American Journal of Enology and Viticulture

Volume 68, No.1 (2017)

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/68/1/1

W. Jiang, J. Niimi, R. Ristic, and S.E.P. Bastian
Effects of Immersive Context and Wine Flavor on Consumer Wine Flavor Perception and Elicited Emotions
pp. 1-10

[没入的環境とワインフレーバーが消費者のワイン味覚知覚および引き出された感情に及ぼす影響]
人間の感情的な応答は,食物単独およびその環境的状況によって影響され得ることが食品の研究で示されている.赤ワインの味の知覚と好み,引き起こされる感情が,環境によってどのような影響を受けるかはほとんどわかっていない.本研究の第一の目的は,没入的な環境により,消費者が感じるグリーン,あるいはフローラルな香りの知覚強度,好みおよびワインを飲んでいるときの感情変化を調べることであった.赤ワイン消費者(105人)に対し,フローラルな部屋(FR)とグリーンな部屋(GR)において,何もしていない対照ワイン(CW),メトキシピラジンを添加したグリーンなワイン(GW),バラ水を添加したフローラルなワイン(FW)の3種のカベルネ・ソーヴィニヨンワインを供した.ワイン消費者は,試飲をして,グリーンおよびフローラルな香り,好み,誘発された感情について点数をつけた.その結果,両方の部屋で,FWはフローラルなフレーバーが高い点となり,GWはグリーンフレーバーが高くなった.CWとFWは,GWよりも有意に(p <0.001)好まれた.ワインの好みに基づいて,3つのクラスターが特定された.CWとFWはGWより有意に高いポジティブの感情を誘発した(p <0.05)が,GWは両方の部屋でCWとFWより有意にネガティブな感情を誘発した(p <0.05).没入型環境は,フレーバーの知覚,好み,または感情的な応答に影響を与えなかった.消費者は,飲んだワインの好みに応じて3つのクラスターに分かれ,そのクラスターは特定のワインに対する好みでは一致したが,関連する感情は異なった.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/68/1/11

J.M. Mirás-Avalos, I. Buesa, E. Llacer, M.A. Jiménez-Bello, D. Risco, J.R. Castel, and D.S. Intrigliolo
Water Versus Source–Sink Relationships in a Semiarid Tempranillo Vineyard: Vine Performance and Fruit Composition
pp. 11-22

[半乾燥気候のTempranilloブドウ園における水に対するソース*シンクの関係:ブドウ樹の生産力と果実組成]
ブドウ樹の収量と果実組成は,おもに水分状態に依存する.それは特に半乾燥気候において,灌水戦略と整枝システムにより操作され得る.この研究の目的は,異なる程度の水分ストレス下における,Tempranilloブドウ樹の生長,収量そして果粒特性に及ぼすキャノピーの高さの影響を調査することである.2つのキャノピーの高さと3つの灌水戦略が,2つの整枝システムにおいて同様に適用され,組み合わせて試験された.2年にわたり(2010年と2011年),キャノピーを上げることで,ブドウ樹あたりの葉面積が26%増加しただけでなく,より大きな水分ストレスになった.結果として,収量は、3つの灌水レベルに対する高いキャノピーにおいて平均で12%減少した.これは、より低い房と果粒重量に由来する.高いキャノピーからの果粒は,より大きなトータル可溶性固形物とアントシアニン濃度,より低いトータル酸度,そしてより低いリンゴ酸と酒石酸濃度を有した.異なる灌水管理体制下における収量において僅かな違いがあった.しかし,果粒のアントシアニン濃度は,初期の上足灌水戦略を適用した時に,より高かった.収量に対する葉面積の比率よりも,むしろ,正午の茎の水ポテンシャルが,処理間のブドウ樹生産力と果実組成における違いを,よく説明した.このことは,調査した地区のブドウ樹生産力が,遮られた太陽光の量よりも,水分有効性によって,より影響されることを示唆している.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/68/1/23

M.G. Madsen, N. Kruse Edwards, M.A. Petersen, L. Mokwena, J.H. Swiegers, and N. Arneborg
Influence of Oenococcus oeni and Brettanomyces bruxellensis on Hydroxycinnamic Acids and Volatile Phenols of Aged Wine
pp. 23-29

