American Journal of Enology and Viticulture

Volume 69, No.1 (2018)

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/69/1/1

C.P. Merrell, R.C. Larsen, J.F. Harbertson:
Effects of Berry Maturity and Wine Alcohol on Phenolic Content during Winemaking and Aging.
pp. 1-11. (Research Articles)

[ワイン製造中および熟成中のフェノール性化合物含量に対する果実の成熟度とワインのアルコールの影響]
 本研究では,ブドウ品種,果実の成熟度,およびアルコールを変化させ,人工的に熟成させたワインにおけるポリマー色素生成への影響について調べた.ポリマー色素は,ワイン熟成中のアントシアニンとタンニンとの反応によって主に形成されるが,それは排他的ではない.初発のアントシアニンおよびタンニン含量およびそれらの比(A:T)を変えるために,アントシアニンおよびタンニン含量が異なる2種の品種(SyrahおよびCabernet Sauvignon)を3つの成熟期(20,24および28oBrix)で収穫した.それぞれの収穫時に,ワイナリーで果汁の糖濃度を操作して,他の2つの成熟度を模倣した.初発のワインA:Tの範囲は,品種によって異なった(Cabernet Sauvignonでは0.36から0.93,およびSyrahでは1.3から2.1).二元配置分散分析の結果,果実の成熟度およびワインの熟成が,アントシアニン含有量および消長,ならびに低分子ポリマー色素形成に有意に影響を及ぼすことがわかった.アントシアニンの消長は,成熟度と品種に応じて,相関係数R2 0.996?0.999の範囲で指数的減衰回帰によってモデル化することができた.ワイナリーでのアルコール処理および熟成時間は,高分子ポリマー色素の形成に有意に影響した.初発ワインのアントシアニン含有量は,全ポリマー色素濃度と最も高い相関を示したが(SyrahとC. SauvignonではR2がそれぞれ0.735および0.670),A:Tと全ポリマー色素の関係は比較的弱かった(SyrahとC. SauvignonではR2は0.042と0.405).ワインのフェノール性疎水性を測定することも,全体的なフェノール化合物の特性を評価するために提案されており,それは品種,果実成熟度,および熟成時間によって有意に影響を受けた.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/69/1/12

JL. Danner, A.M. Crump, A. Croker, J.M. Gambetta, T.E. Johnson, S.E.P. Bastian:
Comparison of Rate-All-That-Apply and Descriptive Analysis for the Sensory Profiling of Wine.
pp. 12-21. (Research Articles)

[ワインの官能プロファイル分析におけるRATA法と記述分析法の比較]
 本研究の目的は,幅広いワインをプロファイリングするために,先入観のない消費者に対するRATA(Rate-All-That-Apply)法がいかに有用であるか,そして得られた知覚プロファイルが古典的記述分析(DA)のものとどのくらい比較されうるかを調べることであった.この目的のために2つの研究を行った.研究1は予備的な試験で,先入観のない84人の消費者によって行われたRATAの識別能力を,訓練された11名のパネリストで行った伝統的なDA法と比較した.語彙リストは2つの方法で同じとし,6種類の赤ワイン(6種類の異なる品種)のセットに基づいて評価を行った.研究2では,71の先入観のない消費者とのRATAの差別能力を,伝統的なDAと比較してさらに解明することを目指した.研究1を拡大し,評価するサンプルの数を増やし(6品種から12種類の白ワインを使用),方法間の語彙を変えた(RATAは一般的な白ワインの語彙リストを使用し,DAはパネルにより生成した語彙リストを使用).さらに,RATAとDAとの間の感覚空間における類似性を,多重因子分析(MFA)および回帰ベクトル(RV)係数を用いて評価した.両研究の結果,RATAとDAがサンプル識別能力において非常に類似していることを明らかにした(サンプル間で著しく区別する属性の数について).さらに,MFAでは,RATAとDAとの間のサンプル構成において高い一致を示し,このことはRV係数が研究1では0.97,研究2では0.92と高い有意性となったことからも支持された.全体として,官能プロファイリングが消費者中心になる傾向を支持し,既存のプロファイリング手法に対して,RATAが有効かつ正確かつ迅速な方法として,ワイン分析に使用できることを示した.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/69/1/22

W. Kang, J. Niimi, S. Elaine, P. Bastian:
Reduction of Red Wine Astringency Perception Using Vegetable Protein Fining Agents.
pp. 22-31. (Research Articles)

