American Journal of Enology and Viticulture

Volume 72, No.2 (2021)

英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/72/2/113

K.E. East, I.A. Zasada, J. Tarara, M.M. Moyer: Field Performance of Winegrape Rootstocks and Fumigation during Establishment of a Chardonnay Vineyard in Washington. pp. 113-125.

[ワシントン州でのシャルドネブドウ園を開設時の台木と燻蒸処理の効果]
 ワシントン州では,殆どのワイン用ブドウが自根のVitis viniferaであり,植物寄生性線虫であるネコブセンチュウとハリセンチュウに感受性がある.ワシントン州のブドウ園では,線虫対策として抵抗性台木を使用した場合の評価はなされていない.土壌燻蒸と台木の遺伝子型が,ブドウ園の設立時(最初の3年間)のセンチュウの分布とブドウ樹の成長に及ぼす影響を,開園の過程に沿って長期的に評価した.栽培中のシャルドネ樹には2014年にグリホサートを葉面処理した.その後,ブドウ園内の無作為に選んだ場所にメタムナトリウム塩を土壌処理し,燻蒸処理をするかしないかを決めた.燻蒸処理の後,ブドウ樹は伐採した.2015年の春に台木,1103ポールセン,101-14MGt,テレキ5Cそしてハーモニー,を使用したシャルドネに植え替えた.更に,共台と自根のシャルドネも栽植した.自根および共台のブドウ樹におけるネコブセンチュウの土壌第2期幼虫(J2)の集団密度は,燻蒸により最初の1年間だけ減少した.燻蒸1年後からは,自根および共台のブドウ樹は,台木を使用した樹よりもネコブセンチュウ(J2)の個体数密度が高くなった.全ての台木でネコブセンチュウ(J2)は一定の個体密度で存在したが,V. viniferaの成長を阻害するまでにはならなかった.燻蒸によって3.5年間はハリセンチュウの個体密度を低い値で維持した.燻蒸は開園後の早い段階での剪定量を減らし,それは2年にわたった.しかし,台木を用いたブドウ樹では3年目までに剪定重量は増加した.これらの結果は,植え付け前の燻蒸よりも台木を使用することで,健全なブドウ園を安定して維持できることを示している.

英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/72/2/126

H.H. Andréanne, D. Inglis, B. Kemp, J.J. Willwerth: Clone and Rootstock Interactions Influence the Cold Hardiness of Vitis vinifera cvs. Riesling and Sauvignon blanc. pp. 126-136.

[リースリング(Vitis vinifera)とソーヴィニヨン・ブランのクローンと台木の組み合わせは耐寒性に影響する]
 冷害は世界中のブドウ栽培者にとって重大な問題である.Vitis viniferaの品種間で耐寒性は異なるが,クローンや台木の選択がこの形質に与える影響は不明である.リースリングの5つのクローン×台木の組み合わせ(クローン49×リパリア・グロワール[RG],49×SO4テレキ,クローン239×RG,239×SO4,239×クデルク3309)とソーヴィニヨン・ブランの4クローン(SO4テレキ台木にクローン242,297,376,530)の休眠期(2016/17,2017/18,2018/19)で評価した.芽の耐寒性は示差熱分析により2~4週間毎に測定し,低温発熱量として記録した.収量と剪定重量は毎年測定した.台木はリースリングの芽の耐寒性には影響しなかったが,クローン239はクローン49よりも一般的な耐寒性は強かった.クローン×台木の相互作用は研究の初年度により顕著に表れた.ソーヴィニヨン・ブランのクローン間には差異はなかったが,クローン242と297は最も耐寒性の低いクローンとなることが多かった.耐寒性の差は,前年の収量,剪定重量,着果負担と関連はなかった.本研究は,凍害が発生する可能性のある冷涼地におけるクローンおよび台木の選択の重要性を示している.今後は,異なる品種の耐寒性を比較する際に,クローンの特性やクローン×台木の相互作用の可能性を検討する必要がある.

英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/72/2/137

E. H.-Montes, Y. Zhang, B.-M. Chang, N. Shcherbatyuk, M. Keller: Soft, Sweet, and Colorful: Stratified Sampling Reveals Sequence of Events at the Onset of Grape Ripening. pp. 137-151.