[熟成したワイン中のヒドロキシシンナム酸類および揮発性フェノール化合物に対するOenococcus oeniおよびBrettanomyces bruxellensisの影響]
異なるBrettanomyces bruxellensis株,CBS 73とCBS 2499を椊菌したCabernet Sauvignonワインに,シンナム酸エステラーゼ活性を持つViniflora® CiNeと活性を持たないViniflora® CH11の2種類のOenococcus oeni株を椊菌し,6か月にわたりドロキシシンナム酸類(HCAs)のp-クマル酸とフェルラ酸、そしてそれらの揮発性フェノールである4-ethylphenolおよび4-ethylguaiacolの分析を行った.CiNeおよびCH 11の両方がワイン中で増殖しMLFが生じた.B. bruxellensisとO. oeniの間に明確な増殖相互作用はなかった.さらに,B. bruxellensisは,CiNeまたはCH11によるMLFを阻害しなかった.すべてのワイン中のHCA濃度は発酵114日まで増加し,その後114日目から180日にかけて減少した.CiNeを接種したワインは,発酵中のHCA濃度が最も高かった. CiNeはHCAの酒石酸エステル結合型をより多く遊離HCAに分解したが,CH11を接種したワインと比較して揮発性フェノールの生成に有意差はなかった.しかしながら,180日目ではB. bruxellensisの2つの菌株間で,揮発性フェノールおよびHCAのレベルに有意差があった.したがって,ワイン中の揮発性フェノールの濃度は,O. oeniのシンナム酸エステラーゼ活性よりもB. bruxellensisの株の違いによって影響を受けることが示された.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/68/1/30

E. Vela, P. Hernández-Orte, E. Castro, V. Ferreira, and R. Lopez
Effect of Bentonite Fining on Polyfunctional Mercaptans and Other Volatile Compounds in Sauvignon blanc Wines
pp. 30-38

[Sauvignon blancワインにおけるベントナイト清澄化が多機能性メルカプタンや他の揮発性化合物に与える影響]
ベントナイト清澄化はワインからタンパク質を除くために最も一般的に用いられる方法である.本研究では発酵および発酵後の清澄化がアロマ化合物にどのような影響を与えるのかをSauvignon blancワインについて調べた.異なるビンテージのS. blancのマストをベントナイトで処理した.ボトリングしたワインについて,一般成分醸造パラメーターとともに,品種香であるチオール類を含む60種の揮発化合物について分析を行った.その結果,ベントナイト処理は発酵後のワインを処理した場合は,より効果的にワインのタンパク質を除去した.ベントナイトの添加のタイミングやビンテージにより,いくつかの揮発性化合物が影響を受けた.S. blancワインのアロマとして重要な品種香チオール類は,発酵中にベントナイト処理が行われると,特に大きく減少した.以上の結果から,マストのベントナイト処理は,多機能性のメルカプタン類に影響を与えることにより,S. blancワインの官能的品質や品種特性にダメージを与えることが示唆された.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/68/1/39

J.M. Gambetta, L.M. Schmidtke, J. Wang, D. Cozzolino, S.E.P. Bastian, and D.W. Jeffery
Relating Expert Quality Ratings of Australian Chardonnay Wines to Volatile Composition and Production Method
pp. 39-48

[オーストラリアのChardonnayワインのエキスパートによる品質評価と揮発性化合物および製造法との関係]
シャルドネはニュートラルなブドウ品種で,多様なワインスタイルを提供し消費者に人気がある.ワイン製造方法とシャルドネワイン揮発性化合物との関係は,品質の決定要因として,解明を必要とする課題である.80以上の市販オーストラリアのシャルドネワインを,4つの異なる品質レベルに分類するよう依頼することで,エキスパートパネルによるブラインドテイスティングを用いて評価した.各ワイン中のワインアロマ化合物をマイクロ固相抽出/ガスクロマトグラフィー/質量分析法により分析し,多変量統計学的手法を用いて,エキスパートによって定義された品質との関係を調べた.定量した39種類のアロマ化合物のうち9種類の揮発性化合物(cisおよびtrans-oak lactone,furfural,diethyl succinateを含む)は,シャルドネワインの品質と有意に正の相関を示したが,11種類の揮発性物質(フルーツエステルおよびmonoterpenoidを含む)は負の相関を示した.ワインのエキスパートによってより高品質と知覚されたワインには,オークとの接触およびMLFに関連する化合物が最高濃度で存在した.一方,点数が低いワインは,若くあまり複雑ではないワインであり,フルーツエステルや他のブドウ由来化合物が豊富であった.部分最小二乗回帰を用いて本結果を解析したところ,正の関係としてcisおよびtrans-oak lactone,ethyl lactateおよび2-methyl-1-propanol,負の関係として1-propanolおよび1-hexanolの濃度により,シャルドネワインを高,中,低品質のグループに分類できた.小売価格と品質スコアの間に有意な正の相関(r = 0.469,p <0.0001)があり,根本的には質の指標として価格が有効であることが示されたが,エキスパートによる評価で決定した品質を完全に説明することはできず,他の品質に関する手がかりと合わせて考えるべきである.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/68/1/49