[野菜タンパク清澄剤を用いた赤ワインの渋味知覚の低減]
 ワイン中の渋味成分を清澄するために植物性タンパクの使用することは,消費者の要望で関心が高くなっている.この研究の目的は,ブドウ種子抽出物を添加した市販のワインにおいて,従来の清澄剤[ゼラチンやポリビニルポリピロリドン(PVPP)]と比較して,代替としての植物タンパク(米,大豆,エンドウ豆およびジャガイモ由来)のタンニンや渋味を低下させる能力を比較することである.それぞれ清澄化を行ったワインについて,総タンニン量,総フェノール総,SO2耐性色素量,pHおよび色素量を測定し,渋味の知覚は訓練したパネル(n = 9)によって評価した.ジャガイモ,エンドウマメ,大豆およびゼラチンタンパクは同じように総タンニン量を低下させた.PVPPと同様に,米や大豆タンパクの添加によって,総フェノール量は減少した.代替としての植物性タンパクは彩度に影響を与え,ワインの色の濃さを変える可能性がある.さらに,この研究は代替の清澄剤としての米や大豆タンパクの使用による渋味の変化を初めて評価した.使用する植物性タンパクの種類によって,清澄化に関わるフェノール性化合物の種類に影響することから,渋味の知覚に関係し,さらなる詳細な調査が必要である.化学的評価および官能特性の結果から,米やジャガイモタンパクはそれぞれPVPPやゼラチンの代わりとしてのポテンシャルを持つことが示唆された.  

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/69/1/32

S.M.O. Mantilla, C. Collins, P.G. Iland, C.M. Kidman, R. Ristic, P.K. Boss, C. Jordans, S.E.P. Bastian:
Shiraz (Vitis Vinifera L.) Berry and Wine Sensory Profiles and Composition Are Modulated by Rootstocks.
pp. 32-44. (Research Articles)

[Shiraz(Vitis Vinifera L.)の果実やワイン官能プロファイル,化合物は台木によって調節される]
 自根や3種類の台木で育てたシラー(Vitis vinifera L. cv Shiraz)ブドウの果実とワインについて官能評価や化学成分の測定を行った.この研究は2つの栽培期(2009年10月~2010年11月)の間に,南オーストラリア州バロッサバレーの実験用台木を使用したブドウ畑で実施した.自根で育てたシラーから醸造したワインは,赤い果実の香りが特徴である一方,110 Richterまたはシュワルツマンの台木で育てたブドウを使用して醸造したワインは,より濃い色のリムとより濃いボディカラー,ダークベリーの香り,赤い果実の風味があり,より強くて粗いタンニンも持っていた.台木処理を行ったブドウから得られた果汁およびワインはMn,Mgおよびホウ素量が高く,自根で育てたブドウから得られた果汁およびワインはNa量が高かった.大部分の酢酸エステル類は両シーズンで自根の方が高かった.最も評価の高かったワインは110 Richterから得られたワインで,自根で得られたワインは両シーズンとも最も評価が低かった.台木による果実の露出の差が,その果実の組成や官能特性の結果に影響を及ぼす可能性があり,明らかにする必要がある.この研究で台木の使用がワインの組成,官能特性およびワイン品質に好ましい影響を与えることが明らかとなった.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/69/1/45

R.P. Schreiner, J. Osborne, P.A. Skinkis:
Nitrogen Requirements of Pinot noir Based on Growth Parameters, Must Composition, and Fermentation Behavior.
pp. 45-58. (Research Articles)

[成長パラメータ,マスト組成,発酵挙動に基づくピノ・ノワールの窒素要求量]
 ピノ・ノワールの窒素(N)要求量を再評価するため,窒素のインプットを厳密に管理した,ポットインポット方式を用いて実施した.101-14の台木で接いだピノ・ノワールは,生育4年目から5段階の窒素供給量で,ブドウの生産性,果実の化学および発酵のダイナミクスについて3年間にわたって研究した.窒素供給の変動は,期待通りにブドウの窒素状態により変化し,生殖応答よりも栄養生長パラメータに大きな影響を与えた.例えば,ヴェレゾンでは3段階の低窒素量に晒されたブドウの葉面積は全ての年で減少したが,収量については,最初の年で最も低い窒素量でのみ減少し,その後数年間2つの低い窒素量で減少した.低窒素量によって花序の花数は窒素の影響を受けなかったが,収量と実止まりはわずかに減少した.収穫期の果実成熟度指数への影響は一般に小さかったが,資化性窒素量(YAN)の影響は大きかった.3年後,YANはコントロールである約200 mgN/Lから最低窒素量のものは25 mgN/Lにまで低下した.より低いYAN,特に100 mgN/L未満のYANの場合,アルコール発酵を完了させるのに多くの時間を必要としたが,ほとんどのマストは辛口に発酵した.その地域の高級なワインを醸造するため,ブドウを典型的なレベルで収穫するとき,ピノ・ノワールの栄養生長を低下させることは,窒素の減少による収量制限の前に達成できる.100 mgN/Lという低いYANレベルは,ワイナリーにとってピノ・ノワールの最小発酵要件を達成するための,よりよい生産目標である可能性がある.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/69/1/59

