American Journal of Enology and Viticulture

Volume 72, No.3 (2021)

英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/72/3/209

T.H. Nguyen, A.L. Waterhouse: Redox Cycling of Iron: Effects of Chemical Composition on Reaction Rates with Phenols and Oxygen in Model Wine. pp. 209-216.

[Feの酸化還元サイクル:モデルワイン中のフェノール類および酸素との反応速度に対する化学組成の影響]
 ワインの酸化は,酸素によるFe(II)の酸化とフェノール類によるFe(III)の還元の2つの酸化状態間の鉄の酸化還元サイクルにより行われる.モデルワインを用いてフェノール類の化学構造,pH,Cuがこれらの反応の速度に及ぼす影響を評価した.求核剤が存在しない場合,ピロガロールは4-メチルカテコールよりもFe(III)との反応性が高かった.これは,フェノール類の構造に依存した反応性の違いと,酸化における求核剤の重要性を示している.酸素消費の速度は,Fe(II)がFe(III)からリサイクルされる速度に依存するという仮説が立てられたが,実際はそうではなかった.ベンゼンスルフィン酸存在下での4-メチルカテコールによるFe(III)の還元速度は,pHが高いほど低下したが,酸素消費量はpHが高いほど速くなった.更に,CuはFe(III)の還元速度に影響を与えず,酸素消費速度を有意に増加させた.このことは,Feを介して結合しているにも拘らず,2つの反応が同期して起こっていないことを示している.酸素消費の疑似一次速度定数は,求核剤が存在しない場合(ワインではありえない)を除き,Fe(III)還元の速度定数よりもはるかに低かった.このことから,Fe(II)酸化がワインの酸化経路の律速反応であることが示唆された.従って,ワインの熟成速度は化学組成ではなく,酸素の侵入により制限されていると考えられる.しかし,ワインの全体的な酸化能力は,構成要素であるフェノール類や求核剤に依存している可能性があり,これらの要因を評価する方法は興味深い.

英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/72/3/217

M.L. McCoy, G.-A. Hoheisel, L.R. Khot, M.M. Moyer: Assessment of Three Commercial Over-the-Row Sprayer Technologies in Eastern Washington Vineyards. pp. 217-229.

[東部ワシントン・ブドウ園での3つの商業的列上噴霧器技術の評価]
 ワシントンのワイン・ブドウ生産者は機械による剪定と収穫をブドウ園管理技術として早くから利用しているが,化学物質を用いた新技術の利用は遅かった.本研究では,生産者が異なるブドウ園のシステムとワイン・ブドウの樹冠に対して噴霧器を選んで最適化できるように,列上噴霧器とその付着と飛散に関する技術情報を明らかにした.3つの商用噴霧器技術(マルチ・ファン・ヘッド,圧搾空気,静電気)について,2016年と2017年生産年度の樹冠への付着と飛散を評価した.Vitis viniferaの‛シャルドネ’と‛リースリング’園で2つの実施時期(生育時期の早期と中期での散布)でのデータを集め,葉の裏と表での噴霧付着パターンと園内の空中と地表での飛散を決定した.全ての噴霧器技術は,両実施時期で一貫した樹冠内の付着と飛散パターンを示した.噴霧器技術に関係なく,最も多くの付着は結実部位より,むしろ樹冠上部であった.同様に,空中および地表で最も飛散したのはスプレーされた列に最も近い列で起こり,本研究で評価した3つの全噴霧器技術で飛散は比較的低いことが明らかとなった.

英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/72/3/230

I. Weilack, C. Schmitz, J.F. Harbertson, F. Weber: Effect of Structural Transformations on Precipitability and Polarity of Red Wine Phenolic Polymers. pp 230-239.