V. Canuti, M. Picchi, B. Zanoni, G. Fia, and M. Bertuccioli
A Multivariate Methodological Approach to Relate Wine to Characteristics of Grape Composition: The Case of Typicality
pp. 49-59

[多変量解析によるワインとブドウ組成の関係解析~典型性について]
典型性は,テロワールに関連した原産地認証保護(PDO)ワインの特徴として定義される.PDOの考え方では,PDOワインの全体的な品質を評価するために典型性による評価を使用することが可能である.本研究では,PDOワインの特徴を明らかにするために二相法を用い,その結果をChianti Montespertoli DOCGワインのケーススタディに適用した(DOCGはイタリアのPDOの頭字語).ワインの専門家のパネルによって,一連の選択したPDOワイン試料の典型性を評価し,部分最小二乗(PLS)回帰モデルを用いてワインの典型性および化学組成を調べた.得られたモデルを,PDO地域で栽培されているブドウから生産された実験ワイン(2009年,2010年,および2011年ビンテージ)の化学組成からワインの典型性を予測するために使用した.最後に,PLSモデルの回帰係数を分析して,どのブドウ化学的パラメーターがワインの典型性に重要であったかを調べた.これらは,このワインの典型性を担保するために,ワイン製造中に管理する最も重要な要因を示している.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/68/1/60

D. Zapata, M. Salazar-Gutierrez, B. Chaves, M. Keller, and G. Hoogenboom
Predicting Key Phenological Stages for 17 Grapevine Cultivars (Vitis vinifera L.)
pp. 60-72

[17のブドウ栽培種(Vitis vinifera L.)に対する生物季節学的キーステージの予測]
気象条件は作物に有意な影響を持ち,そして気温は椊物の成長をコントロールする主要なファクターの一つである.気温をもとにしたサーマルタイムモデルが多くの種の成長を予測するために利用されている.これらのモデルを実行するために,生長ステージと栽培種の間の違いを特徴づけるための適切な基準温度(Tb)の決定が要求される.この研究のゴールは,17の栽培種に対する萌芽,開花そしてベレーゾンを予測するための特有のTbとdegree-days(DD)を決定することである.Tb’sは,Prosser(WA)において,23年にわたり集められた生物季節学的データを用いた最小分散法により見積もられた.Tbはブドウ樹の生長の間,増加し,そして萌芽に対しては6.1から8.4℃,開花に対しては7.2から10.5℃,そしてベレーゾンに対しては9.4から12.8℃の範囲であった.DD積算は1月1日に開始し,それぞれの栽培種に対して推定されたTb’sを用いた.萌芽までの期間は78から180 DDの範囲,萌芽から開花までは240から372 DDの範囲,そして開花からベレーゾンは556から800 DDの範囲であった.予測における誤差は,萌芽までが4.8と7.8日の間で変動し,開花までが1.9と5.5日の間,ベレーゾンまでが7.1と12.4日の間であった.予測における誤差にもとづくと,生物季節学的ステージに対して特異的な推定Tbを用いたモデルは,0と10℃の固定Tbを用いたモデルよりも良く機能した.推定されたサーマルタイムパラメーターは,栽培品種間の違いを特徴づけるための一つのシンプルなアプローチを提供し,サーマルタイムモデルにもとづいたシンプルな決定サポートツールを通して,管理業務を実施する栽培家と産業をアシストする.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/68/1/73

