American Journal of Enology and Viticulture
Volume 71, No.1 (2020)
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/1/1
A. Cibrario, C.M.Sertier,L.Riquier,G.de Revel,I.M.-Pomarede,P.Ballestra,M.Dols-Lafargue:
Cellar Temperature Affects Brettanomyces bruxellensis Population and Volatile Phenols Production in Aging Bordeaux Wines.
pp.1-9.(Research Articles)
セラーの温度は熟成中のボルドーワインのBrettanomyces bruxellensisの個体数と揮発性フェノール産生に影響を与える]
Brettanomyces bruxellensisは,赤ワインで特に恐れられている腐敗酵母であり,ワインの腐敗に関連する官能特性がある揮発性フェノールを生成する.この酵母の発生はワインの熟成中でも特に夏に発生する.ボルドーでは7月から9月に一部のセラーの温度が大幅に上昇した.これにより,ワインの腐敗が許容できるワインとそうでないワインの両方でB. bruxellensis株の成長率が大幅に増加した.温度はエチルフェノールの特定の生成率に影響を与えないが,ワインの温度が2℃から6℃に上昇すると,ワインや酵母株に関係なく,揮発性フェノールがより早い時期でより速いスピードで現れた.特に温度制御が不十分なセラーでは,アクティブな酵母の個体数をより厳密に制御し,熟成中のワインをより厳密に監視することが不可欠である.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/1/10
G. Bhattarai, A. Fennell, J.P. Londo, C. Coleman, L.G. Kovacs:
A Novel Grape Downy Mildew Resistance Locus from Vitis rupestris.
pp. 12-20.
[Vitis rupestris由来の新規ブドウベト病抵抗性遺伝子座]
ブドウ栽培家の間では気象変動に対応するため,耐病性と環境ストレス耐性を強化する遺伝子を備えた新しいブドウ品種を必要としている.ブドウ遺伝子の有益な対立遺伝子変異体を発見するために,2つの北米ブドウVitis rupestris ScheeleとVitis riparia Michxの交雑個体のF1マッピング集団を作成した.ジェノタイピングバイシーケンシング(GBS)マーカーを生成し,それぞれ1177GBSマーカーと1115GBSマーカー(LOD閾値≥ 14)で構成される親連鎖地図を構築した.これらは性決定遺伝子座を第2染色体にマッピングすることで検証した.両交雑親で見られるヘテロ遺伝子座を利用して,2583個のマーカーを含む統合地図も作成した.温室とin vitroで育てた葉の耐性データの両方からべと病(Plasmopara viticola)耐性の主要な量的形質遺伝子座(QTL)をV. rupestrisの第10染色体にマッピングした.このQTLは温室での表現型分散の66.5%を説明でき,その2-LOD信頼区間はVitis vinifera L. PN40024リファレンスゲノム配列(アセンブリ12X.v2)の第10染色体の領域2,470,297〜3,024,940bpに対応していた.我々は,このV. rupestrisハプロタイプを栽培ブドウ品種に遺伝子導入するための追加マーカーを開発するアンカーとして使用できるPN40024におけるGBSマーカーの物理的位置を明らかにした.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/1/17
T.Roman,T.Nardin,G.Trenti,C.Barnaba,G.Nicolini,R Larcher:
Press Fractioning of Grape Juice: A First Step to Manage Potential Atypical Aging Development during Winemaking.
pp.17-25(Research Articles)
[圧搾によるブドウ果汁の分画:ワイン製造において異常熟成の可能性を制御する最初のステップ]
異常熟成欠陥(UTA)として知られている2-aminoacetophenoneが若い白ワイン中に生成すると,苔玉,濡れ雑巾,汗,アカシアの花,石鹸などのような不快臭を生じる.植物中に最も多いオーキシンであるトリプトファンやindole-3-acetic acidがその主要な前駆体と考えられている.またIndole-3-acetonitrile,indole-3-lactic acid,skatole,tryptophol,不活性型のauxin N-(3-indolylacetyl)-L-alanine,N-(3-indolylacetyl)-DL-aspartic acidおよびmethyl-indole-3-acetateが2-aminoacetophenoneの潜在的な前駆体になる可能性があり,ワイン中のUTA臭の直接的原因になる.本論文では4つの異なる品種(Cabernet Cantor,Chardonnay,MerlotおよびSolaris)の12の試料中の2-aminoacetophenone前駆体および中間体(n = 9)の分布をブドウの組織(果肉,果皮および種子)について調べた.Chardonnay (3ロット)については工業的な圧搾の様々なステージにおける前駆体抽出について評価することでさらに詳細を分析した.本研究では,高分解能質量分析機を接続したHPLCによって定量を行った.予備濃縮および部分精製を固相抽出―オンラインシステムで行い,検出限界は化合物により0.25~2 μg/Lの範囲であった.品種により有意な差があったが,indole-3-acetic acidは種子および果皮において最も多かった.フリーラン果汁では全果粒中に含まれる量の30%までしか抽出されていなかったが,0.6 Barでの圧搾では80%までが抽出された.このことから,ワイン製造においてUTA臭の発生を制御する上で圧搾の基本的役割が示唆された.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/1/26
E.L.Norton,G.L.Sacks,J.N.Talbert:
Nonlinear Behavior of Protein and Tannin in Wine Produced by Co-fermentation of an Interspecific Hybrid (Vitis spp.) and vinifera Cultivar.
