American Journal of Enology and Viticulture
Volume 73, No.1 (2022)
英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/early/2021/11/08/ajev.2021.21029
M.E. Clemens, A. Zuniga, W. Oechel: Effects of Elevated Atmospheric Carbon Dioxide on the Vineyard System of Vitis vinifera: A Review. pp. 1-10.
[大気中CO2濃度上昇がVitis viniferaのブドウ園システムに与える影響:総説]
世界の大気中二酸化炭素(CO2)濃度は今後1世紀を通じ上昇し続け,農業に甚大な影響を及ぼすと考えられている.気候変動がブドウ栽培に及ぼす影響に関する文献では,気温や土壌の水不足といった変数の,単独での影響に主に焦点が当てられてきた.同様に,ブドウの木に対する大気中のCO2濃度の上昇の影響に関する研究は,カテゴリーレベルで停滞している.これは主に,将来の気候条件にてブドウ園システムを再現するため必要な年数やガス環境を現場で実験的に制御することの困難性のためである.高CO2環境下でのブドウ発育に対する環境的・文化的要因の短期的影響について,多くの研究がなされているが,長期的影響についてはまだ十分に理解されていない.米国では,フィールドベースの高CO2実験が行われていないことが,特にカリフォルニアにおけるブドウ栽培の変化を予測する上で更なる課題となっている.この総説は,大気中のCO2がVitis viniferaに与える体系的影響に焦点を当て,生理学的,表現学的,植物と害虫の相互作用を統合したものである.この統合から得た主な知見は,害虫圧力の増加,表現時期の進行,ブドウの木の水利用効率の一過性の増加,ブドウの果実の化学的変化などが予測されるというものである.水利用効率は非常に望ましいが,現在のワイン用ブドウ栽培地域に関する予測では,水利用効率は一過性に上昇し,その後は利用可能な土壌水量の不足により制限される.ブドウの木は,暑さ,干ばつ,CO2上昇の負の相乗効果の影響を受け,収穫や害虫・病害の制御を含む慣習が変化し,ワイン醸造にマイナスの影響を与えることになる.除葉,代替品種の植え付け,新品種の選択的育種など,適応のためのいくつかのオプションが議論されている.
英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/73/1/11
H.V. Walker, J.E. Jones, N.D. Swarts, and F. Kerslake: Manipulating Nitrogen and Water Resources for Improved Cool Climate Vine to Wine Quality. pp. 11-25.
[ワイン品質に対する冷涼気候の改善のための窒素と水管理]
発酵中に酵母が利用できる窒素(YAN)濃度が低いと(< 140 mgN/L),ワイナリーで添加する窒素量に関係なく,アロマやフレーバーの劣ったワインとなる.商業園への窒素と灌水量を2倍にすることの影響を,3生育期間(2016年~2019年)にわたって南部タスマニア(オーストラリア)での‛シャルドネ’と‛ピノ・ノワール’(Vitis vinifera L.)で調査し,YAN濃度を改善して,樹冠,収量,ブドウとワインの組成に対する同時発生的影響を見た.灌水と窒素の割合は6組合せとし,処理区の組合せごとに20樹に用い,両品種全体で反復処理した.処理は,標準的灌水区(約530 L/樹/年)/窒素対照区(0 kg N/ha/年),標準的灌水区/標準的窒素区(約18 kg N/ha/年),標準的灌水区/窒素2培区(約36 kg N/ha/年),灌水2倍区(約1,060 L/樹/年)/窒素対照区,灌水2倍区/標準窒素区と灌水2倍区/窒素2培区とした.各生育期間における樹数の部分集合のために,分散分析を測定変数の主要な処理効果と処理の相互作用の決定に用いた.窒素量の増加は,3生育期間中の2期間で両品種のYAN濃度を改善し,窒素2倍区はYANを許容できる(約140 mg/N/L)レベルに増やすことと関連した.灌水はYAN濃度に何の影響も与えなかった.樹の栄養成長,収量,ブドウ果実およびワイン組成に対する処理の影響は重要ではなく,気象条件に大いに影響された.冷涼な気候の地域のブドウ生産者は,樹勢を強めたりブドウおよびワインの化学的組成の質を落としたりせずにYANを向上するよう,ヴェレゾン期頃のブドウ園で窒素をより多く施用し,収益を得ている.灌水量を増やすと高い収穫量となり,生育期間中有利となるかもしれないが,現在の灌水量は十分であると思われる.
英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/early/2021/12/21/ajev.2021.21019
M. Botelho, H. Ribeiro, A. Cruz, D.F. Duarte, D.L. Faria, K.S. Khairnar, R. Pardal, M. Susini, C. Correia, S. Catarino, J. Cadima, R. de Castro, J.M. R.-da-Silva: Mechanical Pruning and Soil Organic Amending in Two Terroirs. Effects on Wine Chemical Composition and Sensory Profile: pp. 26-38.
