費者の間で異なっていた。一方、PROP平均値と分布度は、食品冒険性とは関係がなかった。これらの結果から、個人はそれぞれの官能能力(たとえば遺伝子*環境相関)に基づき特別な専門的職業を選択するようで、表現型では新規刺激に対する意欲を説明できないことが示唆された。
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/63/1/85
A.Montoro, E.Fereres, R.López-Urrea, F.Mañas, P. López-Fuster
Sensitivity of Trunk Diameter Fluctuations in Vitis vinifera L. Tempranillo and Cabernet Sauvignon Cultivars
pp. 85-93
[テンプラニーリョおよびカベルネ・ソーヴィニヨンにおける幹径変動の感度]
アルバセテ(スペインのカスティリャ‐ラマンチャ州)のテンプラニーリョおよびカベルネ・ソーヴィニヨンが椊栽されたブドウ園において、幹径の変動に由来したパラメーターに及ぼす水分量の影響を3シーズン(2004-2006年)検討した。幹の一日の最大収縮量(MDS)を幹径の変動から計算した。異なる灌漑処理に対するMDSの反応は二つの栽培品種間でのシグナルの振り幅で変化した。テンプラニーリョのMDSは、3年間のいずれも、ベレゾーン前でカベルネ・ソーヴィニヨンのMDSよりも有意に高かった。MDSは灌漑処理にかかわらずベレゾーン後に減る傾向があった。霜による異なる被害によって収量に差がついた1年を除いて、残りの2年では2つの栽培品種間で同様の傾向が認められた。MDSにおける灌漑処理の差は2004年および2005年のベレゾーン前後で有意であったが、2006年では、栽培品種ごとに異なる影響を及ぼした遅霜による低収量によって、有意差は認められなかった。これらの結果は、収量レベルが灌漑処理においてMDSを使用する際に考慮するべき要因の一つであることを示唆する。そして、醸造用ブドウの灌漑スケジュールのための幹径センサーの利用は、栽培品種別に異なる補正が必要であろう。
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/63/1/94
J.J. Scheiner, Justine E. V.Heuvel, B.Pan, G.L. Sacks
Modeling Impacts of Viticultural and Environmental Factors on 3-Isobutyl-2-Methoxypyrazine in Cabernet franc Grapes
pp. 94-105
[栽培そして環境要因がカベルネ・フランブドウの3-イソブチル-2-メトキシピラジンに及ぼす影響のモデル化]
カベルネ・フランブドウの3-イソブチル-2-メトキシピラジン(IBMP)濃度に影響する重要な環境および栽培変数を決定するために研究を行った。ブドウ果粒を、開花後30日(30 DAA)、50 DAAそして収穫期に、ニューヨーク州の生産ブドウ園(2008年は10、2009年は8のブドウ園)からサンプリングした。50 DAAのIBMP濃度は、より温暖であった2008年の成長期において有意に高かった(2008年, 103~239 pg/g;2009年, 12~87 pg/g)。しかし、より冷涼であった2009年の成長期においては、50 DAAから収穫期にかけて、IBMPのより小さなパーセント減少が観察され、その結果、収穫期のIBMPは、両年の間で、有意な差はなかった(2008年, 1~13 pg/g;2009年, 5~14 pg/g)。50 DAAまでのIBMP蓄積と50 DAAから収穫期にかけてのIBMPの対数減少は、120以上の栽培および環境変数(2008年は122そして2009年は140)の関数としてモデル化された。50 DAAにおけるモデル化IBMPに対して明らかになった重要な変数は、ブドウの樹勢と関連したものであり、それはIBMP蓄積と正の相関を示した。果房の日照は、栽培地全体を通してのIBMP蓄積の違いを説明できなかったが、いくつかの栽培地内における、より小さな違いをモデル化するのに重要であった。IBMPの減少は、多数の栽培地にわたって満足するようにモデル化出来なかったが、栽培地内において、減少は、標準的な果実成熟指標(可溶性固形物総量 [TSS] TSS*pH2)と最も一貫して相関した。それぞれの栽培地で造られたワインの草の香りの強さはIBMP濃度と相関しなかったが、多変量モデルは、ブドウ樹のより低い水状態が、草の香りの最も優れた予測変数であることを示した。