pp.26-32.(Research Articles)
[種間ハイブリッド(Vitis属)とビニフェラ品種の混醸で製造したワイン中のタンパク質およびタンニンの非線形挙動]
種間ハイブリッド(Vitis属)から製造した赤ワインはビニフェラ品種から製造したワインよりタンニンの濃度が一般的に低いが,これはタンニン濃度の低さと,種間ハイブリッドのタンニン結合性タンパク質の多さに起因する.ビニフェラ種とブレンドをすれば,ハイブリッド種ワインのタンニン濃度は増加すると思われる.我々は,もし発酵前にブレンドをする(混醸)すれば,タンパク質-タンニンの結合により,それぞれのブドウに含まれる量より減少する,しかしこの効果は発酵後の単一品種ワインをブレンドしても見られないだろうとの仮説を立てた.この仮説を証明するために,タンニンが豊富なVitis vinifera品種(Cabernet Sauvignon)と種間ハイブリッド(Marquette)を様々な比率で,また,発酵前(混醸)および発酵後にブレンドする実験を2年間にわたり実施した.ワイン中のタンニンおよびタンパク質の濃度はメチルセルロース沈殿法およびSDS-PAGEでそれぞれ測定した.ブレンドワインのタンニンおよびタンパク質濃度は,2つの単一品種ワインとして製造したワイン中の濃度の線形結合(つまり比例関係)として予測した.Marquetteが高比率の共発酵(混醸)ワインでは,タンニン濃度は予想値より25%低くなったが,共発酵のワインと発酵後ブレンドでは,たいていの場合その実験結果と予想されるタンニン濃度は違わなかった.しかし,ブレンドワイン(特に共発酵の場合)のタンパク質の濃度は予想値より低くなった(時には50%以下).タンニンへの吸着によるタンパク質の損失はFreundlich吸着等温線によりモデル化できた.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/1/33
R.P. Schreiner, J. Osborne:
Potassium Requirement for Pinot noir Grapevines.
pp.33-43.(Research Articles)
[ピノ・ノアールブドウ樹のK要求性]
4つのレベルのK施肥を慎重に制御した小区ブドウ畑で,ピノ・ノアールのK要求について研究を行った.ブドウ樹の栄養状態,生産性とマストの化学的性質を4年かけて調べ,発酵のダイナミクスを3年かけて評価した.葉面積,剪定重量および収量に基づいたブドウ樹の生産性は,K施肥を受けていないブドウ樹において4年後に初めてK供給により減少した.K欠乏症状は,生産性が変化する1年前,およびマストpHが既に低下した後,Kを投与されていないブドウの葉と果実に見られた.マストpHは,K施肥を受けていないブドウ樹で2年目とそれ以降,また20% K施肥ブドウ樹において3と4年目に対照(100% K)ブドウ樹のレベル以下に減少した.晩期における梗の壊死が3年目にKなしおよび20% K施肥ブドウ樹でいくつかの果房に生じた.これは,K無施肥ブドウ樹において4年目に劇的に増加した.3.0以下と低いマストpHおよび600 mg K/Lと低いマストのK濃度はアルコール発酵の速度に影響しなかった.これらの調査結果は,葉身または葉柄のK濃度に加え,マストpHをモニタリングすることがブドウ樹のK状態を管理するのに役立つことを示している.ヴェレゾンにおける葉身Kレベルが乾燥重量6.0 gK/kgであることが,この地域において典型的レベルで収穫されたピノ・ノアールブドウ樹の臨界濃度として提案された.西オレゴンのピノ・ノアール園でヴェレゾン時の葉身Kが7.0 gK/kg DWに近づいた場合には,栽培者は,サンプリングと実験室エラーを考慮し,ブドウ樹のK状態とpHを注意してモニターするべきである.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/1/44
K.V. Miller, A. Oberholster, D.E. Block:
Predicting the Impact of Fermentor Geometry and Cap Management on Phenolic Profile Using a Reactor Engineering Model.