Y. Sun,Y. Qin, Y. Pei, G. Wang, C.M.L. Joseph, L.F. Bisson, and Y. Liu
Evaluation of Chinese Saccharomyces cerevisiae Wine Strains from Different Geographical Origins
pp. 73-80 (Research Note)

[異なる地理的起源をもつ中国産Saccharomyces cerevisiaeワイン酵母株の評価]
Interdelta配列タイピングを用いて,以前に中国のShanshan,Xinjiang,Qing Tongxia,およびNingxia地域の15の自発的発酵から単離した349株の予備的なシーケンス分析を行い,この結果に基づいて選択したSaccharomyces cerevisiaeの54の中国固有ワイン株の遺伝的多様性を調査した.試験した54株のうち,78%(42/54)は遺伝的に異なることが確認された.株の類似性に基づく樹形図分析により,Ningxiaにおける赤ブドウ品種と白ブドウ品種の違いに加えて,Xinjiangのテーブルワイン品種とワイン品種間の酵母集団の遺伝的関係の差異が明らかになった(ダイス係数はそれぞれ0.448と0.674).カリフォルニア,フランス,イタリア,北ヨーロッパ,スペインから採取したSaccharomyces株のデータを分析に含めたところ,樹状図は51,4,48,3および1株で構成される5つのグループとなった.NingxiaとXinjiangでは,他の系統との明確な分離を示す地域特異的なS. cerevisiae生物相が示された.Xinjiangから分離されたXJ19株は,カリフォルニア州のUCD587,UCD2515,およびUCD2516と高い類似性を示した.XJ2,XJ7,XJ20,およびXJ3もXinjiangから単離されており,他の中国固有の遺伝子型および他の領域からの株との類似度は低かった.この研究は,異なる地理的地域からのワイン株と中国のXinjiangとNingxiaの地方から集められた土着のS. cerevisiaeワイン株の関係と遺伝的多様性を初めて比較した研究である.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/68/1/81

H. Hall, Q. Zhou, M.C. Qian, and J.P. Osborne
Impact of Yeasts Present during Prefermentation Cold Maceration of Pinot noir Grapes on Wine Volatile Aromas
pp. 81-90 (Research Note)

[コールドマセレーション中に存在する酵母のピノ・ノワールのワインの香気成分への影響]
ピノ・ノワールの発酵前のコールドマセレーション(8〜9℃)から分離した酵母のβ-グルコシダーゼ活性を評価した.分離した13種の酵母のうち,5種がβ-グルコシダーゼ活性を有していた. 26S rDNAのD1/D2ドメインの配列分析から,これらの酵母はMetschnikowia pulcherrima,Hanseniaspora uvarum,Lachancea thermotoleransおよび2種のSaccharomyces cerevisiaeであった.さらに,ピノ・ノワールのワインの製造に使用する前に,異なる糖濃度や温度で酵母のβ-グルコシダーゼ活性を測定した.高静水圧で滅菌したピノ・ノワールのブドウに個々の酵母種やすべての酵母種の混合物を接種した.7日間のコールドマセレーション(9℃)を行った後,S. cerevisiae RC212により27℃でアルコール発酵を行った.また,酵母の添加なしでのコールドマセレーションやコールドマセレーションなしでの発酵も行った.固相マイクロ抽出-ガスクロマトグラフィー-マススペクトロメトリー分析の結果は,コールドマセレーション中の異なる酵母種の存在が,ワイン中の揮発性成分の組成を変化させることを示した.これらの酵母は,ワイン中のエチルエステル類,分岐鎖エステル,高級アルコールおよびいくつかのモノテルペンの濃度を変化させた.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/68/1/91

Y. Chen, J.A. Jastrzembski, and G.L. Sacks
Copper-Complexed Hydrogen Sulfide in Wine: Measurement by Gas Detection Tubes and Comparison of Release Approaches
pp. 91-99