[赤ワインの高分子ポリフェノールの析出性と極性に及ぼす化学構造の変化の影響]
 縮合型タンニンと高分子色素は,色の安定性,味,口当たりに寄与する赤ワインの必須成分である.赤ワインに含まれる高分子ポリフェノール(PP)は,フラバン-3-オールのモノマーとアントシアニンからなり,渋味を引き起こす原因となっている.プロアントシアニジンのポリマーは化学的に不均一なため,高分子PPの構造的特徴を決定する分析方法は限られている.アントシアニンを含むと化学構造はさらに複雑になり,渋みに構造が与える影響を評価することが殆ど不可能になる.赤ワインの高分子PPの構造的多様性をより良く理解するために,本研究では強制熟成と高分子PPワイン抽出物のフラッシュ分画を組み合わせて,高分子PPと2つの物理化学的特性(極性と親水性)との関係を明らかにすることを目的とした.赤ワインの分画は,極性,オクタノール-水分配係数,タンパク質沈澱アッセイ,超高速液体クロマトグラフィー/質量分析法および色調を用いて評価した.ワイン中のタンニン濃度は,強制熟成中に減少したが,対応する抽出物では一定であり,沈殿挙動が変化していることが示唆された.沈澱性の高分子色素が同時に増加したことから,タンニンがアントシアニンを取り込むことで,赤ワインの多糖類やタンパク質との相互作用が変化し,タンニンの測定値が低下したと推測した.タンニンと高分子色素は異なる画分にあったことから,沈澱性の高分子色素がその物理化学的性質に影響されること,さらにその性質は色の程度だけでなく重合度にも依存した.本研究の結果は,赤ワインの渋みとそのサブクオリティは,赤ワインの強制熟成中に沈澱性の高分子色素が増加し,ワインの多糖類との相互作用が強化されることに関係している可能性を示しており,渋みのメカニズムに関する理解を深めるものである.

英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/72/3/240

N. Cureau, R. Threlfall, F. Carbonero, L. Howard, L. Lavefve: Fungal Diversity and Dynamics during Grape Wine Fermentations with Different Sulfite Levels and Yeast Inoculations. pp. 240-256.

[亜硫酸濃度及び酵母接種状況が異なるワイン発酵中の真菌類の多様性と変遷]
 ワイン発酵中の微生物群は多様でダイナミックである.ハイスループットシーケンシング(微生物群集の正確な識別を可能にする分子法)を使用し,様々な亜硫酸濃度および酵母接種によるブドウ果汁発酵中の真菌の多様性を識別した.2つのブドウ品種Noble (Vitis rotundifolia)およびVignoles (Vitis hybrid)について,3つの酵母接種(自発発酵,Saccharomyces cerevisiaeおよびTorulaspora delbrueckii)で3つの亜硫酸濃度(0,10および20 mg/L)で発酵(0,14および21日)の菌叢を調べた.両品種には真菌分類上6から7の門と115から129の属が含まれた.固有の菌叢は,亜硫酸濃度と酵母の接種により影響を受け,ブドウの品種によって異なった.亜硫酸濃度の影響は少なかったが,発酵動態に影響を及ぼした.亜硫酸の添加量を増やしても,S. cerevisiaeの発酵能には影響しなかったが,自発発酵およびT. delbrueckii接種の果汁発酵には影響した.主要(存在量が相対的に1%を超える)な真菌(Podosphaera,Candida,PhialemoniopsisおよびMeyerozyma)は,両方の品種で同じだったが,その相対存在量は違っていた.両品種において同様の真菌多様性パターンが観察され,発酵の14日目に多様性が減少し,21日目に増加した.両品種においてT. delbrueckiiを接種した果汁では,Torulaspora属が0日目に急速にコロニー形成したが,S. cerevisiaeを摂取した場合は14日目にSaccharomyses属が優勢であり,特にNobleでは顕著であった.自発発酵で最も豊富な属は,NobleではHanseniasporaおよびZygoascus,VignolesではHanseniasporaおよびSaccharomycesであった.ブドウ果汁中の微生物叢と発酵中の変遷を理解することで,自然発酵または非サッカロミセス種を使用したワイン生産に対する知見と,これらの発酵に対する亜硫酸の影響に関する情報が得られる.

英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/early/2021/02/22/ajev.2021.20071

K. Pigao, R. O’Donnell, J. Osborne, C. Curtin: Enrichment of Brettanomyces and Other Non-Saccharomyces Fermentative Yeasts from Vineyard Samples in Oregon. pp. 257-266.

[オレゴン州のブドウ畑から得られるBrettanomycesおよび他のNon-Saccharomyces発酵性酵母の集積培養]
 Brettanomycesは,世界のワイン産業が直面している最も重要な腐敗問題の1つである.この問題は世界中のワインやワイナリーに普遍的な問題であるにも拘らず,ブドウ畑でのブレタノマイセス発生に関する情報は殆どない.本研究では,集積培養法を用い,オレゴン州のブドウ畑から2つの収穫期に得られた149のブドウ果房試料から12のBrettanomycesを分離することに成功した.回収率の低さは,イタリアで行われた別の最近の研究(Oroら2019)と一致しており,Brettanomycesは一般的なブドウ畑の酵母属ではないことを示唆している.Brettanomycesに加え,更に39のサンプルからNon-Saccharomycesを得た.これらは主に,Nakazawea,Kazachstania,LodderomcyesおよびOgataeaなど,ブドウ畑やワイン製造菌群としてはめったに登場しないものであった.相対的増殖能と直接的競争力の評価により,ブドウ畑のNon-Saccharomycesの中には,Brettanomycesの集積培地で競合する可能性が高いものもあれば,Brettanomycesを妨げるものもあることを示した.これは,ブドウ畑におけるBrettanomycesの個体数に関する知見が少ないことを部分的に説明していると思われた.本結果は,非発酵起源のBrettanomycesの更なる研究への道を開き,集積培養が他の希少なブドウ畑酵母集団を明らかにするために適用できることを示している.