pp.44-51.(Research Articles)
[反応器工学モデルを使用したフェノールプロファイルにおける発酵槽形状とキャップマネジメントの効果の予測]
発酵中のフェノール抽出の理解は,経験的な研究もしくは十分に混合したモデルのいずれかに長い間限定されており,最終的なワインフェノールプロファイルに基づいたワイン醸造決定の効果を予測する能力を限定している.私たちは,赤ワイン発酵と発酵槽形状の異成分の性質を説明するフェノール抽出と発酵を統合したモデルを,以前導入し実証した赤ワインモデルと組み合わせることで開発した.ここでは,アントシアニン,果皮タンニン,そして種子タンニンの抽出における発酵槽容量とキャップマネジメントの効果を調査するため,このモデルを適用した.結果は,より大きくより高温の発酵槽がより速い抽出に働き,ポンプオーバー(ルモンタージュ)頻度はアントシアニン,果皮タンニン抽出と種子および果皮タンニンの相対的寄与に強く影響した.小規模においては,実験と一致した変化は認められなかった.これらの結果は,最終的なワイン中の果皮と種子タンニンの比率を制御するための潜在的なワイン醸造戦略を示唆する.更に,キャップマネジメントがない場合のアントシアニン抽出における発酵槽形状の影響を調べた.バルク液体積に対するキャップ表面積の比率は,バルク液中のアントシアニン濃度の決定,キャップマネジメントなしの液体アントシアニン濃度の大,小スケールでの矛盾した結果を解明する上で重要である.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/1/52
S.K. Field, J.P. Smith, E.N. Morrison, R.J.N. Emery, B.P. Holzapfel:
Soil Temperature Prior to Veraison Alters Grapevine Carbon Partitioning, Xylem Sap Hormones, and Fruit Set.
pp. 52-61.(Research Articles)
[ヴェレゾン期前の地温がブドウ樹の炭水化物転流,樹液中のホルモン類,着果に与える影響]
ブドウ樹と順化の生理的調節に対する環境的影響をより良く理解するために,鉢植えのVitis vinifera‘シラーズ’を用いて成長,非構造性炭水化物,サイトカイニン,アブシジン酸,葉の機能に関して開花期とヴェレゾン期の間で地温(14℃または24℃)の影響を調査した.各処理区の調査個体は,萌芽前3週間から平均地温を13℃または23℃にした温室で栽培した2つのグループから選んだ.開花期とヴェレゾン期の間の地温は,根と幹の非構造性炭水化物の利用と修復および主要な植物器官のバイオマスの推移に影響を及ぼした.土壌の加温は貯蔵デンプンの利用を通してシュート成長を促す一方,土壌の冷却は根と樹の両方にデンプン保存を促進し,全体的にバイオマスを根に分配した.開花期間中,加温から冷却までの地温の変化は,着果の減少と関係していた.日中の着果後の光合成,発散,気孔コンダクタンスは,地温に有意に影響を受けた.植物ホルモン(サイトカイニンやアブシジン酸)は着果期やヴェレゾン期の樹液や葉で測定された.ブドウ樹の生育中,これら2区間の差異はヴェレゾン後の果実成熟に関係する植物ホルモンの変化を強調する.ブドウ樹の成長には地温が有意に影響を及ぼし,根からの非構造性炭水化物の転流に関して,反応が温度の影響により主に調整されると考えられた.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/1/62
A.J. Fredrickson, D.C. Manns, A.K. Mansfield:
Addition Rate of Exogenous Tannin for Optimal Tannin Retention in Hybrid Red Wines.