[ワイン中の銅錯体硫化水素:ガス検出管による測定と放出アプローチの比較]
最近の研究において,銅錯体はワイン貯蔵中の遊離の硫化水素(H2S)および他の悪臭のある揮発性チオールの潜在的供給源としての役割を持つことが示唆されている.しかし,これらの錯体を測定するのに必要な分析装置を揃えることは,ほとんどのワイナリーでは困難である.これらの複合体に関する研究を簡便にするため,市販の色による識別できるガス検出管を用いてワイン中の銅-硫化水素錯体を検出するための安価で便利な方法を開発した.前処理としてブライン溶液を使用することにより,この方法はモデルワインと実際のワインの両方から検出限界(0.34 µg/ L)と優れた硫化水素の回収率を示した.また,エチレンジアミン四酢酸(EDTA),ネオクプロイン,アスコルビン酸およびトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)の化合物を含む硫化銅錯体から硫化水素を放出する代替のアプローチも測定した. EDTAの存在は遊離の硫化水素を消失させた.モデルワインからの硫化水素の部分的回収率(35〜70%)は他の化合物でも示され,アスコルビン酸によって誘発された硫化水素の放出はワイン製造者にとって特に興味深いものであった.7種の市販ワインの調査では,ブライン溶液によって放出された硫化水素の錯体画分は全硫化水素プールの80〜95%であり,ネオクプロインやアスコルビン酸についてはより低い硫化水素の放出であった.しかし,いくつかのワインではTCEP処理は未知の前駆物質からより高い濃度の硫化水素を放出した.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/68/1/100

D. De Santis, M.T. Frangipane, E. Brunori, P. Cirigliano, and R. Biasi
Biochemical Markers for Enological Potentiality in a Grapevine Aromatic Variety under Different Soil Types
pp. 100-111

[異なる土壌の性質下でのアロマティック品種におけるワイン醸造の潜在力への生化学的マーカー]
ペドクリマティックはブドウやワインの品質に影響する.特に,土壌とブドウの品質の関係はテロワールの定義の中心である.この研究は異質の環境下(アレアティコ・ディ・グラドリ DOC)でラツィオ州(イタリア中央部)の北部原産のアロマティック品種であるAleatico種に焦点をあてた.環境変動を表すために5つのサブエリアを選択した.これらの栽培地域のブドウ由来のワイン中の揮発性およびフェノール系化合物とともにブドウの熟成パラメータを分析し,土壌の特性とブドウおよびワインの生化学的パラメータとの関係を評価した.土壌のテクスチャーを決定するための公式のプロトコールとWinklerの指標の計算を行った後,ペドクリマティック分析を行った.固相マイクロ抽出を用いたガスクロマトグラフ法と標準法によって,揮発性成分およびフェノール性化合物をそれぞれ測定した.記述的統計手法(分散分析およびピアソン係数)および多変量分析(主成分分析および階層的クラスター分析)を用いてデータを評価した.その結果,ブドウとワインの生化学的組成に有意な「土壌の効果《を示した.砂壌土の含有量(%)が全可溶性固形物およびフェノールの濃度と間で高い相関を示したことから,土壌はブドウ熟成パラメータに有意な影響を与えた.砂壌土のテクスチャーと中程度の骨格を持つ土壌は,アロマとフェノールの含有量に関して最高のワインのパフォーマンスをもたらした.本研究は,小さなワイン用ブドウ栽培地域であっても,より多様で競争力のあるワイン生産のためにマイクロゾーネーションの重要性を示した.本研究は,土壌とブドウのアロマティック品種の間の関係についての知見を向上させる.データは,生化学的パラメータを同定することが,地理的起源に応じたエナジーポテンシャルの指標になり得ることを示した.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/68/1/112

D.M. Gardner, S.E. Duncan, and B.W. Zoecklein
Aroma Characterization of Petit Manseng Wines Using Sensory Consensus Training, SPME GC-MS, and Electronic Nose Analysis
pp. 112-119 (Technical Briefs)