英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/72/3/267

C. Squeri, I. Diti, I.P. Rodschinka, S. Poni, P. Dosso, C. Scotti, M. Gatti: The High-Yielding Lambrusco (Vitis vinifera L.) Grapevine District Can Benefit from Precision Viticulture. pp. 267-278.

[精密ブドウ栽培は高収量のランブルスコ(Vitis vinifera L.)生産地区にとって有益である]
 最高のランブルスコワインは,ランブルスコ系統を代表する‘ランブルスコ・サラミーノ’を主原料とし,果皮色素蓄積において優秀な品質を持つワイン着色用品種である‘アンチェロッタ’を少量ブレンドすることで得られる.ランブルスコの経済的重要性と精密ブドウ栽培への関心の高まりから,この2品種を栽培する3つのブドウ園(仕立て方はそれぞれ異なる:VSPコルドン,シルボズ,カサルサ)から選定した計7区画で2年間試験した.2018年8月9日に撮影したRapidEye衛星画像(地上解像度5 m)から,フィルタリングされていない正規化植生指数(NDVI)に基づく樹勢マップ(強,中,弱勢)を作成した.2018年,2019年において,土壌の特性,栄養成長,収量,果実およびワイン組成について,それぞれの樹勢区域内で選んだ試験用ブドウ樹から実測データを得た.栽培区画と試験年度を通しプールしたデータにおいて,強勢エリアに比べ弱勢エリアの‘アンチェロッタ’は,全可溶性固形物含量,色およびフェノール含量が高く,リンゴ酸含量が低く,常に果実熟度が良好であった.このことから,‘アンチェロッタ’はNDVIベースの樹勢マッピングに非常に明確な応答を示すといえる.このような挙動は,樹勢レベルの異なるNDVIと剪定重量が密接に相関していない場合にも見られ,特に,弱勢の場合は強勢の畑と比較して収量が僅かに高くなることが確認された.全体として,高収量の‘ランブルスコ・サラミーノ’では,ブドウ樹のパフォーマンスと果実品質は,同一ブドウ園内での樹勢の違いに対する反応は低かった.‘アンチェロッタ’において樹勢が弱まる方向(剪定重量が1 kg/m以下)への調整は,その果実成熟を向上させ,また,そのワイン品質は,場合によっては増加する収量によって有害な影響を受けないという点で優れた選択であることが明らかとなった.

Research Note
J.A. Taylor, T.R. Bates: Comparison of Different Vegetative Indices for Calibrating Proximal Canopy Sensors to Grapevine Pruning Weight. pp. 279-283.

[ブドウの剪定重量に対する近接樹冠センサー校正植生指標の比較]
 ブドウ栽培における樹冠センシングは,NDVI(正規化植生指数)という用語で広く知られている.しかし,可視/近赤外線(NIR)センサーで取得した情報から算出できる植生指標(VI)は他にも多数ある.近接型マルチスペクトルキャノピーセンサー(CropCircle 430,R:670 nm, RE:730 nm, NIR:780 nm)を用い,エリー湖の‘コンコード’主産地にある27ブドウ園を調査し,ブドウ園あたり~25サンプルの密度で剪定重量(PW)を収集するために層別化した.ブドウ樹の仕立て方はシングルハイワイヤーであった.センサーデータから7つのVI [NDVI, DifVI, SR(PCD), NDRE, MSR, RECI, MTCI]を算出し,これらのVIを主成分分析し第1主成分(PC1)を抽出した.VIとPC1は局所的なPW測定値に対して回帰分析し,適合度に基づきランク付けした.27のブドウ園において,他を凌駕する単一のVIは存在しなかったが,RE波長を使用するVI (RE:NIR比指数)は,より一般的なR波長を使用するVI(R:NIR比)よりも若干優位であった.従って,地上での近接型センサーを用いるキャノピー調査からPWを予測するには,NDVIの代わりに正規化レッドエッジ指数(NDRE)を使用することが推奨される.7つのVIを分解して得られたPC1は,単一のVIによるアプローチ,特にNDVIによるアプローチと比較して,PW予測に何らかの利益をもたらすようであった.多変量解析アプローチの可能性について,更なる研究が望まれる.

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