[軟化,糖蓄積,着色:層別抽出法は果実成熟開始における一連の出来事を明らかにする]
 ブドウ果実の非同時性成長は,ヴェレゾン期に採取した果実サンプル間で大きな相違を生じる.我々は,果実成熟開始時および成熟中に起こっている一連の物理的および化学的変化を調査するため,触った時の硬さおよび目に見える色調により,果実をグループ分けする層別抽出法を適用した.果皮色の異なる10の醸造用,生食用および果汁用ブドウ品種から集めたサンプルにおいて,果粒重,果粒直径および全可溶性固形物を測定することにより頑健性および再現性を調査した.加えて,異なる5名により採取されたシラー果実を1シーズン比較し,環境の変化を説明する為,シラーおよびメルロー果実および房の画像を3年間に亘り評価した.果粒重,弾性率,全可溶性固形物,滴定酸度,pH,リンゴ酸,酒石酸およびアントシアニンの変化を測定する為,1シーズン中に採取されたメルロー果実を7つの成熟段階に分けた.異なる人によって採取された時および異なる品種および年において,層別抽出法は成熟段階を確実に識別した.いったん果実が軟化すると,果皮色の変化を終えるまでに11から14日を要した.軟化は糖蓄積の前に起こっており,果実の肥大化を再び誘導した.糖蓄積はリンゴ酸の分解を伴ったが,糖蓄積の開始はアントシアニン蓄積に先んじた.全可溶性固形物の増加は弾性率,滴定酸度およびリンゴ酸の減少および果粒重,果皮面積当りの果皮重量比およびpHの増加と密に関係した.滴定酸度およびpHの成熟に関連した変化は,酒石酸ではなくリンゴ酸の変化により強く動かされていた.層別抽出法は,通常ヴェレゾンと呼ばれる成熟期間中に果実で起こる物理的および化学的変化のタイミングについて新しい見識を与えるであろう.

A. Bellincontro, M. Pollon, S.R. Segade, L. Rolle, F. Mencarelli: Volatile Organic Compounds in Sweet Passito Wines as Markers of Grape Dehydration/Withering/Drying Process. pp. 152-163.

[ブドウの脱水/萎み/乾燥プロセスのマーカーとしてのスイートパッシートワイン中の揮発性有機化合物]
 24本のイタリアのスイートパッシートワインをガスクロマトグラフ質量分析で分析した.不明である醸造工程とは別に,これらのパッシートワインは使用された水分蒸散技術,ブドウ品種および原産地の緯度/地形の点で異なっていた.酢酸エチルとフルフラールの2つの揮発性有機化応物マーカーが,ヴィンサントワインの技術で造られたワイン,天日乾燥からのワインおよび遅摘みからのワインを特徴づけるものとして特定された.これらの化合物は,管理されたまたは管理されていない条件下で,“フルッタイオ”(閉鎖的な施設)で脱水したブドウでつくられたワインに低濃度で検出された.マスカット品種のワインはエステル類およびテルペン類が多かったが,北イタリアのフルッタイオで脱水したブドウでつくられたワイン,特に高山で栽培されたものでは,南イタリアで造られたワインもしくは天日乾燥を用いて造られたワインよりも多く含まれていた.第一および第二アロマ化合物は各ワインについて報告されている.脱水中の管理された環境,なるべくなら低温にすることは,ワイン生産のためのブドウの香りをより良く維持します.

英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/72/2/164

M.A. Rwahnih, A. D.-Lara, K. Arnold, M.L. Cooper, R.J. Smith, G. Zhuang, M.C. Battany, L.J. Bettiga, A. Rowhani, D. Golino: Incidence and Genetic Diversity of Grapevine Pinot gris Virus in California. pp. 164-169.

[カリフォルニア州におけるブドウピノ・グリウイルスの発生率および遺伝的多様性]
 ブドウピノ・グリウイルス(GPGV)は,イタリアのピノ・グリ生産畑での高速シークエンス解析により2012年に発見された.GPGVは無症状であることが多いが,退緑した斑紋および葉の奇形を引き起こすこともある.2015年,カリフォルニア州でトリコウイルス属の新しいウイルスGPGVが初めて報告された.カリフォルニア州のブドウ生産地におけるGPGVの発生率を調査するために,逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法(RT-PCR法)を用いて複数のブドウ園を調べた.採取したGPGVの遺伝的多様性を評価するため,高速シークエンス解析および系統解析を使用した.商業栽培している幾つかのブドウ園および閉鎖種苗場から集められた,白ブドウ品種および赤ブドウ品種を含む716のブドウ樹のうち170のブドウ樹でGPGVが検出された(検出率23%).さらに,北カリフォルニアに位置する3郡(ヨロ郡,ソラノ郡およびナパ郡)でGPGVを同定した.ナパ郡の場合,GPGVが広範囲にわたって分布していた.症状が出ているブドウ樹および無症状のブドウ樹を用いてGPGVの検出を行ったが,カリフォルニア州のいずれの分離株も無症状と相関する参照株と極めて高い相同性(> 97%)を示すことが系統解析により確認された.高速シークエンス解析はGPGV陽性ブドウ樹が他のウイルスおよびウイロイドに感染していることも明らかにした.最後に,GPGV感染と症状出現との相関関係を議論したい.

英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/72/2/170

S. P.-Magariño, E. C.-Mozo, C. Albors, A. Santos, E. Navascués: Autochthonous Oenococcus oeni Strain to Avoid Histamine Formation in Red Wines: A Study in Real Winemaking Conditions. pp. 170-180.