[官能的総意訓練,SPME GC-MSおよびにおい識別装置を用いたプティ・マンサンワインのアロマ特性]
バージニア州の4つのプティ・マンサンワインの香りを,官能的総意訓練法を用いて評価した.その結果をSPME GC-MSとにおい識別装置による揮発性成分の分析結果と比較した.5つの官能訓練セッションがアロマ同定の向上,アロマ強度の評価,および評価テクニックを学ばせるために13人の個人に対して実施された.10個のアロマの記述用語を,市販ワインを表現するために決定した:洋梨,モモ,フローラル,メロン,トロピカルフルーツ,エステル,バニラ,柑橘およびハチミツ.4つのワインは柑橘果実様のアロマ強度が有意に異なった(p <0.05).本研究で作成した記述用語はフランスで生産されたプティ・マンサンワインに関連する用語とは異なるものであった.GC-MS分析によりこれらワイン中で検出,分析された30種類の揮発性成分に差異が示された.これら化合物のうち,9つは香気寄与度が1以上であり,プティ・マンサンワインのアロマに寄与している可能性がある.におい識別装置の二次元プロットでは4つのワインの揮発性成分組成における95%信頼区間の楕円および群平均に有意差が認められ,GC-MS分析の結果と一致していた.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/68/1/120

P. Mohekar, T.J. Lapis, N.G. Wiman, J. Lim, and E. Tomasino
Brown Marmorated Stink Bug Taint in Pinot noir: Detection and Consumer Rejection Thresholds of trans-2-Decenal
pp. 120-126 (Technical Briefs)

[ピノ・ノワールにおけるBrown Marmorated Stink Bug(クサギカメムシ):trans-2-Decenalの検知閾値と消費者の拒絶閾値]
ブドウ房中へのクサギカメムシの混入は,アロマ化合物であるtrans-2-decenal(T2D)のワインへの付加をもたらす.グリーンやかび臭い香りと表現され,ワインの品質にとっては有害と考えられる.本研究の主な焦点は,ピノ・ノワール中のT2Dの検知閾値(DT)と消費者の拒絶閾値(CRT)を推定すること,ワイン品質におけるT2Dの影響を調べること,そして潜在的な消費者セグメンテーションを調べることである.2つの閾値は,一連のトライアングルおよびペア比較試験に適用された上昇強制選択法を用いて測定し,そして有意性が二項分布に基づいた心理測定関数とサストニアンモデルに基づいたd’値を用いて算出した.定量方法は異なるT2Dの閾値レベルを示した.パネルのDTは,心理学的適合から0.51 μg/L T2D,サストニアンスケール値から1.92から4.80 μg/L T2Dと推定された.同様に,パネルのCRTは心理測定関数から13.0 と0.05 μg/L,d’値は4.80から12.00 μg/Lの間であった.CRT以上の T2Dを含むワインは,グリーン,カビっぽさ,果実感の上足とプロのワインテイスティングパネルによって表現された.潜在的な消費者セグメンテーションをDTとCRTに基づいて検討した場合,感受性と好みの間に直接的なつながりはなかった.これらの知見に基づくと,ワイン中のT2Dに対する消費者の許容レベルを確立する場合に,CRTの使用が推奨される.さらに,d’値の使用は,閾値を概算するより精度の高い方法を提案するものであり,T2Dのようなワインの品質にネガティブな影響を及ぼす化合物に対してより適切だと思われる.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/68/1/127

K.D. Ricketts, M.I. Gómez, M.F. Fuchs, T.E. Martinson, R.J. Smith, M.L. Cooper, M.M. Moyer, and A. Wise
Mitigating the Economic Impact of Grapevine Red Blotch: Optimizing Disease Management Strategies in U.S. Vineyards
pp. 127-135 (Research Note)

[ブドウRed Blotchの経済的影響の軽減:アメリカ合衆国ブドウ園における病気管理戦略の最適化]
ブドウRed Blotch病(GRBD)は,アメリカ合衆国の主要なブドウ栽培地域のいくつかに渡って見られる,最近確認されたウイルス病である.ブドウ園の管理者に次のことを調査した.(i)カリフォルニア州のナパとソノマ郡のカベルネ・ソーヴィニヨン(Vitis vinifera cv.)とワシントン州東部とニューヨーク州のロングアイランドのメルロー(Vitis vinifera cv.)に及ぼすGRBDの経済的影響を見積もる,そして(ii)様々な病気発生率のもとでのコストを最小にする管理戦略,最適状態に及ばない果実組成による価格的上利益,ブドウ園の年数に関係した病気開始のタイミング,そしてそれをコントロールするコストを明らかにする.GRBDの経済的コストは,ワシントン州東部の$2,213/ha(病気の開始が低い初期感染レベルで起こり,そして低い価格的上利益である時)からナパ郡の$68,548/ha(初期感染率と質的上利益が両方とも高い時)の範囲であると見積もられた.さらに,我々の結果は、症候を示すブドウ樹を抜き取り,そしてウイルステストを受けたストックから得られるクリーンなブドウ樹に改椊することが,GRBD発生率が穏やかで低い(30%以下)場合は搊失を最小にし,一方,病気発生率がより高い(一般に30%より高い)場合は,完全なブドウ園の置き換えが遂行されるべきであることを示唆している.これらの結果は,調査した4つのブドウ栽培地域のブドウ園管理者が最善のGRBD管理戦略を採用することを助けるだろう.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/68/1/136

