American Journal of Enology and Viticulture
Volume 72, No.1 (2021)
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/72/1/1
T. Bates, R. Jakubowski, J.A. Taylor:
Evaluation of the Concord Crop Load Response for Current Commercial Production in New York.
pp. 1-11. (Research Articles)
[ニューヨークで商業生産されているコンコードの着果負担の評価]
過去30年間のニューヨークのコンコードブドウ産業団体は,より多くの収量を得るために,弱せん定の栽培管理体系を推奨してきた.本研究の目的は,着果量や剪定量の季節的調節がニューヨークのコンコードブドウ果汁の可溶性固形物に与える影響を調査した.異なる4つの剪定程度を比較するために,ブドウ樹を4年間2つの強度で剪定する,あるいは異なる2つの節数で残して剪定した.2つの強度の剪定とは500 gの剪定重量に対して33または66の着果節を残し,剪定重量を500 g追加するごとに11節を残すようにした.異なる2つの節数とは,ブドウ樹ごとに100または120の着果節を残して剪定した.120節のブドウ樹は開花後30日目に0,25または50%の量で摘房した.もう一つの研究として,摘房の季節的影響を調査するために,120節剪定ブドウ樹で11年間摘房を続けた.着果負担は収量と剪定の重量比(Y:PW)とし,その割合は1から40のばらつきとなった.平均的に,基準値であるBrix 16%とするにはY:PWが20となることが必要で,剪定量を変えてもBrix 17.5%以上とはならなかった.Brix 16%となるためのY:PWと成長積算温度および降水量とは正の相関があった.そして,剪定量を時期的に変動させてもその影響はなかった.以上の結果は,現在のニューヨークのコンコードブドウ園の栽培管理の指針を改善するために使用された.
G. Bhattarai, A. Fennell, J.P. Londo, C. Coleman, L.G. Kovacs:
A Novel Grape Downy Mildew Resistance Locus from Vitis rupestris.
pp. 12-20.
[Vitis rupestris由来の新規ブドウベト病抵抗性遺伝子座]
ブドウ栽培家の間では気象変動に対応するため,耐病性と環境ストレス耐性を強化する遺伝子を備えた新しいブドウ品種を必要としている.ブドウ遺伝子の有益な対立遺伝子変異体を発見するために,2つの北米ブドウVitis rupestris ScheeleとVitis riparia Michxの交雑個体のF1マッピング集団を作成した.ジェノタイピングバイシーケンシング(GBS)マーカーを生成し,それぞれ1177GBSマーカーと1115GBSマーカー(LOD閾値≥ 14)で構成される親連鎖地図を構築した.これらは性決定遺伝子座を第2染色体にマッピングすることで検証した.両交雑親で見られるヘテロ遺伝子座を利用して,2583個のマーカーを含む統合地図も作成した.温室とin vitroで育てた葉の耐性データの両方からべと病(Plasmopara viticola)耐性の主要な量的形質遺伝子座(QTL)をV. rupestrisの第10染色体にマッピングした.このQTLは温室での表現型分散の66.5%を説明でき,その2-LOD信頼区間はVitis vinifera L. PN40024リファレンスゲノム配列(アセンブリ12X.v2)の第10染色体の領域2,470,297〜3,024,940bpに対応していた.我々は,このV. rupestrisハプロタイプを栽培ブドウ品種に遺伝子導入するための追加マーカーを開発するアンカーとして使用できるPN40024におけるGBSマーカーの物理的位置を明らかにした.
L.F. Casassa, N.P. Dermutz, P.F.W. Mawdsley, M. Thompson, A.A. Catania, T.S. Collins, P.L. Ashmore, F. du Fresne, G. Gasic, J.C.D. Peterson:
Whole Cluster and Dried Stem Additions’ Effects on Chemical and Sensory Properties of Pinot noir Wines over Two Vintages.
pp. 21-35.