[2つのテロワールにおける機械剪定と土壌の有機物改良.ワインの化学組成と官能特性に及ぼす影響]
機械剪定と土壌有機物改良の相互作用に関する知見はまだ少ない.本研究は,この2つの方法の相互作用がワインの品質に及ぼす影響を調べることを目的とした.ポルトガルの2つの試験圃場で,2種類の剪定方法(機械剪定(MEC),手による剪定(MAN))と5種類の有機質改良処理[対照(Ctrl),バイオ炭(BioC),都市固形廃棄物(MSWC),牛糞(Manure),下水汚泥]を施したシラー種を収穫し,4年間醸造を行った.機械剪定はワインのアルコール数,pH,総アントシアニン量を有意に減少した.機械剪定と有機肥料は,ワインの総フェノールとタンニンを減少させる傾向があり,これは「ワインの渋味の潜在能力の推定」として知られている.テイスターは,剪定方式の違いは,全体的な評価は低いながらも有意な差が見られた.汚泥は,都市固形廃棄物の堆肥や牛糞よりもワインの全体的な評価を下げる傾向があり,バイオ炭は対照と比較してテイスターの嗜好に影響を与えなかった.収量とテイスターの嗜好性には,テロワールによって6~8 kg/vine以上で強い相関が見られた.機械剪定は,収量が一定以上になると,ワインの品質に大きな影響を与える傾向があった.このように,この剪定方式では生産されるブドウの運命を考慮して,有機質改良剤の選択とその量を決定する必要がある.我々の知る限り,機械剪定と土壌有機物改良の相互作用がワインの品質に及ぼす影響に関する報告は新規性がある.
英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/early/2021/10/12/ajev.2021.21022
Q. Zha, J. Wu, X. Xi, Y. He, X. Yin, A. Jiang: Effects of Colored Shade Nets on Grapes and Leaves of Shine Muscat Grown under Greenhouse Conditions. pp. 39-47.
[温室条件下で栽培されたシャインマスカットの果実と葉における着色遮光ネットの影響]
中国南部では,温室ブドウはしばしば非常に高い温度で成熟されているが,高温はその成熟にとって有害である.栽培環境の強い光と高い温度条件を抑えるために,成熟期間中,異なる着色遮光ネット(緑,青と黒)をシャインマスカット(Vitis labruscana L.H. Bailey × Vitis vinifera L.)ブドウを覆うために使用した.冷却効果,果実の外観と味,および葉の光合成性能の違いを分析した.遮光処理は有意な冷却効果を発揮し,青色と緑色遮光ネットの光透過率は黒色遮光ネットよりも優位に高かった.遮光処理条件下で栽培されたシャインマスカットブドウはより一貫した全可溶性固形分と着色になることが分かった.遮光はブドウの香りに影響していたが,緑色遮光ネット処理の効果は低かった.遮光処理は古い葉の老化をわずかに軽減した.遮光処理はシャインマスカットブドウの一貫性を向上することがわかった.遮光処理について,緑色と青色遮光ネットは最も効果的で,高品質ブドウ栽培に有用である可能性がある.
英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/early/2021/10/12/ajev.2021.21023
H. Renner, E. Richling, D. Durner: Influence of Vibration on the Consumption of Oxygen and Sulfur Dioxide in Wine Bottles Considering Bottle Position and Headspace. pp. 48-55.
[ボトルの位置とヘッドスペース容量を考慮したワインボトル内の酸素および二酸化硫黄消費における振動の影響]
本研究では,ワインボトル内の酸素O2分布における振動,ボトルの位置および初期ヘッドスペース容量の影響を調査する.この目的のために,0.75 Lワインボトルにモデルワインを充填し,50 Hzの一定周波数で異なる振動(振動なし,500 mm/sec2, 1000 mm/sec2)で水平または垂直に保管した.このボトルは,スクリューキャップまたはコルク・クロージャで密封され,クロージャのタイプごとに2つのヘッドスペース容量をもうけた.我々の結果は,振動と水平ボトル位置はボトルヘッドスペースからワイン中へのO2の溶解を促進し,二酸化硫黄SO2の消費を加速させることを示した.振動の影響は,水平で保管したボトルで大きく,ワイン表面積が大きいほどワイン中へのO2吸収が促進されることを示している.ヘッドスペースのO2がない場合,振動とボトル位置はSO2が関与するO2劣化に影響しなかった.さらに,O2の溶解性はスクリューキャップ・クロージャのボトルよりも,コルク・クロージャのボトルの方が早く,コルキング過程で生じる過圧によるものであった.振動と水平ボトル位置はボトルヘッドスペースからワイン中へのO2溶解に大きな影響を及ぼすが,溶解したO2とSO2との化学反応には影響しなかった.水平で保管したボトルでヘッドスペースに接触するワインの表面積が大きくなることとコルキング過程により生じる過圧は,ボトルヘッドスペースからワイン中へのO2吸収を加速させる.
英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/73/1/56
C.R. Copp, A.N. KC, and A.D. Levin: Cluster Thinning Does Not Improve Fruit Composition in Grapevine Red Blotch Virus-infected Vitis vinifera L. pp. 56-66.
