American Journal of Enology and Viticulture
Volume 72, No.4 (2021)
英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/72/4/285
P. L.-García, D.S. Intrigliolo, M.A. Moreno, A. M.-Moreno, J.F. Ortega, E.P. P.-Álvarez, R. Ballesteros: Assessment of Vineyard Water Status by Multispectral and RGB Imagery Obtained from an Unmanned Aerial Vehicle. pp. 285-297.
[無人航空機から得たマルチスペクトルおよびRGBイメージによるブドウ畑の水分状態の評価]
無人航空機搭載のマルチスペクトルカメラおよび通常のカメラ(RGBイメージ)は極めて高感度の空間的,時間的,且つ分光的な解析データを提供する.ブドウ畑の水分状態を評価する上でこれらの技術の能力を調査するため,2018年および2019年にスペイン南東部に位置する,モナストレル(ムールヴェードル)が栽培されているブドウ畑で研究を実施した.異なる水質と流量を含め,いくつかの灌漑方法を適用した.生育シーズンを通して,無人航空機搭載の通常カメラとマルチスペクトルカメラを使って飛行した.植生(土壌および影などがない)だけを用いたイメージから可視およびマルチスペクトル植生指数を決定した.圧力チャンバーにより新梢の水ポテンシャルを測定し,生育シーズン間の水ストレス積分値(Sψ)を得た.Sψを予想するために植生指数と緑色樹幹を使った単回帰分析モデルを検討した.結果として,可視植生指数がもっともSψと相関した.緑葉指数,可視大気抵抗植生指数および緑色樹幹は2018年において最も適合し,それぞれ決定係数で R2 = 0.8,0.72および0.73を示した.2018年のデータをもとに開発した最も優れたモデルを2019年のデータに適用したとき,そのモデルの適合度は不十分であった.この結果は,無人航空機によるイメージングから水ストレスの状態を予測するモデルを再開発するためにはブドウ樹のストレスに関して地上での測定を各生育シーズンで実施しなければいけないことを示唆する.
英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/72/4/298
M. Liu, Y. Song, H. Liu, M. Tang, Y. Yao, H. Zhai, Z. Gao, and Y. Du: Effects of Flower Cluster Tip Removal on Phenolics and Antioxidant Activity of Grape Berries and Wines. pp. 298-306.
[花穂切除がブドウおよびワインのフェノール化合物量および抗酸化活性に与える影響]
ヴェレゾンから成熟までの期間に日光の不足は,フェノール化合物の生成阻害の主要な要因となる.本研究では,花穂切除(CTR)と呼ばれる間引き技術をVitis vinifera L. Marselanに利用し,果実成分,フェノール組成,および果皮とワインの抗酸化活性を測定した.CTRは果房を小さくし,滴定酸度を低下させ,果実の総可溶性固形物を増加させた.またCTRは果皮の小花柄端部における総フェノール化合物,アントシアニン,タンニン,およびフラボノイドの濃度を増加させ,12のフェノール化合物の濃度が高くなった.またCTRにより,ワイン中の総フラバノールおよびアントシアニンの濃度も増加した.CTRによりブドウおよびワインの抗酸化能力も増加した.フェノール関連遺伝子の発現は,CTR処理した果皮で増加していた.
英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/72/4/307
C.R. Copp, A.D. Levin: Irrigation Improves Vine Physiology and Fruit Composition in Grapevine Red Blotch Virus-Infected Vitis vinifera L. pp. 307-317.
[灌漑はレッドブロッチ・ウイルスに感染したVitis viniferaの生理特性および果実成分を改善する]
レッドブロッチウイルス(GRBV)は光合成速度,総可溶性固形物含量(TSS)および果実アントシアニン濃度を減少することによりVitis viniferaの生理特性およぶ果実成分に負の影響を及ぼす.現在,発生率の高いブドウ畑では損失の大きい,感染した樹の伐採以外の栽培管理法を生産者は持っていない.樹のストレスを栽培管理で軽減することによってウイルス感染による樹の生理特性および果実成分への影響を抑えることができるか調査するために,南オレゴンのGRBVに感染したピノ・ノワールを用いて2018年に本研究を開始した.3年に亘り,樹の成長および生理特性,病害発生率および果実成分に及ぼす灌漑および肥料の管理水準および追加水準の影響を観察した.2019年および2020年において補足灌漑は樹の生理特性および果実成分に影響したが,施肥は3年間に亘り有意な影響を及ぼさなかった.補足灌漑によって光合成速度,栄養成長,収量,果粒重,TSSおよび滴定酸度は増加した一方,病害発生率(樹あたりの病徴出現葉)は減少した.2020年に補足灌漑により果粒サイズが増加したにも関わらずアントシアニン量の増加が観察されたが,補足灌漑は二次代謝産物に対し一定して影響を及ぼさなかった.処理水量に関わらず,樹の水状態を高く維持することにより光合成,樹冠サイズが効果的に増加し,結果として糖の蓄積を促進した.結局のところ,樹の水分状態を高く維持すること(Ψstem > -0.8 MPa)によりGRBVが樹の生理特性および果実成分に及ぼす負の影響のいくつかを軽減できるかもしれないことをこれらの結果は示唆する.