[2年に亘るホールクラスター仕込みと乾燥茎添加のピノノワールワインへの化学的,官能的影響]
カリフォルニア・エドナバレーAVAのピノノワールワインに対する50%(50% WC)および100%添加(100% WC)のホールクラスター(WC)仕込み,および乾燥茎(DS)添加の影響を調べた.商業規模の2年連続ヴィンテージにて,100%WCでは,pHと揮発性酸度が大幅に上昇した.アントシアニン,重合色素,および色は,ワイン製造処理よりもヴィンテージの影響を強く受けたが,100%WCワインの場合,影響はないか逆効果であった.逆に,ワインのタンニン含有量は,WCとDS添加の割合にほぼ比例して増加した.つまり,2016年には68%(50%WC),100%(100%WC),90%(DS)であった.対照(C)ワインと比較し,2017年には61%(50%WC),123%(100%WC),137%(DS)となった. GC-MSデータは,100%WCワインのケイ皮酸エチルとベンズアルデヒドの相対レベルが高く,DSワインのエステル相対量が多いことを示した.記述的官能分析は,100%WCの添加が野菜的な調理果実香とスパイシーな(クローブ)ノートをもたらした.一方,DSの添加はよりハーブ的でフルーティーで収斂味のあるワインを生み出し,エステルに関連するフルーティーなノートが浮き上がり,収斂味が茎からの高いタンニン抽出を示した.WCとDS添加は,両方が,知覚される収斂味の種々の増加をもたらし,ピノノワールワインの口当たりを追加し,テクスチャーの改善に使用できることが示唆された.
S.C. Frost, J.M. Sanchez, C. Merrell, R. Larsen, H. Heymann, J.F. Harbertson:
Sensory Evaluation of Syrah and Cabernet Sauvignon Wines: Effects of Harvest Maturity and Prefermentation Soluble Solids.
pp. 36-45.
[シラーとカベルネソーヴィニヨンワインの官能評価:収穫の成熟度と発酵前可溶性固形物の影響]
発酵前マストの可溶性固形物を調整することは,ワインメーカーがワインのフレーバー・プロファイル(FP)を操作できるツールである.総可溶性固形分(TSS)は,補糖または水の添加により,発酵前に調整されることがあるが,ブドウ園でも,果実を更に成熟させることで変更できる.本研究は,カベルネ・ソーヴィニヨン(CS)とシラー(SY)ワインのFPに対する収穫の成熟度と好みのTSSの影響を示す.各栽培品種からの果実は,3つのおおよその成熟目標で収穫された,即ち20°Brix(未熟),24°Brix(熟した),および28°Brix(過熟)である.各収穫からのマストは最初に分割され,次にTSSは各目標成熟度に一致するよう調整した.例えば,24°Brixの収穫の一部は20または28°Brixに調整された.記述的分析により,CSワイン間で大幅に異なる10個の属性と,SYワイン間で大幅に異なる14個の属性が見出された.CSアロマ・プロファイルには,収穫の熟度が大きく影響し,未熟果実から生産されたワインは緑色の香りが増加し,熟した/過熟の果実から生産されたワインにはジャミーな香りが増加した.CSの発酵前TSSを増やすと,苦味,ホットさ,粘度強度が増し,酸味は減少した.SYワインのFPは,発酵TSSの増加に大きく影響され,収斂性の強度が高くなり,エタノールの香り,ホットな口当たり,ジャミーな果実香,バラの香り,溶剤の香り,エタノールの香り,粘り気のある口当たりが高くなった.SY果実の成熟度は,収斂味と土の香りに大きく影響したが,硫黄,キャベツの香り,苦味については,収穫の成熟度とTSSに相互作用が見られた.
L. Strub, A. Kurth, S.M. Loose:
Effects of Viticultural Mechanization on Working Time Requirements and Production Costs.
pp. 46-55.
[ブドウ栽培の機械化が労働時間と生産コストに及ぼす影響]
ブドウ栽培機械化のための設備と人件の費用を経験的に推定し,ブドウ栽培コストに対する機械化選択肢の相対的な効果を評価することを目的とし本研究を行なった. 3つの主要なブドウ栽培プロセス{①一般的なブドウ栽培管理(樹冠管理,土壌管理および病虫害防除),②収穫,③剪定}の最適な機械化程度を決定する3つの外部要因(①畑の傾斜と畑へのアクセス,②斜面に対する栽植方向,③仕立て・剪定方法)を特定することにより,12種のブドウ園タイプからなる体系的な類型を定めた.生産コストに対する要因とプロセスの影響を推定するために,固定効果と変量効果を使用して,3年間にわたり5つのドイツワイン生産事業者の3400を超える単一労働時間記録の分散を分析した.一般的なブドウ栽培管理の機械化,収穫,剪定はブドウ栽培のコストに大きく影響した.最小限の剪定(minimal pruning)は,機械化された収穫を可能にするブドウ園において58%のコスト削減の可能性を示した.非常に急な斜面は,機械化による補償は限定的であり,最大164%の重大なコスト上の不利益を被った.ブドウ栽培の機械化を強化することにより,ワイン生産者が経済的収益性を改善する機会を特定した.開発された方法論的枠組みは,コスト設定が異なる他のワイン地域や,ブドウ栽培のデジタル化によるビッグデータセットの分析に適用できる.本研究の結果は,ワイン生産者と政策立案者が費用対効果の高いブドウ栽培システムの選択に役立ち,労働強度を比較するための基準となる.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/72/1/56
S. Zimdars, R. C.-Weiffenbach, P. W.-Herr, F. Weber:
Stilbenes Can Impair Malolactic Fermentation with Strains of Oenococcus oeni and Lactobacillus plantarum.
pp. 56-63.