P. Tessarin, G.P. Parpinello, A.D. Rombola:
Physiological and Enological Implications of Postveraison Trimming in an Organically-Managed Sangiovese Vineyard.
pp. 59-69. (Research Articles)

[有機栽培管理したサンジョヴェーゼのブドウ園におけるヴェレゾン後剪定の生理的及び醸造学的意義]
 はじめに,ブドウ樹の生理機能およびブドウとワインの品質におけるヴェレゾン後剪定の影響を調べるために,1回のヴェレゾン後剪定を行ったブドウ樹と剪定を行っていないブドウ樹とを比較した.2013と2014年では,ヴェレゾン後の遅い時期(Brix 15に達した時)に剪定した区(LT)を未剪定の対照区(CK)と早い時期(果実が豆粒大の時)に選定した区(ET)とで比較した.LT区では,可溶性固形物(糖度)やpH,滴定酸度は変化しなかったが,果皮の総アントシアニンおよびフェノール化合物濃度は増加した.また,収穫時における収量およびリンゴ酸レベルの減少や房の粗着化,重度な灰色カビ病の制限が見られた.果実色の向上やリンゴ酸濃度の低下が2013年のみET区のブドウ樹でみられた.ET区から得られた房では,LT区よりも高い密着性と退色がみられた.剪定はワインのアルコール度や主要な化学的特性,乾燥固形物,pH,滴定酸度,揮発酸を変化させなかった.しかしながら,両方の年において色素化合物とタンニンの明確な増加がLT区のワインで見られ,より安定な化合物の形成によりワイン品質の向上が可能となった.一方でETは,色の特性への影響が少なかった.遅い剪定で得られる醸造学的利点は,ワインの貯蔵段階でより明確であった.遅い剪定は,技術的なパラメータを変更することなく,果房の衛生状態や果粒の色を改善し,異なる気候条件でワイン品質を向上させるための効果的な手法であった.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/69/1/70

F. Osman, D. Golino, E. Hodzic, A. Rowhani:
Virus Distribution and Seasonal Changes of Grapevine Leafroll-Associated Viruses.
pp. 70-76. (Research Articles)

[ブドウ葉巻随伴ウイルスのウイルス分布と季節変化]
 北アメリカで栽培されているブドウ(Vitis vinifera)に感染した,ブドウ葉巻随伴ウイルス(GLRaV)量の季節的消長について2年以上の経時調査を行った.これまでに,GLRaVs種に1つ以上感染した104のブドウ樹からGLRaV-1,-2,-3,-4,-2RGの感染について調査した.ブドウはデービスで保管されているブドウ樹ウイルスコレクションと北カルフォルニアのUSDA-NCGR (National Clonal Germplasm Repository)から得た.供試材料は生育期である4月下旬から2月までとし,4月から11月までは成熟した葉柄,11月から2月までは休眠した形成層から採取した.RT-PCRとRT-qPCRにより全てのサンプルを検査し,RT-qPCRはより検出感度が高いことが明らかになった.8月から2月に集めたサンプルでは,GLRaVをより明確に検出できた.調査年の11月から2月までGLRaV-1,-3,-4,-2RGが多く発現し,GLRaV-2は1年を通して恒常的に感染していた.ウイルスの力価は成長期である4月から5月に低くなり,ウイルスの影響はGLRaV間で異なった.GLRaV-3のウイルス量は多く,季節にかかわらず一定であった.ブドウの葉巻病に関係するウイルスはブドウ樹の葉柄と形成層の両方に一様に分布していなかった.GLRaV-2は樹体内に最も均等に分布していたウイルスで,GLRaV-1,GLRaV-3,そしてGLRaV-4の順で分布が均等でなかった.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/69/1/77

M. Centinari, D.M. Gardner, D.E. Smith, M.S. Smith:
Impact of Amigo Oil and KDL on Grapevine Postbudburst Freeze Damage, Yield Components, and Fruit and Wine Composition.
pp. 77-88. (Research Articles)