英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/72/4/318
M. North, B.A. Workmaster, A.Atucha: Cold Hardiness of Cold Climate Interspecific Hybrid Grapevines Grown in a Cold Climate Region. pp. 318-327.
[寒冷地で栽培した異種間雑種ブドウの耐寒性]
優れた耐寒性により選抜された寒冷地向け種間雑種ブドウ樹(CCIHG)は,寒冷地でのブドウ生産を拡大してきた.しかし,極渦や頻繁に起きる秋や春の低温などの異常気象により,収量の低下やブドウ樹の枯死がしばしば起きる.この研究の主な目的は,中西部の北部で栽培している5つのCCIHG品種の芽の耐寒性の変化を評価して,休眠期間の凍結による損傷の相対的なリスクを明らかにし,寒冷気候で栽培されたCCIHG品種に芽の耐寒性予測モデルを適応させた.芽の耐寒性は,示差熱分析(DTA)で芽の致死温度を測定することにより,休眠期間を通して隔週で評価した.凍結温度になる前に,耐寒性のレベルが増加する初期順応反応を示した.2年共に,2月に最も耐寒性が高かった(-28 ~ -30°C).しかし,凍結脱水によって得られると思われる深いレベルの凍結ストレス耐性は,DTAでは検出されなかった.CCIHG品種は,春の低温蓄積により脱順化が加速された.CCIHG品種の休眠閾値温度の範囲を拡大することにより,離散動的法による耐寒性予測モデルを再パラメーター化し,平均二乗誤差平方根(RMSE) = 1.01の予測が得られた.CCIHG品種は芽の耐寒性に優れているが,脱順化の早さは春の凍害のリスクを高めるため,この特性は将来のCCIHG品種普及のために評価しておく必要がある.CCIHG品種の離散動的耐寒性予測モデルなどの開発は,凍害,収量およびブドウ樹の損失を最小限に抑えるために役立つ.
英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/early/2021/06/10/ajev.2021.20045
C. M.-Plaza, N. Dokoozlian, R. Ponangi, T. Blair, D.E. Block, A. Oberholster: Correlation between Skin Cell Wall Composition and Polyphenol Extractability of Pinot noir and Cabernet Sauvignon Grapes. pp. 328-337.
[Pinot noirとCabernet Sauvignonの果皮細胞壁組成とポリフェノール抽出率の関係]
カリフォルニアの4か所のPinot noirとCabernet Sauvignonの果皮細胞壁物質(CWM)の組成を分析し,ワイン製造条件でのフェノール抽出率との関係を調べた.地域ごとに複数のブドウ園(サイト)を調査した.細胞壁組成分析は,総可溶性糖,タンパク質,非セルロース系グルコース,セルロース,リグニン,脂質,総ポリフェノール量,可溶性多糖類,ウロン酸,および分離効率について調べた.CWM組成は主にサイト固有であり,品種による多少の影響があり,生育地域による影響はほとんどまたはまったくないことが示された.ブドウのフェノール化合物として,単量体フラバン-3-オール,アントシアニン,高分子フェノール化合物,および高分子色素を分析したが,品種の区別に使用可能であった.同じ地域で栽培されたブドウは,同様のフェノール抽出率を示し,栽培地域が重要な影響を与えており,CWM組成とブドウのフェノールとの間の相乗効果が示された.CWM組成分析したところ,ペクチンの脱メチル化がフェノール化合物の溶出を促進するのに対し,リグニン含有量は抽出されたフェノール化合物濃度と負の相関があった.タンパク質は高分子フェノール化合物量と負の相関を示したが,高分子色素量とは相関が見られなかった.アントシアニンの抽出率は,果皮と種子の両方に存在する他のフェノールよりも,ブドウの果皮内のアントシアニン含有量に大きく影響された.
英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/72/4/338
J.C. Danilewicz: Toward: Understanding the Mechanism of Wine Oxidation. pp. 338-345.
[ワインの酸化機構の解明に向けて]
酸素(O2)の電子配置は,ポリフェノールなどのワインの還元剤と直接反応させることができない.それは,鉄(Fe)の触媒的な作用に依存し,鉄は,Fe(II)とFe(III)の間で酸化還元サイクルが行われている.O2がFe(II)をFe(III)に酸化し,Fe(III)がポリフェノールを酸化する.低濃度の銅は酸化を促進し,特に亜硫酸塩のような求核剤はポリフェノールの酸化を促進する.空気から保護されたワインでは,鉄は主にFe(II)として存在するが,Fe(III):Fe(II)の濃度比は空気曝露により直ちに増加し,様々な速度や値で安定化する.酸化過程をより理解するために,空気で飽和させたモデルワイン中のFe(II)の酸化と,モデルワイン中の窒素下でのカテコールによるFe(III)の還元を別々に検討した.Fe(II)がO2と反応して生成したFe(III)は反応を遅らせる.ワインと同様に,Fe(II)を酸化させる中間体である過酸化水素を除去するため,亜硫酸塩を含むことが重要であった.この反応はFe(II)では擬二次的であり,O2への両電子の移動が速度決定の要因であることが示された.同様に,カテコールによってFe(III)が還元されると,生成したFe(II)が反応を阻害し,全体としてFe(III)の擬二次系の速度則に従うことが示された.Fe(II)の酸化速度はFe(III)の還元速度より遅いが,ワインの酸化のように両反応が同時に起こる場合,Fe(III)とFe(II)の濃度が平衡し,その速度は等しくなった.検討した条件下では,これは32%のFe(III)で起こった.この平衡は,赤ワインの場合と同じように,すぐに到達した.酸化プロセスに関するこれらの知見は,ワインの組成,酸化還元状態及びFe(III):Fe(II)濃度比の関係を説明するのに役立つであろう.