[スチルベンは,Oenococcus oeniおよびLactobacillus plantarumによるMLFを損なう可能性がある]
マロラクティック発酵(MLF)は,脱酸,微生物安定性向上,風味変化によりワイン品質を向上させ,ワイン製造の重要ステップである.ワインのフェノール組成は,MLFに使用される乳酸菌(LAB)の成長と代謝に影響を与える.スチルベンは植物のファイトアレキシンとして真菌病原体に対抗する重要な役割を果たすので,真菌耐性ブドウ品種栽培が増加していることもあり,本研究ではスチルベンがMLFに及ぼす影響を調べた.分析により,ブドウの新梢抽出物であるビネアトロールとスチルベンのε-ビニフェリン,アンペロプシンA,r2-ビニフェリン(vitisin A),r-ビニフェリン(viticin B),および5つのスチルベンの混合物がリンゴ酸の分解を減速させることが示された.これは,部分的には生細胞数減少による可能性がある.ただし,LABの生存率が安定し,同時にリンゴ酸の分解が減少するという発見により示されるように,マロラクティック酵素に対するスチルベンの直接的影響も役割を果たしている可能性がある.これらの結果は,真菌耐性品種などスチルベンが多いブドウから作られたワインは,MLFが遅いか不完全であるリスクが高い可能性を示している.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/72/1/64
J. T. Tian, R.P. Schreiner:
Appropriate Time to Measure Leaf and Stem Water Potential in North-South Oriented, Vertically Shoot-Positioned Vineyards.
pp. 64-72.
[南北方向の垣根に栽植された垂直シュート仕立てのブドウにおける葉と茎の水ポテンシャルの計測に適した時間]
オレゴン州のウィラメット渓谷で,南北方向の垣根に栽植されたシングルカーテン,垂直シュート仕立て(VSP)のブドウを栽培している4箇所のシャルドネとピノ・ノワール園において,ブドウ樹の水分状態の日変化と葉の水ポテンシャル(LWP)と茎の水ポテンシャル(SWP)を計測するための最適な時刻を調査した.LWPとSWPの測定は,2年間に渡り,開花から収穫までの晴天の7日間に行った.暖かい日には,LWPは正午(13時)までに1日の最小値に達し,ブドウ樹が軽度の水ストレス(LWP > -1.20 MPa:7月15日,2018年)よりも中程度の水ストレス(LWP < -1.20 MPa:8月9日,2017年)を経験したとき,長時間にわたり最小値で推移した.しかし,涼しい日には,LWPはストレスのある場合とない場合の両方で,その日の後半(14時から15時)に1日の最小値に達した. SWPは,全ての条件下で1日の後半(14時から16時)にその日の最小レベルに達し,昼前から正午までの間に2回も増加した.従って,正午にSWPを測定すると,南北配向のVSPブドウ樹が経験する最大レベルの水ストレスを常に過小評価することになる.この研究結果は,ブドウ樹が中程度レベルの水ストレス下に置かれる暖かい晴れた日の正午からその後4時間に渡りLWPを決定できることを示している.中程度レベルの水ストレス状態は,灌漑をスケジュールするためのブドウ樹の水分状態を評価する上で最も重要な条件である.SWPは,本研究において南北方向のVSPブドウを用いて試験された全ての条件下では,15時から17時までの2時間で計測する必要がある.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/72/1/73
J. Schoelz, D. Volenberg, M. Adhab, Z. Fang, V. Klassen, C. Spinka, M.A. Rwahnih:
A Survey of Viruses Found in Grapevine Cultivars Grown in Missouri.