W. Zheng, V. del Galdo, J. García, P. Balda, and F. Martínez de Toda
Use of Minimal Pruning to Delay Fruit Maturity and Improve Berry Composition under Climate Change
pp. 136-140 (Technical Briefs)

[気候変動下において果実の成熟を遅らせ,果粒組成を改善するためのMinimal pruningの使用]
Minimal pruning(MP)は,労働コストを縮小し,高品質のワイン用ブドウを生産するために使用される技術である.温暖な気候の地域で栽培されているブドウに対するMPの効果を評価するために,Tempranillo (Vitis vinifera L.)に対する長期間の調査を,スペインのBadarán(La Rioja)において実施した.1999年から2013年の間のそれぞれのヴィンテージに対して,収量そしてトータル可溶性固形物(TSS)が,MPブドウ樹と通常の手作業による剪定(CHP)のブドウ樹から収穫したブドウにおいて評価された.2014年と2015年において,果実の成熟と品質に与えるMPの影響を評価するために、ブドウを22 Brixで分析した.長期間の調査は,MPはCHPに比べて収量が56%増加し,TSSが9%減少することを示した.2014年と2015年の結果は,MPが果実の成熟(22 Brix)を~17日遅らせることを示した.同一のTSSレベル(22 Brix)において,MPブドウ樹は24%低い果粒重量,57%低い房重量,そして51%大きい収量を有した.MP果実からのマストはCHP果実からのマストに比べてより大きな総アントシアニン濃度を有した(2014年において+17%そして2015年において+21%);しかし,ワインカラーの潜在的な改善は,果皮の単位面積当たりのより大きなアントシアニン合成によるというよりも,より小さな果粒サイズによるものであろう.これらの結果は,MPが果粒の成熟を遅らせることができ,そしてワインカラーを改善することを助けるであろうことを示している.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/68/1/141

O. Geffroy, T. Siebert, A. Silvano, and M. Herderich
Impact of Winemaking Techniques on Classical Enological Parameters and Rotundone in Red Wine at the Laboratory Scale
pp. 141-146 (Technical Briefs)

[ワイン醸造技術が研究室スケールでの赤ワインの標準的な醸造パラメーターとロタンドンに与える影響]
醸造変数(時間,マセレーション温度,酵母の種類,ペクチナーゼ酵素の添加)と醸造技術(低温浸漬,熱抽出,カルボニックマセレーション,ロゼの醸造)がロタンドンと標準的な醸造パラメーターに与える影響を調べるために,研究室スケールでDuras赤ワインの醸造を三重反復で行った.ロタンドンはアントシアニンや総フェノールインデックス,果皮化合物の抽出を反映するいくつかの変数と関係性は乏しく,このことはロタンドンの溶解性または他の物質との結合能力がアントシアニンや多くのブドウプロアントシアニジンとは異なる可能性を提示している.対照ワインと比較すると,ロゼまたは熱抽出処理を行ってつくったワインはそれら醸造パラメーターが大きく異なった.果皮の優先的除去に関与するこれら2つの処理は,それぞれ最低20%と13%のロタンドン濃度の低下を引き起こした.その他の処理は調査パラメーターに弱い影響をもっていたが,マセレーションでの酵素の使用や,温度やマセレーション時間の増加を含むそれら処理はロタンドン濃度の上昇を引き起こさなかった.セミカルボニックマセレーション,Saccharomyces uvarumを用いた発酵,または発酵後マセレーションの間に行う長期的果皮接触はロタンドン濃度を最低20%有意に減少させ,ワイン中の胡椒様の香りを減少させる実際的な機会を示している.

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