[赤ワインにおけるヒスタミン生成回避Oenococcus oeni自発培養株:実際のワイン醸造条件における研究]
 生体アミン(BA)濃度の低いワインの生産は,ワイン分野における現在の関心事の一つであり,ワイン醸造中にその生成を回避する戦略は特に注目されている.本研究の目的は,赤ワイン中のBA含量に及ぼす厳選されたOenococcus oeni乳酸菌(LAB)の影響と,BA生成を回避するための常在微生物に対するその優勢度を明らかにすることであった.3年連続のヴィンテージにおいて,67の赤ワインを実際のワイン醸造条件で製造した.得られた全てのワインについて,ワイン醸造の異なる段階のLAB植え付けとBA濃度を測定した.その結果,BAを生産しないO. oeni株を選択し,適合したバイオマス生産と組み合わせて使用することが,ワイン中のヒスタミン生産を制御するための優れた戦略であることが示された.また,3年連続で実施したこの方法は,ワイナリー全体において,他の常在微生物に対し,選択された自生O. oeni株CECT 9749の持続性を確保できた.更に,樽でのワイン熟成中のBA含量を分析した結果,低いBA含量が維持され,消費者により健康的なワインを提供できることが示された.

英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/72/2/181

C.L. Oliver, M.L. Cooper, M.L.L. Ivey, P.M. Brannen, T.D. Miles, W.F. Mahaffee, M.M. Moyer: Assessing the United States Grape Industry’s Understanding of Fungicide Resistance Mitigation Practices. pp. 181-193.

[殺菌剤抵抗性緩和施用法における米国のブドウ産業の理解の評価]
 2019年に,20州に及ぶ米国のブドウ産業に携わる252人について調査したところ,殺菌剤抵抗性の管理,ブドウ園での施用方法への理解および知識獲得源の認識を評価した.全体として,回答者は抵抗性管理の実施方法を明瞭に理解していた.回答者の仕事の役割,農業の経験年数および自分自身の農業経営規模が回答内容に影響した.全国的に,回答者はFRAC (Fungicide Resistance Action Committee)を適切に知っており,殺菌剤のFRACコードを特定することができる者は約75%であった.抵抗管理の原則を厳守した殺菌剤プログラムを設計することができることから,適切に有用であると感じられた.回答者は,殺菌剤抵抗性を全国的に深刻な問題として,また,自身のブドウ園では適切な問題として確認していた.彼らは,異なるFRACコードの殺菌剤のローテーションを含む施用をランク付けし,同じ商品名またはFRACコード薬剤の複数使用,異なるFRACコード薬剤を混ぜたタンク,薬剤散布計画で多くの現場で用いた製品の使用,日常的な噴霧器の維持と較正,および殺菌剤抵抗性を管理するときに極めて重要である良好な樹冠管理を避け,一方,異なる商品を同一タンクで交互に混ぜるようなやり方は,わずかに重要であると位置づけた.回答者は,大学作成の普及計画を殺菌剤有効性と殺菌剤管理(抵抗性管理)の為の主要な情報資源と確認した.潜在的影響を最大にする為これらの結果は,将来の教育的な努力が殺菌剤抵抗性管理の改善を目的としなければならず,ターゲット層―特に仕事役割,経験,作業サイズ―の知識ベースと人口統計学の要因と提携すべきである.

英文要旨原文 https://www.ajevonline.org/content/72/2/194

S.E. Mayfield, R.T. Threlfall, D. Leis, L.R. Howard, E. Leitner, J.R. Clark: Investigating the Winemaking Potential of Enchantment, a New Vitis Hybrid Teinturier Cultivar. pp. 194-207

[黒ブドウ・タンテュリエ新交配品種Enchantmentのワイン醸造の可能性]
 Enchantment (I)は,2016年にアーカンソー大学農学部ワイン・ブドウ育種プログラムからリリースされたVitisの交配品種である.この新品種は,高品質ワイン生産の可能性を持っていた.2017年と2018年に,樽材の添加(樽材なし,アメリカンオーク,フレンチオーク)と熟成が(I)のワイン属性に与える影響を評価した.(I)ブドウは,両年とも8月に収穫された.2017年と2018年のワインは,初期(0ヶ月)に基本的化学成分,アントシアニン(Ant),色,アロマ属性を分析し,2017年のワインは,貯蔵中(15℃で0,6,12ヶ月)に化学成分,Ant,色属性を分析した.樽材の添加に関わらず,両年のワインの初期成分はドライワインに典型的で,貯蔵中も安定していた.両年とも,マルビジン-3-グルコシドが(I)ワインの主なAntであり,マルビジン-3-グルコシド,ペチュニジン-3-グルコシド,デルフィニジン-3-グルコシドがAnt総量の80%以上を占めた.Antは貯蔵中に減少したが,ワインの深い赤色は安定していた.2018年のワインは2017年よりも深く濃い赤色をしており,これは2018年のAnt量の多いことと対応した.(I)ワインには約50種類の揮発性アロマ化合物が確認された.オーク処理による基礎化学とAntへの影響は少なかったが,色属性には若干の影響があった.樽材添加はアロマ属性に大きな影響を与え,両年とも樽香,ロースト香,カラメル香のアロマを持つワインとなった.これらの結果は,(I)ワインが深い赤色をした単一品種のワインや,樽熟成と貯蔵の可能性を持つブレンドワイン生産の可能性を示した.

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