pp. 73-84. [ミズーリ州で栽培されるブドウ品種で発見されたウイルスの調査]
[エミリア・ロマーニャ(北イタリア)産ブドウ品種の遺伝的特徴は未調査の遺伝資源を明らかにする]
2017年,ミズーリ州のブドウ園において19種のウイルスについて調査を行った.1サンプルに付き16葉柄(異なる4樹から4葉柄ずつ)とし,25品種から400サンプルを収集した.病斑の有無に関わらず,ブドウ園の区画ごとにランダムにサンプリングした.葉柄から核酸を抽出した後,ウイルス由来のRNAあるいはDNAを検出するためにRT-qPCR(定量RT-PCR)解析を行った.90%のサンプルで少なくとも1種のウイルスが検出された.本調査で最も頻繁に検出されたウイルスはルペストリス・ステム・ピッチングウイルスで,サンプルの59%が感染していた.続いて,リーフロールウイルス3(53%),レッドブロッチウイルス(35%),ブドウEウイルス(31%),リーフロールウイルス2(19%),ブドウBウイルス(17%),フレックウイルス(13.5%),リーフロールウイルス2系統レッドブロッチ(9%),葉脈透明化ウイルス(8%),グレープAウイルス(0.5%),リーフロールウイルス4系統5(0.2%)となった.サンプルの凡そ65%が2種以上のウイルスに罹病しており,最も多いサンプルでは7種のウイルスが感染していた.本調査結果から,ブドウ品種ごとに特定のウイルスの組み合わせで感染するようであり,その組み合わせは多くの場合ブドウ品種特異的であることが示唆された.
S.G. Wilson, J.-J. Lambert, R. Dahlgren:
Compost Application to Degraded Vineyard Soils: Effect on Soil Chemistry, Fertility, and Vine Performance.
pp. 85-93.
[荒廃したブドウ畑の土壌への堆肥施用:土壌の化学的性質,肥沃度,およびブドウの性能への影響]
2年間の実験で,北カリフォルニアの劣化ブドウ畑土壌における土壌の化学的性質,ブドウの栄養状態,ブドウのパフォーマンス,およびブドウ果汁の特性に対する堆肥施用割合の影響を調査した.本調査の目的は,土壌肥沃度を改善する為のブドウ畑マネージメント戦略を特定し,最適な堆肥の散布量を明らかにすることであった.2012年の生育期前に,無作為化された完全ブロック計画を用いて堆肥化された牛糞を3つの割合(11.2, 22.4 と33.6 t/ ha)で施用した.剪定および果実重量は,両年において最も多い施用割合で対照よりも増加した.一方で,ブドウの収量は2年目に対照より著しく増加した.多項式の直交対比は,剪定量,ブドウ収量,および果実重量が2012年において堆肥施用割合の増加に伴い直線的に増加することと,2013年には堆肥の施用割合に伴いブドウ収量と果実重量が直線的かつ二次関数的に増加することを示唆している.窒素,炭素,pH,置換性カリウム,マグネシウムおよびカルシウムと有効リンを含む測定された土壌特性は堆肥施用により増加したが,リン固定は減少した.ブドウ葉柄の栄養素(N,PおよびK)は両年において堆肥施用により有意に増加した.果汁の特性(pH,可溶性固形物量,および滴定酸度)は堆肥施用による影響を受けなかった.同様に,ブドウバランスは堆肥施用による影響を受けなかった.すべてのブドウ樹の測定基準は最も多い施用割合で改善し,土壌の化学的性質は2つの最も高い施用割合で増加した.したがって,劣化ブドウ畑土壌において,堆肥を高い施用割合(22.4および33.6 t/ha)で単回施用することにより,少なくとも2年間は果汁特性およびブドウバランスを損なうことなく土壌肥沃度およびブドウパフォーマンスに対して大きな利益を得ることができる.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/72/1/94
C. Arancibia, E. Malovini, C.B. Agüero, F. Buscema, R. Alonso, M.A. Walker, L.E. Martínez:
Evaluation of Two Phylloxera Genotypes in Argentina on Six Vitis vinifera Cultivars and Three Rootstocks.
pp. 94-100.