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/63/1/106
I.E.Dami,S. Ennahli, Y. Zhang
Assessment of Winter Injury in Grape Cultivars and Pruning Strategies Following a Freezing Stress Event
pp. 106-111(Research Note)
[ブドウ栽培種おける冬季障害の評価と凍結ストレス発生後の剪定戦略]
極度の氷点下の気温が、2009年1月に、ロッキー山脈東のブドウ栽培地域のいたるところで起こった。オハイオ州において、最低気温は*22℃から*31℃の範囲となり、それは、ブドウ樹の生産性と生存にとって危機的であると考えられた。州全体の調査が、研究および生産ブドウ園で栽培されている30以上の栽培種における芽の障害を評価するために実施された。剪定の研究もまた、オハイオ州ウースターに位置する研究ブドウ園において実施され、そこでは、ピノ・グリ(Vitis vinifera)が*26℃にさらされた後に~90%の芽が障害を受けた。剪定研究の目的は、様々な剪定戦略を評価し、速やかなブドウ樹の回復にとって最も良い剪定実践を明らかにすることである。剪定は、ブドウ樹あたりに保持される芽の増加をともなった4つの処理からなった。冬季障害評価は、Vitis viniferaの感受性栽培種において芽の障害が最も大きく、新しいハイブリッド種とアメリカ系栽培種において障害が最も少ないことを示した。コルドン、幹、ブドウ樹全体もまた、冬季障害を受けたが、剪定処理による違いは無かった。剪定強度を減少させるのにともない、収量は増加し、枝の剪定重量は減少した。結果として、5節の刈り込み処理を除くすべての処理でバランスの崩れたブドウ樹となった。さらに、翌年の芽の結実性における剪定タイプの負の繰越効果は無かった。剪定が、広範囲な冬季障害後のブドウ樹の回復における生理的な影響を持たないとしても、結論として、5節の刈り込みは、実践そして経済的理由から推奨される。
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/63/1/112
S.D. Cohen, J.M. Tarara, J.A. Kennedy
Diurnal Temperature Range Compression Hastens Berry Development and Modifies Flavonoid Partitioning in Grapes
pp. 112-120(Research Note)
[昼間の気温範囲圧縮が果粒の成長を早め、ブドウにおけるフラボノイドの分配を変える]
昼間と夜間の気温がブドウ果粒の代謝と、その結果としての組成に影響することが知られている。この研究では、圃場栽培のメルロー(Vitis vinifera)果粒のフラボノイド組成と昼間の気温範囲(DTR)の関係を調査した。DTRは、昼間の果粒を冷却し、夜間の果粒を温めることにより圧縮された。ベレーゾン前、果皮と種子のプロアントシアニジン(PA)組成において、温度処理に起因する小さな違いがあった。最も注目すべきは、DTRの圧縮にともなう、種子のフラバン-3-オール類のガレート-エステル化の減少であった。DTRの圧縮は、ブドウ果粒の成長とベレーゾンのはじまりを有意に早めた。ベレーゾン後に実施された処理は、果皮と種子のPA類に極小の影響を与えた。しかし、圧縮DTRは、アントシアニン類とフラボノール類のB環の2置換への分配を促進した。ブドウ果粒のDTRを圧縮することは、果粒成長とフラボノイド代謝の分配に一貫した効果を持ったが、一方、フラボノイド含量は有意に変化しなかった。
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/63/1/121
L.H.Zinelabidine, A.Haddioui, V.Rodríguez, F. Cabello, J.E. Eiras-Dias, J.Miguel,M. Zapater, J.Ibáñez
Identification by SNP Analysis of a Major Role for Cayetana Blanca in the Genetic Network of Iberian Peninsula Grapevine Varieties
pp. 121-126
[イベリア半島のブドウ品種の遺伝的ネットワークにおけるカイエターナ・ブランカの主要な役割のSNP分析による同定]