[摘房はブドウ赤斑病ウイルスに感染したVitis vinifera L.の果実成分を改善しない]
Vitis vinifera L.では,ブドウ赤斑病ウイルス(GRBV)に感染すると,ガス交換(炭酸同化,気孔抵抗),果実の総可溶性固形物含量および果皮のアントシアニン量の低下をもたらす.現在,病気の管理は,ウイルスの拡散に関する理解が不十分であるため,罹病樹を取り除くことに限られている.本研究では,GRBV に感染したピノ・ノワールの果実品質を改善するための灌漑と摘房の可能性を調査した.2種類の灌漑レベル(生産者標準および生産者標準の2倍(補給灌漑)と2種類の摘房レベル(果粒サイズがコショウ果実大の時期に1房/新梢に摘房,無摘房)を組み合わせ,2種類の台木に適用した.台木には,Riparia Gloireと3309Cの2種類を用いた.GRBVに感染したブドウ樹に対する処置の潜在的な影響を理解するために,3年間,ブドウ樹の成長,病状の重症度,および果実の組成を観察・調査した.補給灌漑は赤葉の比率を低下させたが,摘房は一貫した効果を示さなかった.灌漑は収量を16~23%増加させ,果実量を9~10%増加させた.摘房は収量を明らかに減少させたが,果実の質量を台木間で4~11%増加させた.2020年のガス交換は,補給灌漑によって増加したが,摘房によってわずかに低下した.これらのガス交換への影響は,収穫時の果実の総可溶性固形物含量には影響しなかった.果実糖度の増加は,灌漑と摘房の両方によって,果実の大きさに比例して葉から果実への糖の転流が増加したことを示している.Ravaz index(収量/剪定量)はRiparia Gloire台でのみ果実糖度と相関関係を示したことから,GRBVに感染した樹ではRavaz indexの調節が成熟に与える影響は限定的であることが示唆された.灌漑と摘房はいずれもアントシアニン濃度に影響せず,他の二次代謝産物への影響も一貫していなかった.収量の増減は,GRBV感染樹の果実品質に対する補給灌漑と摘房の限定的な改善が有益であるか否かを決定する可能性がある.
英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/early/2021/11/08/ajev.2021.21010
G.R. Apud, D.A. Sampietro, P.A. A.-Fernandez: Quinones of Macfadyena cynanchoides for Control of Aspergillus carbonarius and Aspergillus niger in Wine. pp. 67-73.
[Macfadyena cynanchoidesのキノン類によるワイン中のAspergillus carbonariusおよびAspergillus nigerの防除]
オクラトキシンA (OTA)は,ヒトにとって有害な天然の食品由来マイコトキシンである.OTAはワインに含まれるマイコトキシンの中で最も多く報告されており,その存在は酵母の代謝にも大きく影響する.真菌のAspergillus種のうちA. carbonariusとA. nigerは,ブドウとワインでOTAを産生する主要種である.メタ重亜硫酸ナトリウムまたはカリウムとして適用される二酸化硫黄(SO2)は,ブドウの貯蔵とアルコール発酵の初期段階において,Aspergillus種などの真菌を含む望ましくない微生物を抑制するために使用されている.しかしながら,近年,ワイン醸造業界は,SO2濃度を低減する一般的な傾向に沿って,SO2を低減,あるいは除去する代替方法を模索している.アルゼンチンに自生する蔓性植物であるMacfadyena cynanchoides茎のジクロロメタン抽出物,その抗真菌性代謝物(ラパコールおよび1-ヒドロキシ-4-メチルアントラキノン)およびメタ重亜硫酸ナトリウムの単独および併用による亜致死濃度のAspergillus種に対する抗菌活性(抗OTA)を評価した.A. carbonariusまたはA. nigerの5 × 103 spores/mLを接種したブドウ果汁に,抽出物(2500~156.3 μg/mL),キノン類(1250~78.1 μg/mL)またはメタ重亜硫酸ナトリウム(2500~156.3 μg/mL)を添加した.OTAの蓄積量は,15℃,暗所で6日間培養した後,亜致死濃度において測定した.抽出物とメタ重亜硫酸ナトリウムは2500 μg/mLで両菌の生育を完全に阻害し,ラパコールと1H4MAは1250 μg/mLを必要とした.OTA生合成の平均値は,抽出物濃度625~1250 μg/mLでコントロールより30~60%低下した.625 μg/mLのラパコールと1H4MAは共に平均30%の阻害で,同様の抗OTA効果を発揮した.メタ重亜硫酸ナトリウムは,すべての亜致死濃度でOTA産生を60~100%増加させた.抽出物またはラパコールまたは1H4MA+メタ重亜硫酸ナトリウムの二元混合物は,9.8+156.3 μg/mL, 19.5+312.5 μg/ mL, 39.1+625 μg/mL の濃度で,OTA産生を完全に阻害した.さらに,ラパコール+メタ重亜硫酸ナトリウム(9.8+156.3 μg/mL)の混合物は,アルコール発酵完了までの時間を遅延させたが,Saccharomyces cerevisiaeの生存率を下げず,発酵終了時の物理化学パラメータも変化させなかった.収穫したブドウへの亜硫酸塩の投与量を減らす場合には,メタ重亜硫酸ナトリウム+ラパコール混合物は,Aspergillus防除のための抗真菌および抗OTA剤として可能性を有する.