[Vitis vinifera 6品種および台木3種を用いたアルゼンチンで発見された2つのフィロキセラ遺伝子型の評価]
植物-昆虫相互作用において宿主選好は個体群動態に影響する重要な要因である.本研究では,切除根を用いた実験法によりアルゼンチンで発見された2つのフィロキセラ遺伝子型(gBおよびgD)をVitis vinifera 6品種(カベルネ・ソーヴィニョン,マルベック,ペドロ・ヒメネス,シャルドネ,チェレーザおよびクリオージャ・グランデ)および台木3種(1103 Paulsen,101-14 MgtおよびSO₄)に感染させた.統計解析により,生存率は品種および経過時間との相関により影響を受け,孵化は品種およびフィロキセラ遺伝子型との相関により影響を受けた.品種は,成虫数,成長時間,生殖率にも影響を及ぼした.gB遺伝子型フィロキセラはgD遺伝子型フィロキセラよりも成長が速かったが,統計学的有意差は認められなかった.主成分分析の結果,ペドロ・ヒメネスおよびクリオージャ・グランデは生殖に関連した変数において近接したグループを形成したことから、これら品種はフィロキセラにもっとも好まれる宿主であることが示唆された.次いでカベルネ・ソーヴィニヨンがフィロキセラに好まれる宿主であった.一方、チェレーザ,マルベックおよびシャルドネはフィロキセラの宿主として適していなかった.台木3種ではフィロキセラのコロニーは形成されなかった.本研究は、アルゼンチンにおけるフィロキセラの生物学的理解の向上を助け,フィロキセラに対する管理法の開発を手助けするであろう.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/72/1/101
R. Yao, G. Kwong, K.V. Miller, D.E. Block:
Prediction of Effective Steam Sterilization Times for Wine Barrels Using a Mathematical Modeling Approach.
pp. 101-105.( Research Notes)
[数学的モデルによるワイン用樽の効果的な蒸気滅菌時間の予想]
オーク樽はワインやビール、蒸留酒の香りや色付けの目的で良く用いられている.しかし、微生物が木部に入り込み、洗浄や殺菌を困難にしている.これにより、その後に樽を使用した場合、望ましくない微生物の増殖につながる.蒸気処理中の樽板への熱浸透および関連する微生物の熱不活性化率に関する情報はほとんどない.そこで,熱伝達とアレニウス型の細胞死の動力学を取り入れることで,木製のバレルを蒸気滅菌するときの微生物の死滅率を予測するための数学的モデルを構築した.まず,このモデルを使用して,蒸した表面からの距離と蒸した時間の関数として樽板の温度プロファイルを予測した.次に,板の0.8 cmでの微生物の熱不活化(板へのワインの最大侵入深さ)を評価して,生細胞の5対数減少値(1/105に減らす)を達成するために必要な時間を計算した.このアプローチを使用して,Brettanomyces bruxellensis,Saccharomyces cerevisiae,およびLeuconostoc mesenteroidesに必要な滅菌時間は,それぞれ9分,12分,および200分であることがわかった.この結果は、ワインメーカーがワインの主要な微生物の成長と汚染を防ぐ為,樽を蒸気滅菌する時間を決定するのに役立つ.
英文要旨原文 http://www.ajevonline.org/content/72/1/106
D.N. Ebbenga, E.C. Burkness, M.D. Clark, W.D. Hutchison:
Risk of Spotted-Wing Drosophila Injury and Associated Increases in Acetic Acid in Minnesota Winegrapes.
pp. 106-112.
[ミネソタ州のワイン用ブドウにおけるオウトウショウジョウバエによる傷害リスクとそれに関連した酢酸の増加]
オウトウショウジョウバエ(Drosophila suzukii Matsumura)はミネソタ州に侵入した種で、2012年に初めて記録された.侵入以後、オウトウショウジョウバエはワイン用ブドウを含む液果および核果類の主たる害虫になった.極めて多産であり世代交代が短いため,オウトウショウジョウバエは短期間で北アメリカやヨーロッパで繁栄し,拡散した.2017年から2019年に渡り,ミネソタ州におけるオウトウショウジョウバエによる傷害リスクを明らかにする為,およびミネソタ州の耐寒性ワイン用ブドウ品種から得た果汁およびワイン中の酢酸量を評価する為,研究室および圃場での試験を行った.2017年および2018年の傷害リスク評価は,健全なブドウ果実への直接的な傷害リスクは低いことが示された.しかしながら,ワインメーカーはオウトウショウジョウバエの発生が果実腐敗を促進する酢酸生成菌(例えば,Acetobacter spp.)を増加させる潜在的リスクであることを懸念している.2017年および2019年の試験結果により,オウトウショウジョウバエが増えると,テストしたブドウ品種では酢酸量が統計学的に有意に増加することが示された.しかし,オウトウショウジョウバエの発生法を改変した2018年の試験では,酢酸量に統計学的有意差は認められなかった.本研究成果は,オウトウショウジョウバエに対する総合的病害虫管理法を向上するという目的の中で議論されるであろう.