英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/72/4/346
M.J. Persico, D.E. Smith, M. Centinari: Delaying Budbreak to Reduce Freeze Damage: Seasonal Vine Performance and Wine Composition in Two Vitis vinifera Cultivars. pp. 346-357.
凍害を軽減するための出芽遅延.2種類のVitis vinifera栽培品種における季節ごとのブドウの木の成長とワインの組成]
春の凍結は世界中のブドウ園の生産性に悪影響を及ぼしている.我々はブドウの発芽を遅らせるための2つの方法を比較するため,季節的変化,収穫時構成要素,果粒品質,そしてワイン成分組成,炭水化物含量,芽の凍結耐性を含む収穫後の影響を評価した.出芽を遅らせる2つの方法は,植物油ベースの機能性薬剤(アミーゴ)を休眠芽に8%および10% (v/v)で散布する方法と,Eichhorn-Lorenz (E-L) 7期に達した時点で芽かきをする後期剪定である.2018年と2019年に2つのVitis vinifera品種,レンベルガーとリースリング,に処理し,出芽遅延処理を行わない対照区と比較した.アミーゴと後期剪定は,対照区と比較して出芽を遅らせた.出芽の遅れは,アミーゴ8%で3~6日,アミーゴ10%で5~8日,アミーゴ10%で5~8日,後期摘心では10~11日遅れであった.2019年は出芽期に氷点下になった.対照区のブドウ樹と比較して,後期剪定のレンベルガーのブドウ樹は,生育期の新梢の損傷が少なく,収穫時の収穫量が多かった.出芽の遅延処理はいずれの年もワインの化学的性質に影響を与えず,翌年の休眠期の炭水化物貯蔵や芽の凍結耐性にも影響を与えなかった.しかし,リースリングで剪定を遅らせると,対照区のブドウ樹と比較して果房と果粒の重量がそれぞれ最大で34%と22%減少した.更にアミーゴ10%をリースリング樹に処理すると芽の生存率が低下する可能性があった.一般的に剪定を遅らせるとアミーゴを散布するよりも,ブドウの樹勢やワインの組成に悪影響を与えることなく発芽を遅らせ,凍害を軽減できる.ただし,後期剪定が品種によっては果房重量に影響することは考慮しなければならない.
英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/early/2021/08/18/ajev.2021.21014
M. Keller and L.J. Mills: High Planting Density Reduces Productivity and Quality of Mechanized Concord Juice Grapes. pp. 358-370.
[密植栽培は機械化されたジュース用コンコード・ブドウの生産性と品質を減少させる]
栽植密度は,ブドウ生産者にとってブドウ園開設以前に,長期間の意味を持つ決定の鍵となる.点滴灌水,機械剪定を利用したジュース用コンコード・ブドウを用いて2つの列間距離(2.44 m,2.74 m),4つの列内距離(0.91 m,1.83 m,2.7 4m,3.66 m)の効果を調べた.その結果,収量と果実組成に関して栽植密度は997~4,485樹/haの範囲が適していた.樹冠規模,収量構成要素,果実組成を,植え付け3年後から6年にわたって測定した.最初の収穫期において0.91mと1.83 mの樹間距離とした場合の収量(11.8 t/ha)は2.74 mと3.66 mの樹間距離とした場合の収量(5.6 t/ha)の2倍となり,翌年からの5年間の平均値は0.91 mの樹間距離では他の栽植距離での収量(29.2 t/ha)より38%減(18.2 t/ha)となった.最後の4年間,列間2.44 mで植えた樹の平均収量は2.74 mでの樹より2 t/ha多かった.密植栽培(0.91 m)樹の収量潜在力と果実品質は,旺盛な栄養成長,高い樹冠密度,劣った園内気候により低下し,その結果,一樹当たりの着果数,一果房当たりの着粒数,果房重は減少し,穂軸の壊死は多発した.樹冠内の葉の枯死は樹間距離が0.91 mの樹から収穫した果汁の,養分の再移動と高いカリウム含量およびpHに関係していた.果汁の可溶性固形物含量,滴定酸度,色は栽植密度に影響を受けなかった.以上の結果,灌水設備が整備され非常に機械化された園にジュース用ブドウを密植栽培すると,収量潜在力と果実品質の両面に悪影響を示すことが分かった.