pp.62-69.(Research Articles)
[ハイブリッド赤ワインにおける最適なタンニン保持のための外因性タンニンの添加率]
ワイン製造者は,赤のハイブリッドワインのタンニン含有量を増やすため,外因性の製品を追加することがあるが,50~400mg/Lの推奨量では,縮合型タンニンの最終濃度を効果的に上げられない場合がある.2013年に,マレシャルフォシュ,コロットノワール,カベルネフランからワインを製造し,種間雑種とVitis viniferaにおける外因性タンニンの保持を比較した.HPLC固相抽出-フロログルシン分解により12の市販タンニン生成物の縮合型タンニン濃度を分析した後,粉砕後,酵母接種前に最高濃度(38%)の生成物を400,800,および1200mg/Lの割合で添加した.各栽培品種の1ロットも直ぐプレスし果皮を除去し,1600mg/Lの外因性タンニン存在下で発酵させ,その後,最終理論濃度400mg/Lの縮合型タンニンになるよう対照ワインと後発酵させた.瓶詰め時,全ての処理におけるタンニン濃度は,それぞれの対照より高かった.タンニン保持率は品種によって異なり,マレシャルフォシュワインで19~24%,コロットノワールで25~43%,カベルネフランで34~48%の範囲であった.バックブレンドワインは,コロットノワールとカベルネフランで400mg/Lを添加したものと同様のタンニン保持率を示したが,マレシャルフォッシュではタンニン保持率が高くなった(400mg/Lを添加した場合は75mg/L,バックブレンドワイン).縮合型タンニンの濃度は全ての処理ワインで高かったが,50%保持を超えるものはなかった.これは,外因性タンニンを高濃度で添加すると,ハイブリッド赤ワインの縮合型タンニンが増加することを示唆しているが,保持率は品種によって異なる.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/1/70
J.V. Weide, T. Frioni, Z. Ma, M. Stoll, S. Poni, P. Sabbatini:
Early Leaf Removal as a Strategy to Improve Ripening and Lower Cluster Rot in Cool Climate (Vitis vinifera L.) Pinot Grigio.
pp.70-79.(Research Articles)
[冷涼気候でのVitis vinifera L.‘Pinot Grigio’の成熟向上と房枯病軽減のための早期除葉技術]
ブドウ樹の栄養成長および生殖成長の初期に基部葉を除去することは,着果の減少,果房の腐敗程度の軽減,果実品質の改善に用いられる手段である.しかし,ブドウ生産者が実行するには時間がかかりすぎる.この方法は,房枯病が収量と果実品質について主な制限である冷涼で湿潤な生育地域での開花期前および開花期後の手作業とまだ比較していないが,効果的に機械化することにより,これらの問題は軽減可能であると考えられる.本研究の目標は,2シーズンの間,Vitis vinifera L.‘Pinot Grigio’(果粒密着果房品種)で行った機械除葉処理と,開花期前および開花期後での手作業による基部6葉除去処理を比較することであった.着果の減少は2017年の開花期前手作業による基部6葉除去でのみ見られたが,開花期前除葉処理は両年で果房がバラ房となった.灰色カビ病に対する果実損失は,乾燥していた2017年にすべての除葉処理で軽減したが,手作業処理だけその年の果粒腐敗による損失を軽減した.これは,罹病していない果実部分とバラ房がともに房枯病の影響を減じるために必要であることを示した.開花期前処置だけが果実品質を高め,おそらく果房のコンパクトさで同様の減少により制御される.結果は,開花前手作業処理が乾燥期の灰色カビ病による果実損失を減少させ,果汁糖度を増加させるのに効果的であると思われた.それでも,開花期前手作業による基部6葉除去処理は,より乾燥した時期に酸敗に対する果実損失を減少させ,ヴェレゾン期の間,長雨の年でも成熟を促進する効果的手段であることが明らかになった.このことは,冷涼な気候のブドウ栽培における季節的管理技術に直面する2つの顕著な問題を軽減するための一つの問題解決となった.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/71/1/80
E.A. B.-Chang, E.J. Brown, N. Reshef, G.L. Sacks:
Malate Content in Wild Vitis spp. Demonstrates a Range of Behaviors during Berry Maturation.
pp.80-87.(Research Note)
[果粒成熟中におけるVitis野生種のリンゴ酸含量の動態]
Vitis野生種とそれらの種間雑種は,栽培Vitis viniferaと比較すると完熟期でリンゴ酸濃度の高くなることが知られているが,種間での収穫期のリンゴ酸の違いがリンゴ酸蓄積または分解の違いから生じるかは知られていない.2年以上の間,経済栽培されているV.viniferaと種間雑種の栽培品種に加えて,V. ripariaとV. cinerea果実を複数の時点で採取した.V. viniferaにおけるリンゴ酸のよく知られている二相性の動向(ヴェレゾン期前の蓄積,ヴェレゾン期後の分解)と対照的に,野生種でのリンゴ酸について様々な動向を観測した.平均して,V. ripariaはヴェレゾン期直前のV. viniferaに相当する果粒あたりのリンゴ酸含量であったが,極めて少しの範囲でリンゴ酸は分解した.V. cinereaは,ヴェレゾン期前は他種より低いリンゴ酸含量であったが,ヴェレゾン期前からヴェレゾン期後までリンゴ酸は増加した.ヴェレゾン期後のリンゴ酸の動向の変化は,Vitis野生種の中果皮で,リンゴ酸分解による減少に関連があるようであった.この結果から,Vitis種とその雑種におけるリンゴ酸の動向の研究は,ヴェレゾン期前後の時点を含むべきであると考えられた.