カイエターナ・ブランカはイベリア半島(スペインとポルトガル)に広く分布するブドウ品種である。その多くの異吊と北アフリカにおける存在は、栽培の長い歴史を示している。この研究のゴールは、カイエターナ・ブランカと他のイベリアそして地中海沿岸の栽培種との遺伝的関係を、一連のSNPマーカーを用いて明らかにすることである。総計で243の一塩基多型(SNPs)と4のクロロプラストマイクロサテライト遺伝子座により、異吊、トリオ(両親と子)、そしてデュオ(親*子)の関係を明らかにした。親としてカイエターナ・ブランカを含む6のトリオが見出され、非常に高いLODによって支持された。5のトリオは、他方の親としてAlfrocheiro Preto種を持ち、ポルトガルで使用されている栽培種(Cornifesto、Camarate、Mouratón、Malvasia Pretaそして Periquita)を生じた。スペインの栽培種Jaén Tintoは、カイエターナ・ブランカとListán Prietoの子であることが確認された。加えて、異吊とデュオは、いくつかの場合で、予測されなかった結果が検出された。カイエターナ・ブランカの両親は未解明のままであったが、カイエターナ・ブランカの地理的起源はポルトガルとスペインの境界地方の可能性があった。結果は、この栽培種が、その地域のブドウ栽培において今日的な影響力を持つことを示している。他のヨーロッパ地域と同様に、イベリア半島のブドウ栽培もまた、多くの現在の栽培種の祖先として機能してきたいくつかの品種の影響によって注目される。結果は、また、ポルトガルとスペインの栽培種の間の相互連結も示している。最終的に、研究は、SNPがブドウ樹の親の推定にとって強力な道具であることを立証している。
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/63/1/127
S.Lequin, D. Chassagne, T. Karbowiak, JP. Bellat
Cosorption of Sulfur Dioxide and Water on Cork
pp. 127-131
[コルクに対する亜硫酸と水の共吸着]
圧力測定一体型比色法を用いて、298 Kにおけるガス体亜硫酸(SO2)と水蒸気(H2O)の生コルク粉に対する共吸着について調べた。単一成分に対する等温吸着曲線は、以前に熱重量分析法で分析した結果を支持した。すなわち、SO2はコルク表面に化学的吸着をするが、H2Oは物理吸着しかしないことが確認された。さらに、コルクに対するSO2とH2Oの相互関係は、吸着作用というより吸収作用であった。SO2の化学的吸着を優位としたSO2とH2Oの競合的な吸着がまず起きる。SO2により化学的結合場所が飽和すると、H2Oによる共吸着が選択的に起こる。コルクに吸着したSO2の量はH2Oに比べて少ない。これらの結果から、コルクへのSO2の吸着はボトル中でのワイン熟成中のSO2濃度の減少を説明できないことになる。
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/63/1/132
G.Du, J. Zhan, J. Li, Y. You, Y. Zhao, W. Huang
Effect of Fermentation Temperature and Culture Medium on Glycerol and Ethanol during Wine Fermentation
pp. 132-138(Technical Briefs)
[ワイン発酵中のグリセロールおよびエタノール生産における発酵温度および培地の影響]
他の9つの酵母菌株とグリセロールの生産性が有意に異なることが知られているBH8株について、3つの異なるワイン発酵のステージの発酵反応速度、酵母の生育速度、グリセロールおよびエタノール合成に対する影響を、発酵温度(13と25°C)および培養培地(合成培地およびブドウマスト)において調べた。酵母の生存率は、両培地とも13°Cの方が25°Cより高く、より複雑なブドウのマストの方が酵母の個体密度が高くなった。グリセロール蓄積、グリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GPD)活性、GPD1遺伝子の発現量は発酵初期において最も高く、培地の高い糖濃度による高浸透圧ストレスへの応答反応であると考えられた。合成培地と比較した場合、ブドウマストの場合、25°Cの方が13°Cよりもグリセロール生産性が高く、合成培地の両温度より高かった。エタノールの生産量は主として発酵温度に影響された。13°Cの方が25°Cよりエタノール濃度が増加し、ADH1遺伝子の発現が少なく、またADH活性も低かった。HSP104およびALD6遺伝子は発酵の最終段階でエタノールのストレスにより誘導された。グリセロール生産量は酢酸やコハク酸の生成量とは相関がなかった。