[ブドウ樹の萌芽後の晩霜害,収量要素,果実,ワインの成分に対するAmigo油とKDLの影響]
 2014年と2015年に,Vitis viniferaの‘Lemberger’と‘Riesling’または種間雑種の‘Noiret’と‘Traminette’について現地調査し,生産量,果実成分,ワイン成分または官能作用に影響を与えずに,萌芽後の晩霜害を減らすための2つの噴霧製品の効果を評価した.処理は,a) 休眠期中に萌芽を遅らせて霜害を減らし,野菜油を基としたアジュバント(Amigo)の施用,b) 植物氷結抵抗力を増やすため,霜害が予測される24時間前以内のカリウム肥料(KDL)の施用とした.Amigo油施用は両年に‘Lemberger’と‘Riesling’で萌芽を有意に遅らせた(6~11日)が,‘Noiret’と‘Traminette’ではそれほど差がなかった(2~4日).2015年の晩春に‘Noiret’と‘Traminette’ブドウ園で霜害が発生し(最低気温-3℃),萌芽に至った芽の割合は,Amigo油処理区で他の処理区より高かった.Amigo油やKDLはどちらも,雑種品種では霜害を軽減したり収穫物の損失を減らしたりするようなことはなかった.対照区と比較してKDL処理した‘Noiret’葉の低い浸透ポテンシャルは,本実験の条件下では耐凍性の増加は認められなかった.Amigo油処理樹の萌芽の遅延は,全処理品種の収穫期での果実成分または‘Riesling’ワインの官能作用に影響を与えなかった.しかし,10%濃度のAmigo油では,薬害(花房重や芽の生存率の減少)が発生した.霜回避の方法としてのAmigo油については,更なる研究が必要である.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/69/1/89

M. G. Stivala, G. R. Apud, P. A.-Fernandez:
Release of Biologically Active Peptides from Grape Juice by Oenococcus oeni Isolated from Argentine Wine.
pp. 89-93. (Research Notes)

[アルゼンチンワインから分離されたOenococcus oeniによるブドウ果汁からの生理活性ペプチドの放出]
 ブドウ果汁培地(GJM)またはSaccharomyces cerevisiae mc2で発酵させたGJM中での,Oenococcus oeni X2Lのタンパク質分解活性による生理活性ペプチドの増加を調べた.酵母発酵前のブドウ果汁培地(I培地)と発酵後の培地(F培地)中にタンパク質分解活性を有するO. oeni X2Lを逐次接種するとペプチドが放出された.I培地では,インキュベ―ション48時間後の細菌由来タンパク質分解活性値が0.083 mMであり,3.88 mg N/Lのペプチド態窒素が放出された.また鉄還元抗酸化力(FRAP)が203.39 μmol/L,アンジオテンシンⅠ変換酵素阻害(ACE -Ⅰ)活性が16.49%増加した.F培地では,インキュベ―ション48時間後に,高いタンパク質分解活性(0.179 mM)が認められ,0.87 mg N/Lのペプチド態窒素が放出された.F培地で放出されたペプチドはACE -Ⅰ活性の増加を生じた(22.15%).インキュベーション48時間後における,FRAP,1, 1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル捕捉およびACE -Ⅰの比活性(放出されたペプチド量あたりに換算した活性)はI培地よりF培地で高いことが明らかとなった.本結果は,酵母増殖後の生理活性ペプチド放出において,ブドウ果汁タンパク質に対するO. oeni X2Lのタンパク質分解系が高い効率であることを示した.

英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/69/1/94

T.C. Holland, M.M. Hart, C. Bogdanoff, P. Bowen:
Response of Grapevine Rootstocks to Soil Inocula from Different Sources.
pp. 94-100. (Research Notes)

[異なる源からの土壌接種に対するブドウ台木の反応]
 アーバスキュラー菌根菌(AM)の接種は圃場で広く使われているが,ブドウ台木に対して有益かどうかは明らかではない.温室でブドウ台木リパリア・グロアール,101-14Mgt,SO4の根へのコロニー形成と初期生育と生理に関して,各地で採取した土壌微生物接種源の影響を市販の菌根菌2種類と比較した.菌根菌のコロニー形成の変異は広く,最も大きなコロニー形成(63%)は市販菌の接種で起こり,次いで自生植物の根の断片からの接種であった(19%).他の接種では,コロニー化はごくわずかか,全く起こらなかった.市販の菌根菌や各地で採取した土壌微生物によるコロニー化で,SO4樹の葉の緑化は増加した.市販の菌根菌と比較して各地で採取した土壌微生物で処理したリパリア・グロアールと101-14Mgt樹では,根・シュートのバイオマスとシュート長の増加が観察された.台木と接種原間の矛盾した影響は,植物成長を強化するための菌根菌接種の効果が予測できないことを示している.

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